「近隣の運送会社と月給は並べた。それでもドライバーの応募が来ない」──ドライバーの採用方法や採用媒体を調べる前に、一度立ち止まって確認したいことがあります。求職者は、同業の運送会社だけと比べているのでしょうか。
リクプル編集部は求人相場ウォッチで、トラックドライバー(大型・中型・準中型・普通/正社員)の求人12,405件を実査しています。今回はこの求人を「運送・物流会社が出している求人」と「製造・卸売・建設などの会社が自社で雇うドライバーの求人(荷主企業の自社便)」に分けて比べました。結果は、月給の額面は運送会社が高いのに、内訳の基本給は自社便のほうが2.3万円高いというものでした。採用の競合は、隣の運送会社だけではない可能性があります。
12,405件を、運送会社と自社便に分けてみた
実査の対象は、全国47都道府県の公的職業紹介に出ているトラックドライバーの正社員求人です(2026年9月14日時点・名寄せ後12,405件)。この媒体は賃金欄が「基本給」「定額的に支払われる手当」「固定残業代」に分かれているため、12,405件すべてで、求人票に出ている月給と内訳の基本給を同じ求人どうしで対応させられました。
事業者の種類は、求人票の「産業分類」欄から機械的に分けています。貨物自動車運送業・倉庫業・利用運送業などを「運送・物流会社」、それ以外を「荷主企業の自社便」としました。
- 運送・物流会社のドライバー:9,078件
- 荷主企業の自社便(製造・卸売・建設などの会社が自社で雇うドライバー):3,327件
つまり、公的職業紹介に出ている正社員ドライバー求人の4件に1件強(26.8%)は、運送会社ではない会社の求人です。ドライバーを探す人の画面には、この2種類が同じ一覧に並びます。
額面は運送会社が1.44万円高い。基本給は自社便が2.30万円高い
求人票に出ている月給(基本給+定額手当+固定残業代)の下限の中央値は、次のとおりでした。
- 運送・物流会社:25.0万円
- 荷主企業の自社便:23.6万円(差は1.44万円・95%信頼区間1.00〜1.76万円)
運送会社のほうが高く見えます。ところが、同じ求人の内訳にある基本給の中央値で並べ直すと順位が入れ替わります。
- 荷主企業の自社便:21.1万円
- 運送・物流会社:18.8万円(自社便より2.30万円低い・信頼区間−2.80〜−2.07万円)
この逆転は、5つの地域ブロックすべてで同じ向きに出ました。基本給の差も、車格(大型・中型・準中型・普通)の4区分すべてで確認できています。
疑われそうな点も確かめています。自社便にはダンプ・生コン車の求人が多く、建設系が44.7%を占めます(運送・物流会社は5.6%)。そこで建設系を除いて比べ直すと、基本給は運送・物流会社18.7万円に対し自社便21.0万円。近距離・ルート配送に揃えても19.0万円対21.0万円で、差は残りました。構成の違いだけでは説明できない差です。
逆転の中身は、月給に積まれた手当の厚さの違い
なぜ、額面と基本給で順位が逆になるのか。提示額と基本給の関係を比べると、中身が見えてきます。
- 提示額と基本給が完全に同額の求人:自社便51.5%、運送・物流会社31.5%
- 提示額と基本給の差額の中央値:自社便0円、運送・物流会社4.63万円
自社便の求人は、半数が「月給=基本給」で出ています。運送会社の求人は、月給のうち4.6万円前後が基本給以外(運行手当・走行距離手当・固定残業代など)です。同じ25万円前後の月給でも、自社便は基本給で払い、運送会社は基本給を抑えて手当を乗せる形が多いということです。
あわせて、他の条件も自社便のほうが上でした。
- 賞与の記載がある求人:自社便91.9%、運送・物流会社82.6%
- 年間休日の中央値:自社便110日、運送・物流会社107日
ドライバー全体で見ると、基本給は提示額の中央値88%で、12,405件のうち52%が9割を切り、30%は7割も切ります。運送会社の月給欄の厚みは、この「基本給が低く手当が厚い」構造の裏返しです。なお、手当が走った分や積んだ分に連動するものであれば、荷動きが落ちた月の収入は下がり得ます。求人票の数字だけでは、その幅は分かりません。
求職者がどちらを見ているかは、このデータからは言えない
ここで線を引いておきます。今回のデータは求人票に書かれている数字の比較であり、求職者が基本給で比べているかどうかを示すものではありません。
参考になる公的調査はあります。厚生労働省「令和7年転職者実態調査」では、自己都合で前の勤め先を辞めた転職者が挙げた理由のうち、「賃金が低かったから」は25.5%で最も多い回答でした(3つまでの複数回答。出典: 厚生労働省 令和7(2025)年 転職者実態調査)。賃金が転職のきっかけになる人は少なくない、ということです。ただしこの調査は、賃金が「基本給」なのか「手当を含めた総額」なのかまでは聞いていません。
支援の現場では、求人票の月給の額面で一覧を絞る人が多い一方、面接や条件確認の段階で「基本給はいくらか」「手当は毎月必ず出るのか」を尋ねられる傾向があります。額面で勝っていても、内訳を見られた時点で、自社便の求人と並べて見られる場面があり得るということです。これは経験則であり、今回の実査で検証した数字ではありません。
ドライバー採用の媒体と方法を決める前に、確認する3点
採用媒体や採用方法を選ぶ前に、自社の求人票で次の3点を確認してください。
- 自社の月給欄を、基本給・定額手当・固定残業代に分けて書き出す。そのうえで、同じ地域・同じ車格の求人を、運送会社と自社便の両方から3件ずつ開き、基本給と手当の内訳を並べる。額面だけで「勝っている」と判断しない
- 手当が「毎月必ず出る額」なのか、「走った分だけ出る額」なのかを原稿に書く。運行手当に幅がある場合は、下限額と、その額になる条件を書く。基本給が低いことを隠すのではなく、手当の中身を説明できる状態にする
- 賞与と年間休日を、月給と同じ並びで書く。自社便は賞与の記載が9割を超え、年間休日も3日多い。比べられたとき、記載がないだけで不利に見えるのは避けたい(記載がないことと、賞与がないことは同じではありません)
媒体選びの順序も変わります。先に原稿の内訳を整えてから、掲載する媒体を決めるのが先です。内訳が読める公的職業紹介のような媒体では、基本給の低さが一覧のすぐ先で見えてしまいます。一方で、転職者が転職活動に使う方法はハローワーク等の公的機関が29.6%、求人サイト・求人情報専門誌等が45.1%(令和7年・複数回答。同じ厚生労働省の調査)で、複数の経路を併用する人が多い状況です。媒体ごとに見える情報が違う以上、どの媒体でも内訳に答えられる原稿にしておくほうが、媒体の選び方に左右されません。
金額面の足切りについては、ドライバー採用は年間休日より「給与下限」で決まる。応募が来ない求人の共通点に書きました。額面と基本給のずれそのものはトラックドライバーの採用で、月給を額面のまま競合と比べてはいけないで扱っています。内訳を原稿に書く際の考え方は求人票の手当は月給を上げない。実査1.6万件でわかった基本給の削られ方もあわせてご覧ください。
この数字の読み方と限界
- 事業者の分類は、産業分類欄からの機械判定です。多角化している法人では、産業分類と実際の業務がずれることがあります
- 実査は公的職業紹介1媒体に固定しています(全国47都道府県から同じように採れて、給与の内訳が読める媒体が他になかったため)。民間の求人サイトの求人は含まれません。執筆時点では、民間媒体に自社便の求人がどれだけあるかは確認していません
- 集計は月給の下限のみです。賞与・歩合の実支給額、無事故手当や燃費手当の実績、残業代の実支給額は含んでいないため、年収や手取りの比較にはそのまま使えません
- 賞与・年間休日は求人票の記載どおりで、記載がない求人の実態は分かりません
まとめ
- トラックドライバーの求人12,405件を事業者の種類で分けると、運送・物流会社9,078件・荷主企業の自社便3,327件(26.8%)
- 月給の額面は運送会社25.0万円、自社便23.6万円で運送会社が1.44万円高い。しかし内訳の基本給は運送会社18.8万円、自社便21.1万円で、自社便が2.30万円高い。5地域ブロックすべて・建設系を除いても・近距離に揃えても逆転は残った
- 自社便は半数(51.5%)が月給=基本給で出ている。運送会社は月給と基本給の差額の中央値が4.63万円。賞与の記載は91.9%対82.6%、年間休日の中央値は110日対107日
- 求職者が基本給で比べているかは、このデータからは言えない。ただし求人票の内訳が読まれる場面では、自社便と並べて見られる可能性がある
- 媒体や採用方法を決める前に、①月給の内訳を書き出して自社便と並べる ②手当の条件を原稿に書く ③賞与・年間休日を月給と同じ並びで書く
まずは自社の求人票を開き、月給のうち何円が基本給かを書き出してみてください。その数字を、近隣の自社便の求人と並べるところから始めるのが確実です。