「近隣の運送会社が月給28万円で出しているので、うちも28万円に合わせた。それでも応募が来ない」──トラックドライバーの採用でよく聞く話です。金額を合わせたはずなのに反応が変わらない。多くの会社が、次は年間休日や手当を足す方向へ進みます。
リクプル編集部は求人相場ウォッチで、トラックドライバー(大型・中型・準中型/正社員)の求人136件を1件ずつ実査しました。全国5つの地域ブロックから、給与の内訳まで読める公的職業紹介の求人票に媒体を固定して採取したデータです。分かったのは、そもそも求人票に出ている月給が、比較に使える数字ではなかったということでした。提示額の中央値25.0万円に対し、同じ求人の内訳にある基本給は18.5万円。基本給は提示額の中央値84%で、これは私たちが実査した10職種の中で最も低い水準です(溶接工100%・整備士97%・保育士87%・看護師86%)。この記事では、競合の月給をどう読み解き、自社の求人原稿で何を先に整えるべきかを実査データから整理します。
提示額25.0万円に対し、基本給18.5万円。しかも二極化している
今回の媒体は賃金欄が「基本給(a)」「定額的に支払われる手当(b)」「固定残業代(c)」に分かれているため、136件すべてで同じ求人の内訳まで取れました(判別不能による除外はゼロ件)。
- 求人票に出ている提示額(a+b)の中央値:25.0万円
- その内訳にある基本給(a)の中央値:18.5万円
- 136件のうち75件(55%)で基本給は提示額の9割を切り、55件(40%)は7割も切る
最も差が大きい求人では、提示28.0万円に対して基本給4.0万円(14%)でした。差を生んでいる手当は、運行手当・走行距離手当・作業手当といった走った分・積んだ分に連動するものが中心です。
ただし全部の求人がそうなのではありません。定額手当も固定残業代もない48件(35%)は、提示額と基本給が完全に同額(どちらも25.0万円)でした。一方で定額手当のある66件は、提示24.0万円に対し基本給16.5万円です。同じ「月給25万円」でも中身が正反対の求人が、同じ画面に並んでいるということです。冒頭の「競合が28万円だからうちも28万円」は、この二極を無視した比較になっています。
月給を動かしているのは免許ではなく、走る距離だった
では、何が月給の額を決めているのか。実査でいちばん大きく効いていたのは運ぶ距離でした。
- 長距離(県外・泊まりを伴う):28.0万円(36件・信頼区間27.0〜31.5万円)
- 近距離・ルート配送(地場):23.0万円(67件・信頼区間22.0〜24.5万円)
信頼区間が重なりません。この差は大型免許が必須の68件だけに絞って車格を揃えても残り(長距離29.5万円 vs 近距離24.0万円)、5つの地域ブロックすべてで同じ向きに出ました。上限額で見ると39.5万円対27.0万円とさらに開きます。
ところが、その高さの中身は基本給ではありません。長距離の基本給は17.5万円で、近距離の19.5万円より低いのです。提示額と基本給の差額は長距離12.0万円に対し近距離2.0万円、基本給が提示額に占める割合は長距離59%・近距離91%でした。長距離の月給の高さは、ほぼ全額が走行に連動する手当です。
含意は2つです。1つは競合と比べるなら距離区分を揃えること。地場配送の自社求人を長距離の求人と額面で比べれば必ず5万円負けますが、それは条件が悪いのではなく別の商品を比べているだけです。もう1つは、その5万円は「毎月必ず出る額」ではないという点です。荷動きが落ちた月にどうなるかまで説明できるかが、入社後の定着に効いてきます。
大型免許を必須にしても、上がるのは基本給ではない
「大型免許必須にすれば給与を上げられる(=その分いい人が採れる)」という考え方も、実査データでは支持されませんでした。車格別の月給下限は次のとおりです。
- 大型自動車免許が必須:26.0万円(68件)
- 普通免許のみで応募できる:24.0万円(18件)
- 中型・準中型が必須:23.5万円(48件)
全国プールでは信頼区間が重なるものの、5つの地域ブロックすべてで大型のほうが高く、順序は安定しています。ところが同じ求人の内訳にある基本給で並べ直すと、順位が入れ替わります。
- 普通免許のみ:19.0万円 / 中型・準中型:19.0万円 / 大型:18.0万円(最下位)
基本給が提示額に占める割合も、大型80%・中型88%・普通94%と、車格が上がるほど手当の比率が高くなります。大型免許で上がっているのは基本給ではなく、それに乗る手当の額です。
経験要件も同じでした。経験の要件がない83件が25.0万円、実務経験が必須の19件も25.0万円、「あれば尚可」の34件が24.0万円で、経験で月給下限が上がる形にはなっていません(車格を揃えると向きも揃いません)。応募条件を厳しくするのは、この職種では給与の競争力ではなく応募できる人数だけを動かす操作だと考えたほうが実態に合います。
「うちの地域は相場が安い」が、いちばん通用しない職種
地域差は、実査した職種の中で最も小さいものでした。5ブロックすべての信頼区間が重なり、順位は1つも確定していません。最も高いのは関西・東海26.5万円で、首都圏25.5万円は2位です。件数の多い近距離・ルート配送67件だけに絞って距離区分を揃えると、22.5万円〜24.5万円の範囲にほぼ平らに並びます。
他職種では、こうはなりません。同じ方法で実査した溶接工では首都圏24.5万円と北海道・東北19.0万円が信頼区間も重ならず、業種を揃えても順位が動きませんでした(地域差の読み方は「地方の求人倍率は「低いから採りやすい」と早合点しない」に整理しています)。トラックドライバーでは「地方だから安く出しても許される」という前提が、市場のデータ上は成立していません。
求人原稿で、金額より先に整える3点
ここまでを踏まえると、原稿でやることは金額の書き換えではありません。実査から見えた優先順位は次の3つです。
1. 月給の内訳を自分から書く
基本給がいくらで、手当がいくらか。ここを書いていない求人が民間の媒体では大半です(同じ相場ウォッチの事務職の実査では、内訳を取得できた割合が公的職業紹介80%に対し民間の求人サイトは4%でした)。額面の3割以上が走行連動の手当という求人が並ぶ市場では、内訳を開示すること自体が差別化になります。とくに自社が「額面=基本給」型なら、書かないまま同じ25万円として並ぶのは損です。
2. 固定残業代は「額」より「時間数」
固定残業代の記載があるのは136件中22件(16.2%)ですが、時間数が読み取れた19件の中央値は33時間、最長60時間で、30時間以上が12件ありました。これは実査した職種の中で最も長い水準です(整備士は中央値31時間、溶接工25時間、保育士12時間)。自社が45時間分を設定しているなら、それは「その時間まで働いて初めて提示額に届く」という宣言です。書かずに額だけ大きく見せると、入社後の齟齬になります。
3. 月給制であることを、わざわざ明記する
実査で求人票を開いた正社員求人599件のうち、100件(16.7%)が月給ではなく、大半が日給制でした(中国・四国・九州では26.9%)。求人検索の一覧はこれらも月額に換算して表示するため、画面上は月給求人と見分けがつきません。求職者はこの混在を経験的に知っているので、「月給制(欠勤・荷動きによる減額なし)」と書くだけで、同じ25万円の説得力が変わります。
それでも、下限が相場ラインを割っていないかは別途見る
ここまで比較の話をしてきましたが、比較の前提としてドライバーの求職者が月給レンジの「下限」だけを見て足切りしているという行動は変わりません(詳しくは「ドライバー採用は年間休日より「給与下限」で決まる」に書きました)。支援の現場では、中型で月給下限26万円・大型で30万円を割ると反応が鈍る、という目安を置いています。
ここで1つ、注意しておきたいことがあります。今回の実査の中央値(大型26.0万円・中型23.5万円)は、この目安と同じか下です。中央値は市場の真ん中であって、応募が来るラインではありません。「相場の中央値に合わせた」という状態は、反応が鈍る側の半分に入っている可能性があるということです。
なお今回の実査は媒体を公的職業紹介1つに固定しています(5ブロックすべてから同数を採れて給与の内訳が読める媒体が他になかったためです)。この数字は公的職業紹介に出ている求人層の相場であり、民間媒体の高収入帯は含まれていません。目安との差には、この媒体差も含まれていると考えてください。
自動車運転の職業は有効求人倍率が全職種平均を大きく上回る高倍率の職業群で(全職種計は1.18倍・令和8年6月分の季節調整値。出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」。毎月変動します)、売り手市場である以上、最初のフィルタである下限の重みは大きいままです。
まとめ
- トラックドライバーの求人136件の実査では、提示額25.0万円に対し内訳の基本給は18.5万円(中央値84%)。実査10職種で最も乖離が大きい
- ただし二極化している。定額手当も固定残業代もない48件(35%)は額面=基本給、定額手当あり66件は提示24.0万円に対し基本給16.5万円
- 月給を動かしているのは免許ではなく距離。長距離28.0万円 vs 近距離23.0万円(信頼区間は重ならず・車格を揃えても残る)。ただし長距離の基本給は17.5万円で近距離19.5万円より低く、差はほぼ全額が走行連動手当
- 大型免許必須は提示額26.0万円で中型23.5万円より高いが、基本給で並べ直すと大型18.0万円が最下位。免許で上がるのは手当。経験要件でも下限は動いていない
- 地域差は実査職種で最小(5ブロックすべて信頼区間が重複・最上位は関西東海)。「地方だから安くてよい」は市場データ上成立しない
- 原稿で先に整えるのは金額でなく、①月給の内訳 ②固定残業代の時間数(19件の中央値33時間・最長60時間) ③月給制であることの明記(開いた599件の16.7%が日給等)
まずは自社の求人票の月給欄を開いて、その額のうち何円が基本給かを書き出してみてください。競合と比べるのは、その数字が出てからで間に合います。