気になる求人に「転勤の可能性あり」と書いてあった。全国転勤なのか、引っ越しが必要なのか、それとも形だけなのか──。反対に「転勤なし」と書いてあったのに、入社後に別の拠点へ異動になった、という話を聞いて不安になった人もいるはずです。「求人票 転勤なし 嘘」「求人票 転勤 当面なし」といった検索が並んでいるのは、そのためでしょう。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業の採用を支援し、求人票を作る側にいます。その立場から先に結論を言うと、求人票の転勤欄は「引っ越しがあるかどうか」を書く欄ではありません。「最初に配属される場所以外で働く可能性があるか」を書く欄です。だから「あり」「なし」の一文字より、どこまで動く可能性があるかという「範囲」を見る必要があります。
「転勤の可能性あり」は、転居を伴わない異動も含む
ハローワークの求人票には「転勤の可能性」という独立した欄があります。企業向けの入力案内では、この欄について「将来の配置転換などの雇入れ直後の就業場所と異なる就業場所へ配置される(求職者の転居を伴わないものを含む)可能性の有無を選択してください」と説明しています(ハローワーク「求人情報の入力方法について」)。
つまり、隣の駅の店舗に移る可能性があるだけでも「あり」になります。「あり」を選んだ場合は「転勤範囲」欄に異動先を入れ、支店や営業所のどこにでも配属されうる場合は「会社の定める場所」と入力するよう案内されています(同ページ)。
求人を作る現場では、近くの店舗へ応援に行くことがある、将来ほかの営業所に移るかもしれない、という程度でも「あり」にしておく判断がよくあります。あとで「書いていなかった」と言われるより、慎重側に倒しておくほうが安全だからです。「転勤の可能性あり」を見ただけで、全国を転々とする仕事だと決めつける必要はありません。
2024年4月から、求人には「変更の範囲」を書くことになった
転勤の読み方を大きく変えたのが、2024年4月の改正職業安定法施行規則です。求人企業が求職者に明示しなければならない労働条件に、「就業場所の変更の範囲」と「従事すべき業務の変更の範囲」が加わりました(厚生労働省「職業安定法施行規則改正|労働条件明示等」)。
厚生労働省の求職者向けリーフレットは、「変更の範囲」を「将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲」と説明し、次のような記載例を載せています(厚生労働省「労働条件明示のルールが変わります(求職者の皆さまへ)」)。
- 就業場所(雇入れ直後)大阪支社/(変更の範囲)本社および全国の支社、営業所
- 就業場所(雇入れ直後)渋谷営業所/(変更の範囲)都内23区内の営業所
どちらも「転勤の可能性あり」ですが、暮らしへの影響はまったく違います。前者は転居を伴う異動がありえますし、後者は通勤先が変わる程度です。同じ「あり」の中身を分けているのが、この「変更の範囲」の一行です。
「転勤なし」が実態とずれやすい3つの場所
では「転勤なし」は信じていいのか。求人を作る側から見ると、ずれが起きやすい場所はおおむね決まっています。
① 求人サイトの「転勤なし」タグ
民間の求人サイトにある「転勤なし」は、多くの場合、絞り込み検索に引っかけるためのタグです。支援の現場の実感では、タグは原稿の打ち合わせで深く議論されないまま付くことがあり、本文の就業場所欄とかみ合っていない求人も見かけます。タグより、本文の「就業場所」と「変更の範囲」の記載を優先して読んでください。
② 「当面なし」「原則なし」という書き方
「転勤は当面なし」は、いまは予定がないという意味であって、範囲を約束した言葉ではありません。厚生労働省のQ&Aは、「今後の見込み」について、募集の時点で想定されうるもので足り、具体的に想定されていないものまで含める必要はないとしています(厚生労働省「令和5年 改正職業安定法施行規則Q&A」)。新しい拠点ができる、事業を再編するといった変化が後から起きれば、状況が変わることはありえます。
③ 契約社員などの有期契約
同じQ&Aは、有期契約の「変更の範囲」はその契約期間中の範囲を指し、更新後の契約期間中に命じる可能性がある変更は含まれないとしています。1年契約の求人で「転勤なし」とあっても、それは最初の1年の話です。更新のたびに条件を確かめる必要があります。
データで見る「転勤あり」の求人
リクプルが独自に実査した施工管理の求人11,731件では、転勤ありの求人は1,442件(約12%)でした。基本給の中央値は、全体で見ると転勤ありが22.0万円、転勤なしが23.4万円で、転勤ありのほうが低く出ます。ところが1級施工管理技士が必須の求人だけで比べると、転勤ありが29.7万円、転勤なしが26.0万円と向きが逆になりました(施工管理の給料相場)。
「転勤がある代わりに給料が高い」とは単純には言えない、ということです。転勤の有無だけで有利・不利を判断せず、求められる経験や資格がそろった条件どうしで比べるのが安全です。
応募前と面接で確認する方法
転勤欄は、求人票の中でも面接で聞き直しやすい項目です。次の順番で確かめてみてください。
- 求人票の「転勤範囲」、または募集要項の「就業場所(変更の範囲)」を探す。「会社の定める場所」とだけある場合は、範囲に限定がないと読みます
- 面接で「就業場所の変更の範囲は、具体的にどの地域まででしょうか」と聞く。2024年4月以降は求人側が明示する事項なので、聞いて失礼になる質問ではありません
- 「この職種で、ここ数年に勤務地が変わった方はどのくらいいますか。転居を伴う異動はありましたか」と実績を聞く。「当面なし」の中身は、規定より実績のほうがよく分かります
- 内定後は労働条件通知書の就業場所欄を、求人票と見比べる。契約を結ぶときの明示にも同じ「変更の範囲」が加わっています
なお「転勤を断れるか」は、契約の内容や就業規則、個別の事情で判断が分かれます。入社後に困ったときは、労働局の総合労働相談コーナーや専門家に相談してください。
就業場所の欄の読み方は、求人票の従業員数と就業場所の関係を解説した記事もあわせて読むと理解が深まります。実際に働く人がどこで、どんな動き方をしているかを確かめたい方は、リクプルのインタビュー記事もご覧ください。
まとめ
- 求人票の「転勤の可能性あり」は、転居を伴わない近くの拠点への異動も含む。作る側は慎重側に倒して「あり」にすることが多い
- 2024年4月から、求人には「就業場所の変更の範囲」の明示が必要になった。同じ「あり」でも、範囲の一行で暮らしへの影響が分かる
- 「転勤なし」がずれやすいのは、求人サイトのタグ、「当面なし」という書き方、有期契約の更新後の3か所
- 施工管理の実査では転勤ありは約12%。転勤ありが高給とは限らない
- 面接では「変更の範囲の具体的な地域」と「実際に勤務地が変わった人の実績」を聞き、内定後は労働条件通知書と見比べる