「看護師 採用 難しい」というご相談は、採用支援の現場でも特によく耳にします。理由としてまず語られるのは「有資格者の絶対数が少ない」ということです。これは事実で、資格必須の専門職は転職者の母数自体が限られるため、検索型の求人広告だけでは母集団が形成されにくい構造があります。この構造は「施工管理の採用が「できない」会社に共通する、たった一つの誤解」でも触れた資格必須職共通の課題です。
ただし、看護師にはもう1つ、この職種特有の構造があります。私たちは求人相場ウォッチで看護師の正社員求人129件を実査しましたが、そこで見えてきたのは看護師の求人票は、提示されている月給が実際の基本給を表していないという事実でした。この記事では、この新しいデータをもとに、看護師採用が難しいもう1つの理由を解説します。
「有資格者の絶対数」だけが原因ではない
資格必須職が検索型求人広告と相性が悪いという課題は、担当者にとって動かせない変数です。有資格者の人数そのものを短期間で増やすことはできません。この課題への対策(3ヶ月応募ゼロを損切りラインにする、有効求人倍率で難易度を先に診断するなど)は既存の記事で解説済みのため、ここでは繰り返しません。看護師採用の実務では、この「動かせない変数」の外側にある、原稿の書き方で対応できる部分に目を向ける必要があります。
実査データが示す看護師特有の構造:基本給は提示額の86%
私たちは求人相場ウォッチで、看護師・准看護師の正社員(常勤)求人129件(全国34都道府県)を実査しました。提示額と基本給の内訳の両方を確認できた104件を比べると、提示額の中央値24.0万円に対し、基本給の中央値は20.0万円。差額の中央値は3.3万円で、104件のうち提示額と基本給が同額だった求人は1件もありませんでした。基本給は提示額の中央値86%、最も乖離した求人では51%にまで下がります。
この実査は、施工管理・整備士・保育士・事務など複数の職種で同じ方法で行っており、比較すると看護師の位置づけがはっきりします。基本給が提示額に占める割合は、整備士97%・事務98%・保育士87%に対し、看護師は86%で最も乖離が大きい職種でした。「月給欄で盛れない」整備士とは対照的に、看護師は月給欄の額面と手取りの土台になる基本給の差が、実査したどの職種よりも開いているのです。
手当が「必ず」月給に乗る。だから額面だけでは基準が読めない
この差額を作っているのは、資格手当・処遇改善手当・ベースアップ手当です。これらは看護師の求人では定額の手当として、ほぼ必ず月給に組み込まれます。固定残業代の関与は小さく、有無を確認できた108件のうち該当したのは11件(10%)のみでした。つまり看護師の月給を押し上げているのは残業代ではなく、資格・処遇に紐づく手当そのものです。
手当自体は看護師の専門性への正当な評価であり、悪いことではありません。問題は、求人票の月給という1つの数字だけでは、どこまでが基本給でどこからが手当なのか、応募者側が判断できないことです。賞与は多くの医療機関で「基本給の◯ヶ月分」として計算されるため、同じ月給28万円でも基本給23万円の求人と基本給18万円の求人では、年収に数十万円の差が出ます。退職金や時間外の割増単価も基本給が基準になります。
求人広告と相性が悪いもう1つの理由:入り口の期待値がズレたまま選考が進む
看護師の転職市場には、正看護師と准看護師のレンジを1本に畳んで「月給21万〜34万円」のように広く表示する求人も多く見られます。この場合、下限が准看護師・上限が正看護師という前提であることが多く、レンジの中央値を自分の期待値として読むと実態とずれます。
求人広告は、求職者が短時間で複数の求人を比較する場所です。月給の額面だけを見て応募し、選考が進んだ段階で内訳を知って期待値とのズレに気づく、という流れが起きやすい構造になっています。これは内定辞退や早期離職のリスクにつながり、広告費をかけて応募を集めても、決定率や定着率という最終的な成果に結びつきにくいという形で表れます。「有資格者が少ないから難しい」という通説の裏で、この期待値のズレも採用を難しくしている要因の1つです。
実務対応:原稿に基本給の内訳を書く
実務的な対応は、月給の総額だけでなく内訳を求人原稿に明記することです。
- 基本給の額を明記する: 「月給24万円(基本給20万円+資格手当◯円+処遇改善手当◯円)」のように内訳を分解して書く
- 正看護師・准看護師でレンジを分ける: 1本のレンジに畳まず、資格ごとに月給を分けて表記する
- 賞与・退職金の算定基準を明記する: 「基本給の◯ヶ月分」という基準がある場合は、月給の総額だけでなく基本給とセットで示す
- 夜勤手当の扱いを明記する: 夜勤手当が月給レンジに含まれているのか、別建てなのかを原稿の段階で示す
これらはいずれも、有効求人倍率のような外部環境を変える話ではなく、原稿の書き方だけで対応できる範囲です。全職種計の有効求人倍率は1.18倍(令和8年6月分・季節調整値、出典: 厚生労働省 一般職業紹介状況(令和8年6月分))ですが、看護師のように資格必須で有効求人倍率が高い職種ほど、母集団の絶対数を動かす打ち手より、原稿の内訳を整えて選考の後半でのミスマッチを減らす打ち手のほうが、投資対効果が高い傾向にあります。
まとめ
- 看護師採用が難しい理由は「有資格者の絶対数が少ないから」だけではない
- 実査(N=129)で、看護師は基本給が提示額の中央値86%しかなく、実査した職種の中で最も乖離が大きいことがわかった
- 差額を作っているのは資格手当・処遇改善手当・ベースアップ手当。これらが必ず月給に組み込まれる構造が看護師特有
- 月給の額面だけでは基準が読めず、入り口の期待値と選考後半の実態がズレやすい。これが内定辞退・早期離職のリスクにつながる
- 実務対応は、月給の内訳(基本給・手当)を求人原稿に明記すること。有資格者の絶対数を動かすより投資対効果が高い
看護師の求人原稿を見直す際は、まず月給の総額表記だけになっていないか、基本給の内訳が読めるかを確認してみてください。同じ実査手法で整備士(整備士の採用が難しいのは、月給欄で「盛れない」職種だから)・保育士(保育士採用は月給で差がつかない。原稿に書くべき「園ごとの差」)の実査結果もあわせてご覧いただくと、職種ごとの月給表記の癖が見えてきます。