採用KPIを整えようとすると、まずテンプレートを探します。「採用KPI ツリー」「採用KPI 例」で検索すれば、応募数→書類通過数→面接設定数→内定数→承諾数と段を分けた図がいくらでも見つかります。エクセルのシートも出てきます。
そこまでは簡単です。難しいのはその次で、埋めた数字が動いたときに、何が起きたのかが分からないという壁に当たります。先月より面接設定数が減った。特定の担当者だけ数字が低い。9月に入ってからゼロが続いている。ここで「稼働が落ちている」と結論づけると、たいてい間違えます。
私たちも間違えかけました。自社の面談KPIを洗い直したところ、実施しているのに集計に出ていない活動が5件中2件ありました。実施率の問題として見えていた数字が、実際は登録率の問題だった、というのが結論です。この記事は、KPIの立て方ではなくKPIの入り口の決め方の話です。
KPIツリーを埋めても、数字が動いた理由は出てこない
KPIツリーは、採用の流れを段に分けて、どこで人数が落ちているかを見るための道具です。これ自体は有効で、実際に段ごとの歩留まりが見えると打ち手は絞れます。
ただし、ツリーが答えてくれるのは「どの段で落ちたか」までで、「なぜ落ちたか」ではありません。そして「なぜ」の候補には、多くの現場が想定していない選択肢が混ざっています。そもそも数えられていない、です。
数字を自動集計にするほど、この可能性は上がります。手で数えていたころは「あれ、あの面接が入っていない」と気づけたものが、システムが出した数字になると疑われなくなるからです。集計元が1つに絞られているシステムは、絞られている分だけ「入り口に乗らなかったもの」が静かに消えます。
自社のKPIを洗い直したら、5件中2件が集計から落ちていた
株式会社KD3では、面談や商談の件数を、社内で決めた1つのカレンダーに登録された予定だけから集計しています。ある月、担当者別に件数を出したところ、特定の担当分が途中から0件になっていました。
ここで「稼働が落ちた」と判断せず、本人に事実確認をしました。結果は前月の時点ですでに2件、集計に入っていない面談があったというものです。実施はしている。ただし集計元のカレンダーに予定が立っておらず、個人のカレンダーにだけ入っていた。
数え直すと、その月の実績は5件中3件しか集計に乗っていませんでした。40%が消えていたことになります。この状態のまま「今月は少ない」という議論を始めていたら、対策はすべて的外れになっていたはずです。
これは社内の管理の話に見えて、そのままお客様への月次報告にも当てはまります。応募数や面接設定数をどのシステムから取っているかを決めていないと、報告のたびに数字が揺れます。媒体の管理画面とメールの受信箱と社内の管理表では、必ず数が合いません。
「急にゼロ」「特定の担当だけ低い」は、登録漏れの典型的な見え方
登録漏れが起きているときの数字の見え方には、はっきりした型があります。支援の現場でも社内でも、同じ形で出てきます。
- 急にゼロになった——成果の劣化は普通、段階的に落ちます。ある日を境にゼロが並ぶのは、運用が変わったサインであることが多い
- 特定の担当・特定の職種だけが極端に低い——その人だけ急に成果が落ちる理由より、その人だけ登録の習慣がない理由のほうが、たいてい説明がつく
- 集計方法を変えた直後に数字が動いた——増えても減っても、変更月の増減は成果ではない
この3つのどれかに当てはまったら、現場に理由を聞く前に「実際にはやっているが、入り口に登録されていないだけ」の可能性を先に潰します。順番を逆にすると、やっている人に「やっていない」と言うことになり、以後その人からの情報が出てこなくなります。
計測点は1つに固定し、「なぜそこを見ているか」まで伝える
対処そのものは単純で、計測の入り口を1つに決めて、それを全員に周知するだけです。私たちの場合は「面談する相手を必ず集計用カレンダーの招待に入れる」という一行です。
ただし、ここで運用ルールだけを配ると守られません。効いたのは「なぜそこを見ているか」まで一緒に伝えたことでした。「ここが集計の入り口だから、入っていないと実施した扱いにならない」と分かると、ルールの意味が自分の数字と結びつきます。手順だけ配られたルールは、忙しい日に飛ばされます。
採用に置き換えると、決めるのは次のような一行です。
- 応募数はどの画面の数字を使うか(媒体の管理画面か、自社の管理表か)
- 電話や紹介で来た応募を、誰がいつその画面に入れるか
- 面接の設定は何をもって「設定済み」とするか(日程確定の連絡を送った時点か、先方の返信が来た時点か)
KPIツリーを作るときは、各段の横に取得元を1行だけ書き足してください。段の名前だけが並んだツリーは、運用が変わった瞬間に静かに壊れます。
数字が動いたら、成果の変化か計測の変化かを先に切り分ける
計測の入り口を疑ったあと、もう一段外側に置くべき確認があります。市場側が動いていないかです。自社の応募数が減ったとき、原因が自社の求人にあるとは限りません。
たとえばマイナビ転職の指数では、2026年8月の正社員の応募数は2023年平均を100として117.2(前月から13.9ポイント減)、求人件数は190.9(前月から46.4ポイント減)と、いずれも前月から大きく動いています(出典: マイナビ「2026年8月度 正社員の求人件数・応募数推移レポート」)。単一媒体の指数ではありますが、市場の側が月単位でこれだけ動くことは押さえておく必要があります。
したがって、数字が落ちたときに見る順番はこうなります。
- 計測——集計の入り口に乗らなかったものがないか
- 市場——同じ時期に同職種・同地域の求人や応募が動いていないか
- 自社——求人の内容、予算、対応速度に変えたところがないか
1と2を飛ばして3から入ると、変えなくてよいものを変えることになります。逆に、計測点を固定しただけで数字が改善して見えることもあります。改善に見えたものが登録率の改善だった、を防ぐには、変更の前後で同じ期間を両方式で数えて差分を出しておくのがいちばん確実です。
なお、そもそも何をKPIに置くかという議論も別に必要です。応募数を追い続けると決定数が下がる場面があります(参考: 「応募数は多いほど良い」は誤解。応募数と決定率の逆相関の話)。採点の対象を決める前の段階については採用がうまくいかない理由は、自社の求人を点数で見ていないことも合わせてお読みください。
まとめ
- 採用KPIのテンプレートやKPIツリーは「どの段で落ちたか」までしか答えない。「なぜ」の候補にはそもそも数えられていないが含まれる
- 株式会社KD3が自社の面談KPIを洗い直したところ、5件中2件が実施済みなのに集計に入っていなかった。実施率の問題に見えていた数字が、実際は登録率の問題だった
- 登録漏れの見え方は3つ。急にゼロ/特定の担当だけ極端に低い/集計方法を変えた直後に動いた。どれかに当てはまったら現場に理由を聞く前に登録漏れを潰す
- 対処は計測の入り口を1つに固定すること。ただし運用ルールだけ配ると守られない。「ここが集計の入り口だ」という理由まで伝えると守られる
- KPIツリーは各段の横に取得元を1行書き足す。段の名前だけのツリーは運用が変わった瞬間に壊れる
- 数字が落ちたら計測 → 市場 → 自社の順で見る。市場側も月単位で大きく動く(マイナビ転職の指数では2026年8月の応募数が前月から13.9ポイント減)
- 計測点を変えた月の増減は成果ではない。変更の前後で同じ期間を両方式で数えて差分を出しておく