応募しようとしている会社の離職率を知りたい。でも検索しても出てこない。口コミサイトには数字ではなく感想しか書かれていない──そんな行き止まりに突き当たったことはありませんか。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。企業の方と「御社は人がどのくらい辞めていますか」という話を、仕事として何度もしてきました。この記事では、その立場から見た「離職率という数字の実際」をお伝えします。
先に結論を2段構えで。離職率に近い情報を調べる手段は会社の種類によって3通りに分かれます。そして、たとえ数字が手に入っても会社どうしで「%」を比べることはほぼできません。定義が揃っていないからです。だから求人を作る現場では、離職率という単一の%ではなく別のものを見ています。順に説明します。
調べ方は3通り。それぞれの限界も一緒に
①上場企業なら「平均勤続年数」が公開されている
応募先が上場企業なら、いちばん確実です。有価証券報告書の「従業員の状況」に、従業員数・平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与が載っています。金融庁のEDINETで誰でも無料で読めますし、就職四季報の数字も元をたどればここです。
ただし落とし穴があります。平均勤続年数が短い=人が辞めている、とは限りません。急に人を増やしている会社では、入ったばかりの人が分母に加わるため、誰も辞めていなくても数字は下がります。必ず従業員数の推移とセットで見てください。増えながら勤続年数が短い会社と、横ばいなのに短い会社は、まったく別の状態です。
②上場していなくても、公表制度に載っている会社がある
ここが意外と知られていません。厚生労働省が運営する職場情報総合サイト「しょくばらぼ」では、企業ごとの平均勤続年数・平均年齢・有給休暇取得率・残業時間・中途採用比率などを検索して比較できます。掲載は約15万社で、中小企業も含まれます。
もうひとつ、女性の活躍推進企業データベース(同じく厚生労働省)があります。女性活躍推進法にもとづく情報公表の仕組みで、常時雇用する労働者が101人以上の企業には公表義務があります(公表する項目数は企業規模で異なります)。項目に「男女の平均継続勤務年数の差異」が含まれるため、勤続の長さを読み取れる場合があります。介護や保育のように、事業所単位の情報公表制度がある分野もあります。
これらは「載っている会社は載っている」という性質のもので、応募先が必ず見つかるとは限りません。それでも、検索して出てこなかったときに初めて「この会社は調べようがない」と判断できます。諦める前に、ここまでは試す価値があります。
③新卒枠の募集なら、企業に情報提供を求められる
若者雇用促進法にもとづき、新卒者等の募集を行う企業は、応募者などから求めがあった場合に職場情報を提供することになっています。情報は「募集・採用に関する状況」「職業能力の開発・向上に関する状況」「職場定着に関する状況」の3類型に整理され、新卒者等の採用者数・離職者数はこの項目のひとつです。ただし対象は新卒者等の募集で、中途採用の応募には及びません。適用範囲の詳細は、お住まいの地域のハローワークで確認できます。
内幕: 会社自身が、自社の離職率を正確に持っていない
採用の打ち合わせで「御社の離職率はどのくらいですか」と聞くと、即答できる会社は多くありません。ごまかしているのではなく、本当に集計していないのです。理由は単純で、離職率の出し方が1つに決まっていないからです。
- 分母をどこに取るか──期首の在籍者数か、期中の平均在籍者数か。人が増えている会社では、これだけで数字が変わります
- 誰を数えるか──正社員だけか、パート・契約社員を含むか。非正規の比率が高い職場では、含めるかどうかで数字が倍近く動くことがあります
- 何を「離職」とするか──定年退職、契約期間の満了、育休からの復職なし、グループ会社への転籍。数えるかどうかで、また変わります
つまり、A社の「離職率5%」とB社の「離職率12%」を並べても、同じものを測った数字とは限りません。だから私たちは企業に「離職率は?」ではなく「この職種で、いま在籍している人はそれぞれ何年目ですか」と聞きます。定義に左右されない事実が返ってくるからです。
誤読しやすいサイン: 「経験不問が多い=人が辞めている」ではない
離職率を推測するとき、多くの方が「未経験歓迎ばかりの求人は、人が定着していない証拠では」と考えます。ここは実際の求人データで確かめられます。
私たちは求人相場ウォッチで、媒体を公的職業紹介ひとつに固定し、全国47都道府県から同じ条件(正社員・月給)の求人票を集めています。電気工事士の実査(2026年8月・644件)では、実務経験を不問としている求人が349件で全体の54%。資格を必須とせず「不問・歓迎」としている求人も451件(70%)ありました。
特定の会社が人手不足なのではなく、この職種では「未経験で入って社内で育てる」が募集の主流だということです。同じ実査では、実務経験必須の119件が月給下限の中央値25.0万円、経験不問の349件が21.0万円と、経験の有無で条件がはっきり分かれていました。経験不問の枠が多いのは、離職の多さではなく職種の採用構造の反映です。「求人が長く出ていること」も同じで、その多くは掲載の仕組みや需給の問題です(詳しくは「求人がずっと出てる会社」は危ない?で書きました)。
代わりに見る: 待遇欄は「入口に効くもの」と「続けて効くもの」に分かれる
では、求人を作る側は何を見ているのか。職場の定着を推し量るときに見るのは、待遇・福利厚生欄に並んでいる項目の「種類」です。大きく2つに分かれます。
- 入口に効くもの──入社祝い金、日払い・週払い、即日勤務可、寮完備、面接1回、履歴書不要
- 続けて効くもの──退職金制度、資格取得支援、住宅手当、家族手当、永年勤続表彰、階層別の研修制度
どちらが良い・悪いという話ではありません。入口に効く待遇は、今すぐ働き始めたい人にとって本当に価値があります。見るべきはバランスのほうです。
求人を作る現場の実感として、続けて効く制度は「長く働いている人が実際にいる会社」でないと社内に生まれにくいものです。退職金規程は在籍年数が積み上がって初めて意味を持ちますし、階層別研修は上のポジションに人が育っていないと作れません。入口に効く項目だけが並び、続けて効く項目がひとつもない求人票は、その会社が「入ってもらうこと」に採用の重心を置いているサインとして読めます。
ただしこれは確率の話で、証拠ではありません。設立から日が浅い会社では、単に制度が整っていないだけのこともあります。求人票から読めるのは仮説までで、確かめるのは次のステップです。
実践: 応募前と面接で確かめる3ステップ
1. 社名で3つのサイトを引く(応募前・5分)
「しょくばらぼ」で社名を検索し、平均勤続年数と有給休暇取得率を見ます。101人以上の規模なら「女性の活躍推進企業データベース」、上場企業ならEDINETで有価証券報告書の「従業員の状況」も開きます。3つとも空振りだったという事実そのものが情報で、その場合は面接で聞くしかないと判断できます。
2. 求人票の待遇欄を2列に分ける(応募前)
書かれている項目を「入口に効くもの」「続けて効くもの」に振り分けてみてください。片側だけに偏っていたら、面接で聞く質問がそこから決まります。
3. 面接では「%」ではなく「年数」を聞く
聞き方を選べば失礼になりません。むしろ、よく調べている応募者と受け取られます。
- 「この職種で、いちばん長く在籍されている方は何年目ですか」──定義に左右されない事実が返ってきます。答えが「3年目」なら、それが会社の歴史なのか入れ替わりなのかを続けて聞けます
- 「退職金制度は、何年目から支給の対象になりますか」──「退職金あり」と書かれた制度が実際に運用されているかを確かめる質問です。年数がすぐ出てくる会社は規程が生きています
- 「資格取得支援を、直近で使われた方はいらっしゃいますか」──制度が動いているかを、いちばん角を立てずに確認できる聞き方です
3つとも、答えにくい質問に見えて、実際には多くの会社が普通に答えます。言葉を濁されたなら、その反応自体が情報です。求人票の読み方全般については求人票で本当に見るべき3行もあわせてご覧ください。
離職率という数字は、あれば参考になりますが、無くても職場は判断できます。判断できるのは「その会社が、自社のことをどれだけ具体的に説明できるか」のほうです。リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、実際にそこで働く人のインタビューと募集要項をセットで掲載しています。%ではなく、そこで何年働いている人が何を話すかから職場を確かめたい方は、掲載中のインタビュー記事をご覧ください。
まとめ
- 調べ方は3通り。①上場企業は有価証券報告書の平均勤続年数 ②「しょくばらぼ」「女性の活躍推進企業データベース」などの公表制度 ③新卒枠なら若者雇用促進法にもとづく情報提供(中途には及ばない)
- 平均勤続年数は従業員数の推移とセットで読む。人を増やしている会社では、誰も辞めていなくても短く出る
- %は会社どうしで比較できない。分母の取り方・非正規を含むか・定年や契約満了を数えるかで動き、会社自身が正確に持っていないことも多い
- 「経験不問の求人が多い=定着が悪い」は誤読。電気工事士の実査644件では54%が経験不問で、これは職種の採用構造
- 待遇欄は「入口に効くもの」と「続けて効くもの」に分けて読む。続けて効く制度は、長く働く人がいる会社にしか生まれにくい
- 面接では%ではなく年数を聞く。最長在籍年数/退職金の支給対象年数/資格取得支援の直近の利用者