「地方の中小企業だから、知名度で負ける」「都市部の会社と同じ媒体に出しても埋もれる」。地方で採用を担当されている方から、こうした声を本当によく伺います。
ただ、採用支援の現場で地方案件を積み重ねてきた実感と、地方特化の求人媒体そのものの設計をお手伝いした経験から言えることがあります。地方の中小企業が都市部の企業に勝てる土俵は「掲載面の勝負」ではなく、「待たずに直接声をかけられる接点をどれだけ持っているか」です。同じ掲載枠を買って待つ限り、規模と知名度がそのまま順位になります。勝負の土俵を変える必要があります。
地方の求人媒体を「選ぶ理由」は、掲載面ではなかった
ある地方特化の求人媒体の機能設計をお手伝いした際、先行して成功している同種の地域媒体(沖縄発の地方媒体が代表例です)の導入企業が、なぜその媒体を選んだのかを整理しました。
結果は明快でした。選定理由は掲載面のデザインでも、掲載料金の安さでもありません。「地元の転職希望者のデータベースに、自社から直接スカウトを打てる」という一点に集中していたのです。掲載枠の売り方ではなく、この一言が導入を決めていました。
これは媒体側の話ですが、採用する企業側にとっても示唆は同じです。地方で効いているのは「良い枠に出す」ことではなく「こちらから会いに行けること」だという事実が、媒体の選ばれ方に表れています。
「待つ採用」で都市部と同じ土俵に立つと、構造的に負ける
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年4月分)」によると、全職種計の有効求人倍率は1.18倍(季節調整値)です。職業別に見ると差はさらに大きく、建築・土木・測量技術者は約6倍に達します(出典: 厚生労働省 一般職業紹介状況(令和8年4月分)。有効求人倍率は毎月変動するため、実際の判断には最新月の数値をご確認ください)。
1人の求職者を6社で取り合う職種で、「求人を出して待つ」だけの戦い方をすれば、認知度と条件で上回る企業に順番を譲ることになります。地方の中小企業が不利なのは知名度そのものではなく、知名度が効く土俵(待ちの掲載)でしか戦っていないことです。
関連して、地方採用の難しさの正体を「母集団」ではなく「設計」の問題として整理した記事もあわせてご覧ください(地方採用が難しい本当の理由は「母集団」ではなく「設計」)。
地方の中小企業だけが持てる「一次接点」を棚卸しする
都市部の大手企業が持ちにくく、地方の中小企業が持ちやすい接点があります。支援の現場で、実際に採用につながった経路として繰り返し出てくるのは次の3つです。
- 既存社員の縁故・地元のつながり: 「知っている人がいる会社」は、地方では知名度の代替になります
- 取引先・地域コミュニティ: 同業・関連業種との人の流れは、都市部より濃く短い傾向があります
- 過去の応募者・不採用者のリスト: 一度接点を持った人は、条件が変われば再び動きます。ここを資産として残していない企業が非常に多いのが実情です
この3つは、広告費では買えません。だからこそ、資本力の差がそのまま出ない土俵になります。求人広告を出す前に、まずこの棚卸しから始めることをおすすめしています。
「その地域で働きたい人」は、地域内に住んでいる人だけではない
地方採用で母集団を痩せさせる典型が、対象者を「県内在住者」で定義してしまうことです。正しくは「その地域で働きたい転職希望者」で、ここにはUターン・Iターン・移住希望の県外在住者が含まれます。
実際、地方企業の求人には県外からの応募が一定数含まれます。地方媒体の設計をお手伝いした際も、対象者定義を居住地ではなく「就業希望地」に置き換えることを最初の要件に据えました。「県外からの移住希望者にも会える」ことは、地域内だけを見ている競合に対する明確な差になるからです。
自社の求人でも同じで、勤務地の見せ方・引越し/住居に関する記載の有無で、この層に届くかどうかが変わります。地方採用の成功事例に共通する設計はこちらの記事で整理しています。
媒体は「打ちに行けるか」で選び、KPIは応募数の手前に置く
以上を踏まえると、地方の中小企業の媒体選びの基準はシンプルになります。掲載面の見栄えではなく、「こちらからアプローチできる機能があるか」です。スカウト機能付きのサービス、人材データベース、地域媒体の企業管理画面などが該当します(機能・料金は執筆時点の情報であり、各サービスの最新条件はご確認ください)。
そしてもうひとつ重要なのがKPIの置き方です。スカウト型の施策で最初から「採用決定数」を追うと、立ち上がりに数字が出ず、施策ごと失敗と判定されてしまいます。地方媒体の機能設計でも、KPIを採用決定数に置かないことを最初に合意しました。先に見るべき指標は次の通りです。
- 接点の数(アプローチできる候補者の母数)
- スカウト送信数と返信率
- 返信からの面談化率
採用決定数は、これらの後からついてくる従属指標です。順番を守れているかどうかが、地方採用の成否をかなりの部分で決めています。
まとめ
- 地方の中小企業が都市部に勝てる土俵は、掲載面の勝負ではなく「待たない接点」
- 地方媒体が選ばれる理由も、掲載枠ではなく「直接スカウトを打てること」に集中していた
- 有効求人倍率が高い職種ほど、待ちの掲載は知名度勝負になり不利になる
- 広告費で買えない一次接点(社員の縁故/取引先・地域/過去応募者)をまず棚卸しする
- 対象者は「在住者」ではなく「その地域で働きたい人」。Uターン・移住希望層を外さない
- KPIは採用決定数の手前——接点数・返信率・面談化率から見る