「採用広報 戦略」で調べると、SNSの運用、noteでの発信、採用広報が上手い企業の事例が並びます。読むほど「どれから手をつければいいのか」が分からなくなった方も多いのではないでしょうか。
リクプル編集部は、株式会社KD3の採用支援の現場で、ご相談をいただく前の会社を「外から」見る機会が多くあります。そのときに確認しているのは、発信の量でも上手さでもありません。社名で検索した候補者が最初に見る場所に、空白があるかどうかです。この記事の主張は1つです。採用広報の戦略は、新しい発信を足す前に、外から見える3つの空白を埋めることから始める。順に説明します。
支援の現場で会社を「外から」見るとき、最初に確認する3か所
株式会社KD3では、紹介やご相談で社名を受け取ったとき、調査を始める前に判定の軸を決めています。軸を決めずに調べ始めると、どの会社にも良いところは見つかるので、全社が「良さそう」という意味のない結論になるからです。採用コンテンツについて見ているのは次の3か所です。
- ①自社サイトに、中途採用の募集要項の実体がない。採用ページはあるが「募集職種はお問い合わせください」で止まっている、または新卒向けだけが作り込まれていて中途は1行しかない
- ②求人サイトでの掲載が0〜2件。社名で検索しても、いま募集している仕事がほとんど出てこない
- ③有料媒体だけで回っている。掲載して、期間が終わって消えて、また同じ求人を掲載する、という反復が外から見える
この3つのうち2つ以上に当てはまる会社を「採用コンテンツに空白がある会社」として見ています。逆に、社員インタビューや職種別の仕事紹介ページまで作り込まれている会社は、採用広報の課題はすでに解けていて、応募が来ないなら理由は別の場所(条件や職種名)にあると判断します。
大事なのは、この3か所は、社名で検索した候補者が見る場所と同じだということです。支援する側が外から見て分かることは、候補者にも同じように見えています。
候補者は求人サイトから入り、社名検索で自社サイトに来る
採用広報というと「自社サイトやSNSで候補者を集める」と考えがちですが、公的統計を見ると、入口はそこではありません。厚生労働省の「令和7(2025)年 転職者実態調査」では、転職活動の方法として「求人サイト・求人情報専門誌・新聞・チラシ等」を使った人が45.1%で、5年前の39.4%から5.7ポイント増えています。一方で「企業のホームページ」は13.5%で、5年前の15.1%から1.6ポイント減っています(複数回答)。
つまり、自社サイトは候補者を見つける場所ではなく、求人を見た候補者が社名で検索してたどり着く「受け皿」です。そして受け皿で最初に見られるのは、会社の理念でも社長のメッセージでもありません。ベイジの「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」では、転職者が採用サイトでまず見たい情報の1位は「募集要項」で51.1%でした。
この2つを並べると、採用広報の順番がはっきりします。求人サイトに求人がある → 社名で検索される → 自社サイトに募集要項がある。この流れのどこかが切れている状態が、先ほどの3つの空白です。
空白①:自社サイトに「中途の募集要項」がない会社は、受け皿が抜けている
3つの中で最も多く、最も気づかれにくいのがこれです。支援の現場では、会社のサイト自体は立派で、事業内容も沿革も整っているのに、採用ページを開くと「随時募集しています。お問い合わせフォームよりご連絡ください」だけ、という会社に繰り返し出会います。新卒採用のページは写真つきで作り込まれているのに、中途は1行、という形も同じです。
求人サイトで求人を見た候補者が社名で検索し、自社サイトに来て、募集要項がない。この瞬間に何が起きるかというと、候補者は「求人サイトの求人は本当に今も募集しているのか」「条件は求人サイトに書いてあったとおりなのか」を確かめられずに、ページを閉じます。求人広告にかけた費用は、この受け皿の抜けで一部が漏れています。
埋め方は難しくありません。求人サイトに出している求人と同じ条件(職種・勤務地・月給・年間休日・応募資格)を、自社サイトの採用ページに同じ言葉で置く。これだけで空白①は埋まります。デザインの刷新も、動画も要りません。
空白②③:「出しては消える」掲載は、外から1年分見えている
求人サイトの掲載が0〜2件しかない(空白②)、有料媒体だけで掲載と終了を繰り返している(空白③)。この2つはセットで現れる傾向があります。
支援の現場で実際に外から確認した例では、ある会社の営業職の求人が、前年の秋から3期連続で同じ媒体に再掲載されていました。会社の側では「募集はしている」という認識でも、外からは「1年近く埋まっていない求人」として見えます。候補者が社名で検索したときに、同じ求人が何度も出てくる状態は、応募を後押ししません。
ここで採用広報の戦略として押さえたいのは、有料媒体と自社サイトを別の活動として扱わないことです。媒体の掲載期間が終わると求人は消えますが、自社サイトの募集要項は消えません。媒体が「見つけてもらう場所」、自社サイトが「確かめてもらう場所」で、役割が違います。有料媒体だけで回している会社は、掲載を止めた瞬間に採用広報が外からゼロに見える構造になっています。
費用の面でも、自社サイトの募集要項は一度置けば継続費がかかりません。「採用費はかけていない」と思っている会社ほど、実は0円で回っている発信を持っているという話は、採用ブランディングの成功事例より先に、0円で回している発信を数えるで書きました。空白②③を埋めるのは、その0円の発信に「採用の役割」を与える作業です。
埋める材料は新しく作らない。会社がすでに持っている事実を候補者向けに言い換える
空白を埋めると決めたとき、次に止まるのが「何を書けばいいのか分からない」です。支援の現場で有効だったのは、会社がすでに持っている事実を、そのまま候補者向けの言葉に言い換えることでした。
たとえば、ある会社の相談では、求人媒体が使えない事情があり、自社の採用サイトを主な受け皿にする提案をしました。そのときに説得材料として使ったのは、新しく作ったコピーではなく、会社案内にすでに書かれていた「設立から数十年」「従業員100名超」「全国の小売店に製品を納入している」という事実です。取引先向けには当たり前すぎて目立たない情報が、候補者にとっては「安定して続いている会社か」「自分の仕事が何につながるか」の答えになります。
転職者が勤め先を選ぶ理由も、この方向を裏づけています。前述の転職者実態調査では、「仕事の内容・職種に満足がいくから」が40.2%、「自分の技能・能力が活かせるから」が38.4%で、「賃金が高いから」の18.8%を大きく上回っています(3つまでの複数回答)。候補者が知りたいのは、この会社で自分は何をするのか、経験が活きるのかです。会社がすでに持っている事業の事実は、そのまま仕事の中身の説明になります。
そして、この順番の次に来るのが社員インタビューです。募集要項があり、仕事の中身が書かれた状態で初めて、「実際に働いている人はどう感じているか」が読まれます。社員インタビューが社名検索の受け皿として蓄積する仕組みは、社員インタビューが採用に効く3つの理由と作り方のコツで説明しています。採用広報が上手い企業の事例を見てインタビューから着手したくなる気持ちは分かりますが、募集要項の空白を残したままインタビューを置いても、候補者はそこまでたどり着きません。
SNSや動画に手を出す前に、社名で検索してみる
採用広報の戦略を立てるときに、最初にやることを1つだけ挙げるなら、自社の社名で検索して、候補者と同じ画面を見ることです。求人サイトの検索結果に自社の求人は何件出るか。自社サイトの採用ページに中途の募集要項はあるか。同じ求人が何か月も再掲載されていないか。この3つを確認すれば、空白がどこにあるかはその場で分かります。
SNSの運用や採用動画は、空白が埋まった後に効く施策です。順番を逆にすると、発信で集めた候補者が、社名で検索した先の空白で止まります。支援の現場で見る限り、中小企業の採用広報で差がつくのは発信の上手さではなく、受け皿に空白がないかです。
まとめ
- 採用広報の戦略は「何を発信するか」ではなく、社名で検索した候補者が見る3か所に空白がないかから始める
- 3か所とは①自社サイトの中途募集要項 ②求人サイトの掲載数 ③有料媒体の再掲載の反復。2つ以上に当てはまれば、まず埋める
- 候補者の入口は求人サイト(45.1%)で、自社サイト(13.5%)は受け皿。受け皿でまず見られるのは募集要項(51.1%)
- 空白①は求人サイトと同じ条件を自社サイトに同じ言葉で置くだけで埋まる。デザインや動画は要らない
- 埋める材料は新しく作らず、会社がすでに持っている事実を候補者向けに言い換える。転職者は賃金より「仕事の内容」「経験が活きるか」で選んでいる
- 社員インタビューは募集要項と仕事の中身の次に置く。SNSや動画は空白が埋まってから
採用広報の施策を比べる前に、一度、自社の社名で検索してください。候補者が見ている画面に空白があるなら、そこを埋めるのが最初の戦略です。