求人票を開くと、月給、賞与、年間休日、必要な資格、仕事内容……と項目がずらりと並びます。「全部大事です」と言われても、何十件も見比べているうちにどこを見ていたのか分からなくなる。転職活動でいちばん消耗するのがこの作業です。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。加えて2026年7月から、実際に出ている求人票を手作業で開いて集計する「求人相場ウォッチ」を続けてきました。介護職・施工管理・営業・事務・看護師・保育士・整備士・電気工事士の8職種、合計1,136件です。
1件ずつ開いた副産物として「求人票のどの行が金額を説明していて、どの行が説明していなかったか」がはっきり出ました。目立つ項目の多くは月給の額をまったく説明せず、逆に地味な行がよく説明した——3行に絞れるのは、その線引きがきれいに出たからです。
1行目|月給の「内訳」。同じ月給24万円でも中身は職種で違う
最優先は月給の額そのものではなくその額の内訳です。求人票では「基本給」「毎月定額で支払われる手当」「固定残業代」が分けて書かれていることがあります。職種ごとに提示額とその内訳の基本給を突き合わせた結果がこちらです。
- 看護師: 内訳が読めた104件で、基本給は提示額の中央値86%。同額の求人は104件中0件、最も乖離した求人では51%
- 保育士: 127件で中央値87%。同額は10件(8%)だけ
- 整備士: 78件で97%。固定残業代のない69件では29件が完全に同額
- 電気工事士: 126件全件で内訳が読め98%。58件(46%)が完全に同額
つまり「月給24万円」という同じ表記でも、職種によって中身がまったく違います。看護師や保育士では資格手当・処遇改善手当が月給に積まれるのが標準で、月給24万円の実態が基本給20万円ということが普通に起きる。電気工事士や整備士では月給欄はほぼそのまま基本給と読めます。
ここが最優先なのは、賞与・退職金・残業の割増単価を基本給基準で計算する会社が多いからです(賞与「実績」と「規定」の違い)。
固定残業代が入っていればさらに直接的です。整備士では記載がある16件の月給下限が25.0万円、記載のない73件が21.0万円と信頼区間が分離し、内訳が読めた9件では提示額25.0万円に対し基本給21.0万円。差額の中央値5.0万円はまるごと残業代でした(想定時間数は中央値31時間・最長45時間。固定残業代の読み方)。
2行目|レンジの「下限」。上限は経験でほとんど動かなかった
2行目は月給レンジの下限です。「25万円〜38万円」なら、25万円のほうを見てください。
上限を軽視するのには実測の根拠があります。電気工事士126件で上限額の中央値を経験要件別に出すと、実務経験が必須の求人(29件)で35.5万円、未経験可(87件)で35.0万円とほぼ同額でした。同じデータで下限は経験必須25.0万円・未経験可21.0〜22.0万円と分かれます。下限は経験で分かれるのに、上限はどちらにも同じ額が置かれているのです。求人を作る現場の実感としても、上限は最も高い在籍者を想定した数字で、中途入社の入口としてはまず出ません。
もうひとつ、看護師の実査で数多く見られた書き方があります。「月給21万〜34万円」の下限が准看護師、上限が正看護師という、資格の違う2つの募集を1本のレンジに畳んだ求人票です。この場合、自分の資格に対応する額はレンジの片側だけです(給与レンジの内幕はこちら)。
3行目|「必要な経験」。資格より経験のほうが月給欄に出る
3行目は応募条件欄の中でも「必要な実務経験」です。資格欄ではありません。
電気工事士は業務独占資格の職種ですが、第二種以上を必須とする40件の月給下限の中央値22.0万円に対し、資格不問・歓迎の83件も22.0万円で完全に同じでした。地域ごとに分け直しても高い側が入れ替わり、差の中央値は0.0万円です。「資格を持っていれば相場が上がるはず」は月給欄では成立していませんでした。
代わりに効いていたのが経験です。資格要件を揃えて経験の有無だけで比べると、第二種以上必須の中では経験必須25.0万円に対し未経験可21.0万円、資格不問の中でも25.0万円に対し22.0万円と、どちらの資格群でも同じ向きに開きました。逆に経験を揃えると資格の差は消えます。最も低い組み合わせは「資格は必須だが実務は未経験可」の21.0万円でした。誠実に付け加えると信頼区間は重なっており差の大きさは確定していません。言えるのは向きが一貫していることです。
つまり資格は応募できる求人の幅を広げるものと考え、月給を押し上げる材料としては経験年数を見る。未経験で入るなら、入口の月給で数万円を比べるより「何の仕事をどれだけ経験させてもらえるか」で選ぶほうが、数年後の下限が変わります。
注意点|月給に見えて月給ではない求人と、金額の判断に使えなかった行
ハローワークをはじめとする求人検索の一覧画面は、時給制・日給制の求人も月額に換算して表示します。一覧を眺めているとそれが高額の求人として目に入る。電気工事士の実査でも詳細を開いて確認した結果、5ブロック合計で60件以上(大半が日給制)を除外しました。見分け方はひとつ、詳細画面の「賃金形態等」が「月給」か確認する。日給の求人には「基本給は日給×21.1日で算出」といった注記が入ります。
あわせて、実査で「金額の判断材料にはならなかった」行を2つ。見なくていいのではなく、月給の高低を説明しないという意味です。
ひとつは年間休日。電気工事士では75日から130日まで開いていましたが、105日未満・105〜119日がいずれも22.0万円、120日以上が23.0万円で信頼区間はすべて重なりました。「休みが少ない代わりに月給が高い」は月給欄に現れていません。金額と切り離した独立の条件として確認してください。もうひとつは施設区分・業態・工種。保育士の施設区分も整備士のディーラーと整備工場も、全体では差があるように見えてその区分の求人がどの地域から多く採れたかの反映で、地域を揃えると縮むか逆転しました。
この3行を1分で確認する手順と、面接での聞き方
手順に落とすと、求人票1件あたり1分で終わります。
- 賃金形態が「月給」か確認する(日給・時給の月額換算をここで外す)
- 内訳を探して基本給をメモする。固定残業代があれば金額と想定時間数をセットで見る
- レンジの下限だけを転記する。上限は「その水準の人が社内にいる」という情報として脇に置く
- 必要な実務経験の年数を見る。年間休日は金額とは独立の列としてメモする
求人票に内訳が書かれていなければ、面接で聞くことになります。失礼にならない聞き方は、金額そのものではなく構造を聞くことです。
- 「この月給には、どのような手当が含まれていますか」——最も自然に内訳を引き出せます。看護師・保育士のように手当が月給に積まれる職種では特に有効です
- 「賞与は基本給の何ヶ月分で計算されますか」——基本給の額を直接聞かずに、基本給が効く場面を確認できます
- 「固定残業代の時間数と、それを超えた分の扱いを教えてください」——採用側でも想定内の質問です
タイミングは選考が進んだ段階(2次面接以降や条件面談)が無難です。そしてここで曖昧な答えしか返ってこない会社は、入社後の評価制度も曖昧なことが多い——これは求人を作る現場の実感です。答えの中身と同じくらい、答え方を見てください。なお固定残業代の設定が実態と合っているかといった法律上の判断は扱いません。気になる場合は労働基準監督署や専門家にご相談ください。
求人票から読み取れないこと——実際の残業、任される範囲、職場の空気——は、働く人の話を聞くのが確実です。リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、インタビューと募集要項をセットで掲載しています(掲載中のインタビュー記事)。
まとめ
- 1行目は月給の「内訳」。基本給は提示額の86%(看護師)〜98%(電気工事士)と職種差が大きく、同じ月給でも中身が違う
- 2行目はレンジの「下限」。上限額は経験必須35.5万円・未経験可35.0万円とほぼ同額で、経験では動かない数字だった
- 3行目は「必要な実務経験」。電気工事士では資格要件で月給下限が動かず(22.0万円で一致)、経験のほうが月給欄に現れた
- 一覧の「月給」は日給・時給の月額換算が混ざる。賃金形態が「月給」かを先に確認する
- 年間休日と業態・施設区分は月給の高低を説明しなかった。金額とは独立の条件として見る
- 内訳が書かれていなければ、面接で「この月給にはどのような手当が含まれますか」と構造を聞く