応募が来ないとき、私たちは原因の候補を挙げて順番に潰していきます。給与レンジが相場を割っていないか、仕事内容が抽象的でないか、写真が素材写真になっていないか、職種と媒体が合っているか——このアプローチ自体は有効で、「応募が来ない求人の5つの原因」でも整理しています。
ただし、この方法には弱点が1つあります。直したあとで応募が増えても、どれが効いたのか分からないことです。広告の管理画面が教えてくれるのは、表示・クリック・応募フォーム到達までで、読んだ人がどこで手を止めたかは数字になりません。
そこで株式会社KD3では、求人を読んだ求職者に「応募するか・しないか」とその理由を本音で返してもらう仕組み(リクプルボイス)を作り、実際の採用案件で回し始めました。この記事は、その初回で分かったことの共有です。結論を先に書くと、応募が取れたことよりも「なぜ応募をためらったか」が原文で取れたことのほうが、価値が大きいというのが率直な感想です。
10人に配って返ってきたのは2件。ただし2件が同じ2点を挙げた
初回の対象は、ある医療機関の看護師求人です。条件に合う10名(通勤圏内7名・圏外3名)に求人を読んでもらい、アンケートを返してもらいました。
- 配信:10名
- 回答:2件(回答率20%)
- うち応募(連絡先の開示)に進んだ人:1件。配信当日でした
- 残り1件は匿名回答のまま
母集団10名から当日1件です。スカウトの母数を積む発想ではなく、少数に読ませて反応を取る発想で成立しているのが、この仕組みの性格だと考えています。
そして注目したのは応募数ではなく回答の中身でした。「最も引っかかった点」の選択肢で、2人が同じものを選び、自由記述でも同じ2点を書いてきました。n=2なので法則と呼べる数ではありませんが、全数一致です。少なくとも「原稿のどこに穴があるか」の当たりをつけるには十分でした。
指摘①:働き方の実態が、原稿のどこにも書かれていない
1点目は夜勤の情報が原稿にないことでした。体制(2交代か3交代か)、月の回数、手当の額、当日のタイムスケジュール——このいずれも書かれていませんでした。
看護師の求人でこれが起きるのには理由があります。夜勤手当は月給レンジの外側、「その他の手当」欄に置かれることが多く、月給欄を埋めても夜勤の話は原稿に登場しない構造になっているからです。実際、私たちが看護師の求人を実査した際も、提示されている月給と基本給が大きく乖離する職種であることが確認できています(「看護師の採用が難しいのは、月給が実額とズレる職種だから」)。
これは看護師に限りません。シフト制・交代制・夜間帯のある職種すべてで、同じ欠落が起きます。製造の交代勤務、施設警備、ドライバーの拘束時間、飲食の閉店作業——採用側は「業界では当たり前」と思って書かず、求職者は「書いていない=聞きにくい」と受け取ります。募集要項は転職者が採用サイトで最も見たい情報の1位(51.1%)です(出典: ベイジ「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」)。最も読まれる欄に、いちばん知りたい条件が入っていない状態でした。
指摘②:モデル年収が、上の等級のものしか載っていない
2点目はモデル年収が副主任・主任クラスのものしか掲載されていないことでした。応募を検討していたのは経験数年の層で、その人たちにとって「自分がいくらもらえるのか」が原稿から読み取れません。
モデル年収を載せるとき、採用側は無意識に高い数字を選びがちです。求人が見劣りしないようにという判断ですが、読み手が自分を当てはめられない数字は、判断材料としては存在しないのと同じでした。むしろ「自分はここには当てはまらない」という理由で離脱する材料になります。
入社前の不安の2位は「希望の収入が維持されるか」(37.35%/同上調査)です。年収の不安は、金額の高さではなく“自分の場合いくらか”が分からないことで生まれます。実務としては、モデル年収を1本ではなく等級・経験年数ごとに複数出す(例:入職3年目/5年目/主任)だけで、この指摘はほぼ潰せます。
同時に「効いている訴求」の答え合わせもできる
見落とされがちですが、アンケートは欠落だけでなく評価された点も返してきます。今回、良いと評価されたのは給与・年間休日・残業の少なさ・住宅手当の4つでした。
これは事前に立てていた訴求軸と一致していました。つまりアンケートは「訴求軸が合っているかの答え合わせ」と「原稿の欠落リスト」を同時に返すということです。前者が取れると、直すべきでない箇所を触らずに済みます。応募が来ないときに原稿を全面的に書き換えると、効いていた訴求まで消してしまうことがあり、これは実務でよく起きる事故です。
なお、応募数を増やす前にそもそも増やしていい局面かを判定する話は「応募を増やす前に、増やしていい状態かを判定する」に整理しています。この記事の方法は、その判定で「原稿に問題がありそう」と出たときの次の一手にあたります。
応募していない層と、匿名のまま話せる
もう1つ、運用してみて効いたのがこの点です。回答者は連絡先を開示していなくても、匿名のままメッセージのやり取りができます。管理画面には匿名IDが並び、引っかかった点と応募したい条件が原文で残ります。
採用の現場で、この層と話せる機会はほとんどありません。応募してくれた人の意見は聞けますが、「読んだけれど応募しなかった人」は、通常はそのまま消えます。今回はその層に対して、原稿に書かれていなかった情報(一般職の給与レンジ、夜勤体制)を後から補って応募につなげる、という運用ができました。
原稿を直して再掲載し、次の応募を待つ——という往復に比べると、はるかに短い距離で検証が回ります。
自社でやるなら:少人数でいい、聞く順番だけ決める
専用の仕組みがなくても、考え方は再現できます。支援の現場で有効だったのは次の進め方です。
- 人数は10人前後で始める。今回は10名配信で回答2件でした。統計を取るのが目的ではなく、原稿の穴を見つけるのが目的なので、少数で足ります
- 「応募するか」ではなく「引っかかった点」を聞く。応募意思だけを聞くと理由が残りません。選択式と自由記述を両方置きます
- 良かった点も必ず聞く。直さない箇所を確定させるためです
- 対象者リストは事前に採用側と合意する。居住地・経験年数・現職の粒度で提示し、合意してから配信します。ここを飛ばすと、届いた回答が「そもそも狙っていない層の意見」になります
- 返ってきた原文は、社内には集計値だけを残す。回答者の氏名・勤務先・居住地は求職者の個人情報です
そして最も重要なのは、主成果を「応募数」ではなく「原稿の欠落検出」に置くことです。応募が出た月だけ価値があるという整理にすると、回答が少ない月に何も残りません。応募がゼロでも「なぜ応募が来ないか」が手元に残る、という位置づけで始めるのが実務的です。
留保も書いておきます。今回のデータはn=2の初期実績です。「夜勤情報の欠落」「一般職の給与が見えない」が看護師全般に効く法則かどうかは、次回以降の配信で再現を見る必要があります。この記事で確度を持って言えるのは、読んだ人に直接聞くと、推測では出てこない具体的な欠落が返ってくるという構造のほうです。
まとめ
- 応募が来ない原因を候補から潰す方法には、どれが効いたか分からないという弱点がある。広告の数字はフォーム到達までしか教えてくれない
- 求人を読んだ求職者に本音を返してもらう仕組みを初めて実案件で回したところ、10名配信・回答2件で、2件が同じ2点を指摘した(n=2の初期実績)
- 指摘は①働き方の実態(夜勤の体制・回数・手当・当日の流れ)が原稿にない ②モデル年収が上位等級のものしかなく、自分の場合が読めない、の2つ
- どちらもシフト制・交代制のある職種全般に横展開できる欠落。モデル年収は等級・経験年数ごとに複数出すだけで潰せる
- アンケートは欠落リストと同時に「効いている訴求」も返す。直すべきでない箇所を触らずに済む
- 応募していない匿名層とやり取りできるため、原稿を直して再掲載する往復より検証が短く回る
- 自社でやるなら10人前後で十分。主成果は応募数ではなく「原稿の欠落検出」に置く