「採用ブランディング 成功事例」で調べると、大手企業の採用サイトや動画、専任チームの取り組みがたくさん出てきます。読むほど「うちには予算も人もない」と感じた方も多いのではないでしょうか。
リクプル編集部が中小企業・オーナー企業の採用支援の現場で何度も出会うのは、逆の状況です。「採用にお金はかけていない」という会社ほど、実はすでに採用ブランディングに相当する発信をしている。ただ、それが0円で回っているために採用費として数えられず、採用のための資産として管理されていない。この記事の主張はシンプルです。成功事例を真似る前に、0円で回している発信を数えるところから始めてください。
「採用費はかけていない」会社の採用ルートを並べると、すべてゼロ計上だった
支援の現場で、ある紹介者の方が、建設を中心にM&Aで事業を広げてきたオーナー企業の採用実態を整理してくれたことがあります。人材不足は経営層・資格保有者・現場監督の全階層で認識されていました。それでも社長の認識は「採用費はほとんどかけていない」。整理された採用ルートを並べると、理由が見えてきます。
- 自社のホームページ:ブランドイメージを高めるのが主目的で、採用を意識した作りではない。採用のための宣伝費は出ていない
- 社長自身の講演・SNSでの発信:こまめに続けている。これも宣伝費はゼロ
- 縁故・経営者仲間のネットワーク:採用コストはゼロ。ただし常に応募があるわけではない
- 人材紹介:成功報酬なので、採れなければ0円
- M&A:商圏拡大が第一の目的だが、資格保有者や現場監督の確保も選定の大きな要素。それでも採用費としては認識されていない
つまりこの会社は、採用費が「ない」のではなく、採用費という「費目」がない状態でした。持っている費目は成功報酬の人材紹介だけで、それも採れなければ発生しません。支援の現場では、オーナー企業でこの形はめずらしくない傾向があります(もちろん1社の整理をもとにした見立てで、すべての会社に当てはまるわけではありません)。
採用ブランディングは「新しい施策」ではなく、0円の発信を採用資産に変える作業
採用ブランディングの価値は、広告のように止めた瞬間に消えるのではなく、会社の中に残り続ける採用資産を積み上げることにあります。そう考えると、上の一覧はそのまま「採用資産の候補リスト」です。
- 自社サイトは、検索で社名を調べた求職者が最後に必ず見に来る場所
- 社長の発信は、会社の考え方を社長本人の言葉で届けられる唯一の経路
- 経営者ネットワークは、紹介する側が会社をどう説明するかで応募の質が決まる経路
どれもすでに回っていて、追加の費用はかかっていません。成功事例のように新しい採用サイトや動画をゼロから作る前に、この3つが「採用のための資産」として機能しているかを確かめるほうが、中小企業にとっては投資対効果が高い順番です。
問題は、0円で回っているものは誰も管理しないことです。費目がなければ、成果を測る人も、改善する担当者もいません。採用ブランディングの第一歩は、0円の発信に「採用の役割」を割り当てて、見る人を決めることだと私たちは考えています。
0円の発信が採用に効かない最大の理由は「仕事の中身」が書かれていないこと
では、すでに発信しているのに採用につながらないのはなぜか。支援の現場で最も多いのは、発信の目的が採用に向いていないケースです。
株式会社ベイジの「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」によると、転職者が採用サイトで「まず見たい情報」の1位は募集要項(51.1%)です。ブランドイメージのために作られた自社サイトは、理念や沿革は充実していても、募集要項や具体的な仕事内容が載っていないことが少なくありません。
さらに、厚生労働省の「令和7(2025)年 転職者実態調査」で、転職者が今の勤め先を選んだ理由(3つまでの複数回答)を見ると、上位は次のとおりです。
- 仕事の内容・職種に満足がいくから 40.2%
- 自分の技能・能力が活かせるから 38.4%
- 労働条件(賃金以外)がよいから 23.1%
- 賃金が高いから 18.8%
転職者は「どんな仕事をするのか」「自分の経験が活きるのか」で会社を選んでいます。社長の講演やSNSでの発信がビジョンや経営方針の話だけで終わっていると、共感は生まれても、読んだ人が「自分の仕事」を想像できない。0円の発信を採用資産に変えるには、そこに仕事の中身を1つ足すだけで効き方が変わります。
まず「採用ルートと費用」の棚卸しを1枚つくる
具体的な手順として、支援の現場では「現在の採用ルートと費用」を1枚に並べるところから始めます。項目は4つで十分です。
- ルート:自社サイト/社長の発信/縁故・紹介/人材紹介/求人媒体/M&Aなど
- 今かかっている費用:0円のものは0円と書く。人材紹介なら1名あたりの想定額
- 届いている層:そのルートから実際に来た人、来そうな人
- 限界:「常に応募があるわけではない」「募集要項がない」など
並べてみると、0円のルートほど「限界」の欄が埋まることに気づくはずです。縁故は安定しない、自社サイトは採用向けに作られていない、社長の発信は仕事の中身が伝わらない。採用ブランディングで手を入れるべき場所は、この「限界」の欄にそのまま書かれています。
この1枚は社内の整理だけでなく、外部に支援を頼むときにも役立ちます。何が0円で回っていて、どこが足りないのかが共有できれば、提案も「全部作り直す」ではなく「足りない部分を補う」形になります。
月額の施策は「新規支出」ではなく「既存ルートの補完」として置く
棚卸しには、もう1つ大事な効用があります。採用費の費目がない会社では、月額の施策は金額の大小ではなく、「今までゼロだった欄に金額が入ること」として見られるからです。
先ほどの紹介者の方も、中小企業のオーナーは費用にシビアで、最初の打診の段階から費用に一定の納得感がないと話が進まないという趣旨のことを書いてくれていました。担当者が慎重だからではありません。社内に比べる相手(既存の採用費)がないので、新しい費目をつくる判断になり、決裁が重くなるのです。
だからこそ、採用ブランディングや求人広告の提案は、棚卸しの1枚の上に「既存ルートの限界を補うもの」として並べると通りやすくなります。費用の比べ方については求人媒体の選び方は、人材紹介と同じ「1名あたり総費用」で並べるで、人材紹介と同じ物差しに換算する手順を詳しく解説しています。
ひとつ注意があります。「自社サイトが採用向けになっていない」は改善の入口になりますが、最初の段階でこちらから指摘すると、否定から始まる会話になります。支援の現場では、経営者の側から「うちのサイトは採用には弱いと言われる」と口にしてから採用サイトの話に入るほうが、ずっとうまく進む傾向があります。M&Aを実質的な採用手段にしている会社についても同じで、「それも採用費ですよね」と経営者の認識を訂正しにいく話は、間に立つ紹介者を飛ばして持ち出すべきではありません。
成功事例は「予算」ではなく「もともと何が回っていたか」で読む
最後に、成功事例の読み方です。採用ブランディングの成功事例を読むときは、どんな施策をしたかより、その会社にもともと何が回っていたかに注目してください。
多くの事例は、社長の発信や社員の声、地域での評判など、すでにあった資産を「採用向けに編集し直した」ものです。予算をかけた部分だけを真似ると、自社にない土台の上に施策を載せることになります。逆に、自社の0円の発信を棚卸ししたうえで読めば、どこを編集し直せば同じ効果が出るかが見えてきます。
社長の発信を採用資産に変える具体的な方法としては、社員の言葉で仕事の中身を伝えるインタビュー記事が有効です。作り方は社員インタビューが採用に効く3つの理由と作り方のコツでまとめています。
まとめ
- 「採用費はかけていない」会社の多くは、費用がないのではなく費目がない。自社サイト・社長の発信・縁故・成功報酬の紹介は、すべてゼロ計上になっている
- 採用ブランディングは新しい施策ではなく、0円で回している発信に「採用の役割」を割り当て、採用資産に変える作業
- 0円の発信が効かない最大の理由は仕事の中身が書かれていないこと。転職者は賃金より「仕事内容」「経験が活きるか」で勤め先を選んでいる
- まず「ルート/費用/届く層/限界」の棚卸しを1枚つくる。手を入れる場所は「限界」の欄に書かれている
- 費目がない会社では月額の施策は「新規支出」に見える。既存ルートの補完として並べると判断しやすくなる
- 成功事例は施策ではなく、もともと何が回っていたかで読む