採用の相談を受けて、社長や現場の責任者に「どんな人を採りたいですか」と聞くと、求人票とは違う答えが返ってくることがよくあります。
ある建設会社(土木系)の初回打ち合わせでも、そうでした。求人票の応募資格には「土木施工管理技士」が必須条件として書いてあります。ところが話を聞くと、現場が実際に重視しているのは資格ではありませんでした。「若さと体力。夏場の現場を越えられるかどうかで、続くかどうかが決まる」。
採りたい人の基準(採用要件)と、求人票に書いてある応募資格。本来は同じもののはずですが、実際には別々に作られ、別々に古くなっていきます。そして求職者が読むのは求人票のほうだけです。
株式会社KD3では、初回の打ち合わせ後にお送りする議事メールで、ヒアリングの復唱より先にこの2つを並べて「差があります」と指摘するようにしています。この記事では、そのズレがなぜ起きるのか、どう見つけるのか、そしてどこまで直してよいのかを扱います。
「採りたい人」と「応募資格」は、別々に作られている
ズレが生まれる理由は単純です。応募資格は、書いた時点の事情で決まったまま残るからです。
支援の現場で見かける典型は、次の3つです。
- 前任者の条件がそのまま残っている——辞めた人の穴埋めで、前任者の経歴を応募資格に写した。いま必要な役割は変わっている
- 「あったほうが安心」な条件が必須に入っている——資格や経験年数を、足切りではなく保険として書いた。本当は入社後に取ってもらえばよい
- 会社の都合で必要な条件と、現場が見ている条件が混ざっている——受注や配置のために会社として必要な資格と、定着するかどうかを分ける現場の基準が、同じ欄に並んでいない
冒頭の例は3つ目です。資格は会社として持っていてほしい。一方で、現場が「この人は続く」と判断している基準は体力と若さで、そちらは求人票のどこにも書かれていません。
結果として、現場が採りたい「資格はないが体力のある若手」は、応募資格を読んだ時点で自分は対象外だと判断して離脱します。応募が来ないのは母集団が少ないからではなく、入口で自分から落ちているからです。
初回の打ち合わせで、まず拾うのはこの差
KD3が初回の打ち合わせでこの差を最優先で拾うのには、理由が3つあります。
- その場で価値が出る——相場データも媒体の分析も要りません。社長自身が話した基準と、自社の求人票を並べるだけで差が見えます
- 相手を否定しない——問題にするのは求人票のほうだけです。現場の基準は「現場を知る方でなければ出てこないお話」として、むしろ肯定します
- 直すには原稿を触るしかない——差が見えた時点で、次の打ち合わせの議題が決まります
実際の議事メールでは、こう書いています。
- 「この『実際に採用したい方』と『求人票に書かれている条件』の差が、応募の入口で機会を狭めている可能性がございます」
ポイントは「可能性がある」までで止めていることです。この時点では、資格を外すべきだとは言っていません。理由は後の章で書きます。
もう1つ、同じメールで効いていたのが、社長が打ち合わせで口にした言葉を、求職者に届く言葉としてそのまま拾うことでした。「雨の日は、実質お給料をもらって休みになる」といった、社内では当たり前すぎて誰も書かない一言です。こうした言葉が求人票やWebに出ていないと、求職者は給与と休日の数字だけで他社と比べることになります。相手が自分で言った言葉なので、反論も出ません。
企業の6割超が、すでに「経験の足りない人」を採っている
「条件を満たさない人を採るのは妥協ではないか」という反応もよくあります。外部の調査を見ると、そう考えている企業はすでに少数派です。
マイナビの「『微経験人材』の転職・採用実態調査」(2026年9月16日公開)は、募集条件を満たすほどの実務経験はないが、関連する経験はある人を「微経験」と定義して調べています。中途採用担当者(1,600サンプル)のうち、63.9%が微経験者の採用実績ありと答えました。
注目したいのは採用した理由です。
- 「経験者採用と並行して採用したかった」45.1%
- 「経験者採用が難しく対象を広げた」27.3%
仕方なく広げた企業より、最初から並行して採っている企業のほうが多いのです。採用した微経験者への満足も、「そう思う」「ややそう思う」の合計で73.4%でした(微経験者を採用した企業の中での割合)。
リクルートワークス研究所の「中途採用実態調査(2025年度実績、正規社員)」でも、中途採用に占める未経験者の比率は31.9%で拡大傾向にあります。
ここから言えるのは、採用の実績はすでに応募資格より広いところで起きているということです。それなのに求人票の応募資格だけが「経験者・有資格者のみ」のまま残っていると、実際に採れている層、採りたい層ほど、応募の手前で離脱します。
ただし、資格を外せば解決するわけではない
ここまで読むと「では必須条件を外そう」となりがちですが、そう単純ではありません。応募資格は、入口の広さと同時に、求人票がどの価格帯の求人と比べられるかも決めているからです。
リクプルの相場ウォッチで施工管理の求人を実査した結果では、応募資格の書き方で月給の下限の中央値が大きく動いていました。1級施工管理技士が必須の求人は30.0万円、資格の記載がない求人は24.5万円で、差は5.5万円です。しかもこの差は、実務経験を求めない求人ほど大きく出ていました(詳しくは「施工管理の採用は資格で月給が5.5万円動く。前回の結論を撤回します」)。
つまり、資格要件を外すと入口は広がりますが、同時に「資格不問の安い層」の求人と並べて比べられることになります。月給を据え置いたまま外せば見え方は変わらないように思えますが、求職者は同じ一覧で比べるので、資格必須の求人と同じ額で資格不問を掲げる形になります。反対に、外したことを理由に月給を下げれば、今度は有資格者が来なくなります。
だから初回の打ち合わせでは「差がある」ところまでで止め、外すか残すかは、その職種・地域の求人の並び方を見てから決めます。2回目の打ち合わせに、その地域の同業他社の給与・休日条件と、その中での自社の位置をまとめた資料を持参するのはそのためです。
応募資格の直し方:「会社の必須」と「現場の基準」を分けて書く
外すか残すかを決めたあと、求人票の書き方は次の4点で直します。
- 必須条件は「ないと仕事が成立しないもの」だけに絞る。受注に必要な資格、法令上必要な免許などです。「あったほうが安心」は必須に入れません
- 「あったほうが安心」は歓迎条件に移し、入社後の取得ルートとセットで書く。資格取得支援の有無、取得までの目安期間、取得後の手当額まで書くと、資格のない人が自分の道筋を読めます
- 現場の基準は、条件ではなく「仕事の中身」として書く。「体力のある方」と書くのではなく、夏場の現場で何時間どんな作業をするのか、休憩はどう取るのかを書きます。読んだ人が自分で判断できる形にするのがポイントです
- 必須を残す場合は、その理由を一文添える。「当社は公共工事が中心で、現場ごとに有資格者の配置が必要なため」と書けば、条件の厳しさが仕事の中身の説明に変わります
なお、必須条件を並べすぎると応募が狭まるのと同じで、「経験者優遇」「あれば尚可」を足しても月給の位置は上がらないことが実査で分かっています。要件欄の書き方と金額の関係は「「経験者優遇」では月給が上がらない。10職種5万件で見た経験要件の相場」でまとめています。
この処方が当てはまらないケース
最後に適用条件です。ここまでの話は、求人票の応募資格が、実際の採用基準より重い場合にだけ成り立ちます。
逆のケース——応募資格が緩すぎて、条件に合わない応募ばかりが来ている——では、同じ処方は使えません。そちらは必須条件を足すか、仕事の中身の書き方で自然に絞り込む話になります。まず、自社がどちらの状態にあるかを確認してください。
確認の方法は簡単です。最近採用した人、あるいは「この人なら採りたかった」と社内で名前が挙がる人を2〜3人思い浮かべ、その人が自社の求人票の応募資格を満たしているかを見る。満たしていないなら、応募資格のほうが実態より重くなっています。
まとめ
- 採用要件(本当に採りたい人の基準)と求人票の応募資格は、別々に作られて別々に古くなる。求職者が読むのは求人票だけ
- ズレの典型は「前任者の条件が残っている」「保険の条件が必須に入っている」「会社の必須と現場の基準が混ざっている」の3つ
- KD3は初回打ち合わせで、社長・現場の基準と求人票の必須条件を並べて差を指摘する。その場で価値が出て、次の議題が決まる
- マイナビの調査では中途採用担当者の63.9%が微経験者の採用実績あり。理由は「並行して採りたかった」45.1%が「難しく広げた」27.3%を上回る
- ただし資格要件を外すと比べられる求人の価格帯も変わる(施工管理の実査では1級必須と記載なしで月給5.5万円差)。外すか残すかは相場を見てから決める
- 書き方は「必須は仕事が成立しないものだけ」「保険の条件は歓迎+取得ルート」「現場の基準は仕事の中身として書く」「必須を残すなら理由を一文」