「地方だから人がいない」「そもそも母集団が少ないから採れない」──地方の採用がうまくいかないとき、多くの会社がこの結論にたどり着きます。人口が減っているのだから仕方がない、と。
ですが、リクプル編集部が全国の地方企業の採用を支援してきた経験から言うと、地方採用の難しさの大半は「母集団の絶対数」ではなく「設計」の問題です。その証拠に、同じ地域・同じ職種でも、採れる会社と採れない会社にはっきり分かれます。人口が同じなら、差は母集団ではなく設計にあるということです。この記事では、地方採用でつまずく会社が見直すべき4つの設計を解説します。
「母集団が少ないから」は半分だけ正しい
最初に公平を期すと、母集団の話が完全に的外れなわけではありません。採用の難易度は、求人を出す前から職種と地域である程度決まっています。有効求人倍率が高い職種を人口の少ない地域で募集すれば、当然難しくなります(この事前の難易度診断は「有効求人倍率で採用難易度を診断する」で解説しています)。
しかし、それは「勝負の前提条件」であって「勝敗」ではありません。同じ町の同じ職種で、A社には応募が来てB社には来ない。この差は母集団では説明できません。母集団は動かせなくても、次の4つの設計は自分でコントロールできます。地方採用が難しいと感じている会社ほど、この4つのどこかに“自分で母集団を狭めている”ポイントが隠れています。
設計1:通勤圏を「距離」ではなく「電車片道時間」で引く
地方採用でまず見直したいのが、通勤圏の引き方です。多くの会社が「車で30分圏内」のように距離感覚で母集団を想定しますが、これが母集団を自分で狭めている最大の原因になっていることがあります。
支援の現場では、通勤圏は距離ではなく公共交通での片道時間(おおむね60〜90分)で考えます。地方でも鉄道沿線であれば、片道1時間は十分に通勤圏です。「地元の人だけ」と暗黙に想定していた母集団を、隣接エリアや沿線の求職者まで広げるだけで、母集団は数倍になることがあります。「人がいない」のではなく、探す範囲を狭く引きすぎているケースは少なくありません。
具体的には、求人の配信エリアや、求人票に書く勤務地の見せ方を見直します。最寄り駅からの所要時間や、車通勤なら無料駐車場の有無まで明記するだけで、「自分でも通えるかもしれない」と感じる求職者の範囲が変わります。母集団は人口だけで決まるのではなく、「自分が候補に入る」と求職者が思える範囲で決まる、という発想の転換が第一歩です。
設計2:給与は「都市部」ではなく「地元相場の下限」と比べる
次に効くのが給与の設計です。ここで陥りやすいのが、都市部の高い相場を見て「うちの地方では出せない」と諦めてしまうこと。比べる相手が違います。求職者が比較しているのは東京の求人ではなく、同じ地域の同業他社です。
そして求職者は待遇を足し算ではなく「足切り」で見るため、給与レンジの下限が地元相場を割った瞬間、他の魅力が読まれる前に候補から外れます(この仕組みは「給与が相場を足切りした求人」で詳しく書きました)。逆に言えば、都市部と張り合う必要はなく、地元相場の下限をきちんと超えていれば土俵には乗れます。地方だからと過度に低く設定するのも、都市部を見て諦めるのも、どちらも設計ミスです。
設計3:「ここで働く自分」を実写と地元の言葉で見せる
地方採用でありがちなのが、都会的なテンプレートの求人ページや、素材集のようなきれいすぎる写真を使ってしまうことです。一見それらしく見えますが、地方の求職者にはむしろ“自分ごと”に感じられず逆効果になることがあります。
効くのは、実際の職場・実際に働く社員を写した写真と、地元の生活感に沿った言葉です。通勤の負担が少ない、地元に腰を据えて働ける、家族との時間が取りやすい──こうした地方ならではの価値は、都市部の求人には書けない強みです。求職者が「この職場で働く自分」を具体的に想像できるかどうかが、応募のハードルを大きく左右します。
設計4:応募数を追わない。1人採れれば勝ち
最後は、そもそもの成否の測り方です。地方採用で「応募が2件しかなかった」と落ち込む会社は多いですが、募集枠が1〜2名なら、それは失敗ではなく設計通りのこともあります。
実際、ある地方のリフォーム会社では、経験・ミッション・数字を求人に具体的に明記して応募のハードルをあえて上げ、応募2件から同業の即戦力を1名採用しました。求人広告費は20万円ほど。人材紹介に頼れば数倍のコストがかかる採用です。応募数と決定率はしばしば逆相関し、条件を絞った求人は「応募は少ないが決まる」状態になります(応募数と決定率の逆相関を参照)。母集団が限られる地方こそ、応募件数ではなく採用に至った人数を指標に置くべきです。
地方採用の成功事例に共通する3つの設計
「地方 採用 成功事例」を探すと華やかな施策が並びがちですが、支援の現場で実際に成果が出た事例に共通していたのは、地味な設計の積み重ねでした。
- 通勤圏を沿線・時間で広く引き、母集団を自分で狭めない
- 給与下限を地元相場に合わせて土俵に乗り、都市部とは張り合わない
- 実写と地元の言葉で「ここで働く自分」を具体的に見せ、応募数ではなく決定率で評価する
どれも人口を増やす話ではありません。母集団という動かせないものを嘆く前に、動かせる設計を一つずつ整える。それが地方採用で都市部に負けないための、最も再現性の高い道筋です。
まとめ
- 地方採用の難しさの大半は「母集団の絶対数」ではなく「設計」の問題。同じ地域・同じ職種でも採れる会社と採れない会社に分かれる
- 通勤圏は距離でなく電車片道60〜90分で引く。狭く引くほど自分で母集団を狭めている
- 給与は都市部でなく地元相場の下限と比べる。下限を割ると足切りされる
- 実写と地元の言葉で「ここで働く自分」を見せる。都会的テンプレは逆効果になりうる
- 募集枠が少ないなら応募2件は設計通り。成否は応募数でなく採用人数で測る
自社の地方採用が難しいと感じたら、母集団を嘆く前に、この4つの設計のどこに“自分で狭めているポイント”があるかを確認してみてください。