「年間休日を120日に増やしました」「資格手当も家族手当もつけました」「それなのに、応募が1件も来ないんです」。採用のご相談で、こうした声を本当によくいただきます。福利厚生を厚くすれば応募は増えるはず──多くの会社がそう信じています。
しかし、リクプル編集部が数百件の求人を見てきて確信していることがあります。求職者は求人の条件を「足し算」で見ていません。「足切り」で見ています。そして給与、特に下限額は、その足切りの最初の関門です。ここを越えられない求人は、他の魅力が読まれる前に落とされます。
「足し算」の発想が通用しない理由
採用する側は、つい条件を足し算で考えます。「給与は普通、でも休日が多い、手当も厚い。トータルで見れば魅力的なはずだ」と。しかし求職者の求人の見方は、これとはまったく違います。
求職者は数十件の求人を一覧画面で流し見しながら、まず「これは検討する価値があるか」を数秒で足切りしています。このとき最初に目に入るのが給与です。同じ職種・同じエリアの求人が並ぶ中で、下限額が他社より明らかに低ければ、その時点で一覧から外される。詳細ページは開かれず、せっかく用意した年間休日も手当も、読まれることすらありません。
つまり福利厚生は「足切りを通過した後」に効いてくる要素であって、足切りラインそのものを引き上げる力は弱いのです。順番が逆になっている求人が、非常に多く見受けられます。
給与下限が相場を割ると、応募が「ゼロ」になる職種がある
この足切りの効果が特にはっきり出るのが、給与相場が求職者の間で広く共有されている職種です。代表例がドライバー職です。
支援の現場で繰り返し確認してきた経験則として、ドライバー職では年間休日を125日と手厚くしても、月給の下限が相場ラインを割っていると応募がほぼゼロになるという傾向があります。中型で月26万円、大型で月30万円といった水準が、求職者の中で「これを下回る求人は見ない」という足切りラインとして機能している感覚です。休日で釣ろうとしても、給与の関門で止まってしまうのです。
これはドライバー職に限りません。経験者が多く、相場観が業界内で共有されている職種ほど、給与下限の足切りは強く働きます。「休日を増やせば給与の低さを補える」という発想が通用しにくい領域です。
足切りの「強さ」は職種によって変わる
ここで一つ補足が必要です。給与の足切りは、すべての職種で同じ強さで働くわけではありません。相場観がどれだけ共有されているかで、足切りの厳しさは変わります。
ドライバーや施工管理のように、経験者が多く、同業内で「この職種ならこれくらい」という相場が広く共有されている職種では、給与下限の足切りは非常に強く働きます。求職者は相場を知っているので、それを下回った瞬間に候補から外します。
一方、未経験からスタートする職種や、そもそも人によって給与の幅が大きい職種では、求職者側の相場観が定まっていないぶん、給与以外の要素(仕事内容の魅力、教育体制、働き方)が足切りを通過させる余地が広くなります。つまり「給与を盛らずに勝負できる余地」がどれだけあるかは、職種の相場共有度で決まるということです。自社の職種がどちら寄りかを見極めることが、打ち手を選ぶ出発点になります。
幅広い給与レンジは「下限」で読まれる
もう一つ、足切りに直結する落とし穴があります。給与を「月給25万〜45万円」のように幅広いレンジで書くケースです。
採用側は上限の45万円を見てほしいと考えがちですが、求職者は基本的に下限で読みます。上限は「一部の人が長期的に到達する天井」と受け取られ、足切りの判断は下限額でなされます。下限を低く見せた幅広いレンジは、実質的に「下限の低い求人」として扱われてしまうのです。競合と比較する物差しは、レンジの中央でも上限でもなく、下限だと考えておくのが安全です。
下限を上げられないときの、現実的な3つの打ち手
「相場に届く給与を出せれば苦労しない」というのが現場の本音でしょう。予算の制約で下限を上げられないことは当然あります。そのときにやるべきことは、給与以外の「足切り軸」で上位に入ることです。
- 1. 別の足切り軸で明確に勝つ:給与で勝てないなら、勤務地の近さ・残業の少なさ・完全週休二日・夜勤なしなど、求職者が二番目に足切りに使う条件で、競合を明確に上回る。中途半端に全部そこそこ、が一番刺さりません
- 2. ターゲットを絞って相場そのものを変える:全員に向けた求人では相場が高くなります。未経験可・ブランク可・時短可など、対象を絞ると、その層にとっての相場ラインは下がり、同じ給与でも足切りを通過しやすくなります
- 3. 給与の「見せ方」を正す:手取りと額面、固定残業の内訳、賞与込みの年収など、実態は競合並みなのに書き方で安く見えている求人は少なくありません。相場に届いているなら、届いて見える書き方に直すだけで足切りを越えられます
いずれも「給与を上げずに足切りを通過する」ための工夫です。逆に言えば、これらを尽くしても応募が動かない場合は、給与そのものが相場から外れているサインであり、金額の再検討が必要になります。
まずやること:競合5〜10件の「下限」を並べる
自社の求人が足切りラインを越えているかどうかは、感覚では分かりません。確認方法はシンプルです。同じ職種・同じ通勤圏の競合求人を5〜10件検索し、給与の下限額だけを一覧に並べる。そこに自社の下限を置いてみて、下位に沈んでいれば、休日や手当を足す前にまず給与の関門を疑うべきです。
この一手間をかけるだけで、「なぜ応募が来ないのか分からない」という状態から、「給与の足切りで落ちているのか、それとも通過した先で負けているのか」を切り分けられるようになります。
まとめ
- 求職者は条件を「足し算」でなく「足切り」で見ている。給与下限は最初の関門
- 福利厚生は足切りを通過した後に効く要素で、足切りラインを引き上げる力は弱い
- 相場が共有された職種(例:ドライバー職)は、休日を厚くしても給与下限が相場を割ると応募がゼロになりやすい
- 幅広い給与レンジは下限で読まれる。競合比較の物差しは「下限額」
- 下限を上げられないなら、別の足切り軸で勝つ・ターゲットを絞る・見せ方を正すの3択
- まずは競合5〜10件の給与下限を並べ、自社が関門を越えているか確認する