幹部・管理職ポジションの募集条件を詰めていくと、経営者から必ずと言っていいほど同じ2つの質問が来ます。
- 「上に報告する義務がある=指揮命令系統にいるということだが、それでも管理監督者になるのか」
- 「執行役員待遇だと明確にしておけば、時間外手当の対象外にできるのか」
結論から書きます。①報告義務は否定材料になりません。②肩書きや「執行役員待遇」という位置づけだけでは決まりません。そして採用支援の現場で使っている実務上の目安はもう1つあって、いちばん強い裏づけになるのは「現場の人の採用・配置を、その人の裁量で決められるか」です。
この記事では、株式会社KD3が幹部採用の要件定義でこの論点をどう詰めているかを、厚生労働省が示している判断基準に沿って整理します。あわせて、求人票には「書かない」という選択肢がないという、採用支援側から見たときのいちばん実務的な事実まで扱います。
「報告する立場」と「管理監督者」は両立する
まず1問目から。取締役でも取締役会に報告します。経営者と一体的な立場にある管理職も上位者へ報告します。判断されているのは「指揮命令があるかどうか」ではなく、「経営者と一体的な立場にあり、自分の裁量で動けているか」です。報告義務があること自体は、管理監督者性を否定しません。
否定されるのは、次のような状態です。この4つをそのまま経営者に見せると、話が早く進みます。
- 出退勤の時刻を管理され、遅刻・早退で給与を控除される
- シフトに組み込まれ、自分の裁量で勤務時間を決められない
- 部下の採用や配置について権限がない
- 待遇が一般の社員と大きく変わらない
2問目の「執行役員待遇なら対象外にできるか」も同じ話です。執行役員という位置づけは、経営者と一体的な立場であることを裏づける材料の1つにはなります。ただし決め手は実際に権限を持っているかであって、呼び方ではありません。取締役にするか執行役員にするかという整理そのものは「管理職・幹部の採用が難しいとき、「取締役」という募集条件を疑う」で扱いました。
判定の軸は3つ。しかも肩書きは入っていない
労働基準法41条2号の管理監督者について、厚生労働省は「役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します」と明記しています(出典: 厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」)。同じ資料が挙げている判断の柱を整理すると、実務上は次の3軸になります。
- ①経営者と一体的な立場で、重要な職務内容と責任・権限を持っているか ── 統括する範囲や、事業の縮小・撤退を提案できるといった具体的な権限を1つ挙げられるかで確認します
- ②勤務時間について裁量があるか ── 厳格な時間管理を受けていないこと。「現場に常駐はするが、シフトには組み込まれない」で足ります
- ③地位にふさわしい待遇を受けているか ── 社内のマネージャー層の年収と比べて上回っているか、という言い方が実務では通じます
この資料には、肩書きについての踏み込んだ記述もあります。「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するに過ぎないような者は、管理監督者とは言えない——という趣旨です。肩書きだけで管理監督者性が否定された裁判例(日本マクドナルド事件・東京地裁 平成20年1月28日判決/店長職)もあります。
いちばん強い裏づけは「現場スタッフの採用権限」
ここが、実務でいちばん使える部分です。厚生労働省の同じ資料は、多店舗展開する小売業・飲食業などの店長について管理監督者性を判断する要素を列挙していますが、その先頭に置かれているのが採用です。
資料の表現では、店舗に所属するアルバイト・パート等の採用に関する責任と権限が実質的にない場合が、管理監督者性を否定する「重要な要素」とされています。解雇や人事考課についても同様に挙げられています。つまり、管理監督者かどうかを外から確かめるとき、いちばん見られているのは人事権を実際に持っているかです。
これは採用支援の実務にそのまま返ってきます。要件定義の打合せで、「現場スタッフの採用・シフト設計・配置転換を、そのポジションの裁量で行う」という一文を取れているかどうか。取れていれば、それがそのまま①の根拠になります。取れていなければ、後の工程——求人票の記載、条件提示、入社後の運用——がすべて不安定になります。
支援の現場では、この一文が決まっていない状態のまま「執行役員待遇・時間外手当なし」で募集を出そうとしている相談が少なくありません。権限の話を先に詰めておくと、条件面の議論がその場で片づきます。
運用で崩れないための3点
要件が整理できても、入社後の運用で崩れることがあります。ここまで詰めるのが採用支援側の仕事だと考えています。
- 出退勤を時間で管理し、遅刻・早退で控除する運用はしない。これをすると②が崩れます。ただし厚生労働省の資料は、健康障害の防止や深夜業の割増賃金の支払いという観点から行う労働時間の把握・管理は、管理監督者性を否定する要素にはならないと明記しています。把握はするが、時間で拘束はしないという運用になります
- 深夜割増(22時〜翌5時)は支払う。管理監督者であっても深夜業の割増賃金は必要で、年次有給休暇も一般の労働者と同様に与える必要があります(前掲の同資料に明記)。クライアントの賃金規程にただし書きとして既に定められていることが多いので、規程の該当条番号を引いて確認します
- 長時間労働そのものを放置しない。管理監督者にも健康確保の措置が必要になる場合があります
この3点は、募集を始める前に賃金規程・就業規則を取り寄せておけば、その場で確認できます。事前に取り寄せる資料の一覧は「定着率向上の取り組みは、入社前に確定させた6項目で半分決まる」にまとめました。
求人票には「書かない」という選択肢がない
最後に、採用支援側から見たときのいちばん実務的な事実です。
固定残業代(みなし残業代)の制度を採っている場合、求人票や募集要項には、①固定残業代を除いた基本給の額 ②固定残業代の金額と何時間分か ③想定時間を超えた分は追加で支払う旨、の3点をすべて明示することが求められます(出典: 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに次の①〜③の内容すべてを明示してください」/執筆時点の運用)。
つまり、時間外の扱いについて求人票を無記載で通すことはできません。取り得る書き方は2つに絞られます。
- 管理監督者として整理する ── 「管理監督者のため時間外手当の対象外」と記載する。前述の3軸を実態として満たしていることが前提です
- 安全側に倒す ── 固定残業代として扱い、「月給◯◯万円(うち固定残業代◯万円/月◯時間分を含む)」と時間数と金額を明記する
どちらを選ぶかは、肩書きではなく実態で決まります。3軸を満たしていないのに前者を書くと、求人票が「実態と違う条件の明示」になります。入社後に指摘されれば時間外・休日の割増賃金の支払いが必要になり、採用そのものが会社のリスクになってしまいます。判断に迷う場合は、後者を選んで時間数と金額を明記するほうが、求人票としても実務としても安全です。
なお、ここは労務の論点そのものです。実際に条件を確定させるときは、必ず顧問社労士に確認したうえで進めてください。この記事で扱っているのは、社労士に相談する前に、採用側が何を確認しておくべきかという段階の話です。
まとめ
- 「報告義務がある」ことは管理監督者性を否定しない。見られているのは指揮命令の有無ではなく、自分の裁量で動けているか
- 判定は①経営者と一体的な立場と権限 ②勤務時間の裁量 ③地位にふさわしい待遇の3軸。肩書きは判断材料に入っていない
- いちばん強い裏づけは現場スタッフの採用・配置の権限。厚生労働省の資料でも、採用権限が実質的にないことは管理監督者性を否定する「重要な要素」とされている
- 運用では遅刻・早退での控除をしない/深夜割増と年次有給休暇は与える/健康確保のための労働時間の把握は行う。把握はするが時間では拘束しない
- 求人票は無記載にできない。「管理監督者のため対象外」と書くか、固定残業代として時間数と金額を明記するかの2択。実態が3軸を満たさないなら後者を選ぶ
株式会社KD3では、幹部・管理職の募集を、雇用形態と権限の整理から求人原稿まで一本の流れとしてご支援しています。条件面が固まらず募集を止めている場合は、権限の棚卸しからご相談ください。