採用サイトに社員インタビューを載せた。撮影もした、原稿も整えた。それでも読まれている実感がない——支援の現場でよく聞く相談です。このとき多くの会社が次に手を入れるのは、デザインか、質問内容か、写真です。
リクプル編集部が現場で見てきた限り、その前にもっと安く効く場所があります。候補者が最初に触る「言葉」から、作る側の呼び名を抜くことです。制作物の名前・見出し・肩書きには、作っている側の業界語が驚くほど混入します。そして名前を直す作業は、原稿の中身を直すより安く、効き方は入口にいちばん近い。この記事は、その1点についての話です。
前提: 社員インタビューは「最初に読まれるコンテンツ」ではない
まず期待値を合わせておきます。転職者が中途採用の採用サイトで「まず見たい情報」の1位は募集要項で51.1%です(出典: ベイジ「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」)。社員インタビューは、条件を見て「ここはアリかもしれない」と思った人がそのあとに読むものです。
つまり社員インタビューの読者は、すでに一度、自社に関心を向けてくれた人に絞られています。母数が小さいぶん、1人が離脱する重みが大きい。ここで「何の話をしているページなのか分からない」と思われると、取り返す機会がありません。
だからこそ、入口の言葉に投資が効きます。何を載せるかという中身の設計については採用サイトに足りないコンテンツは「不安1位・人間関係」への回答で扱っているので、この記事では載せ方の手前にある「呼び名」だけを掘ります。
株式会社KD3が、表紙の言葉を1つ書き換えた話
株式会社KD3では、クライアントの候補者向け会社紹介資料を制作しています。その社内ルールとして、最近こう決めました。
候補者が見る表紙には「採用ピッチ資料」と書かない。「株式会社○○ 会社紹介資料」にする。
理由は3つです。
- 「ピッチ」は売り込むという意味なので、候補者が身構えてしまう
- IT業界以外の候補者には、言葉自体が通じにくい
- 「採用ピッチ資料」は作る側の呼び名である。制作会社と発注企業の間の言葉であって、読み手の言葉ではない
「採用ピッチ資料」という言葉自体は、IT・スタートアップの領域では完全に定着しています。悪い言葉ではありません。問題は受け皿です。株式会社KD3が支援している領域は建設・医療・介護・製造が中心で、その候補者層にこの語の受け皿がない。表紙の1行目で「自分に向けられたものではない」と判断されると、中を開いてもらえません。
これは資料の表紙に限った話ではありません。社員インタビューのページタイトル、記事の見出し、ナビゲーションのラベル——読み手が最初に触る場所は、すべて同じ構造をしています。
言葉を捨てるのではなく、同じ物に2つの名前を持たせる
ここで「業界語は全部やめよう」に振り切ると、今度は社内の伝達が遅くなります。「採用ピッチ資料」は作る側の共通言語としてはきちんと機能しているので、捨てるのは損です。
株式会社KD3が着地させたのは、同じ物に2つの名前を持たせて、場面で使い分けるという運用です。
- 候補者が見る表紙 → 「株式会社○○ 会社紹介資料」
- お客様とのやり取り・ファイル名 → 「採用向け会社紹介資料」
- どうしても業界語が必要なとき → 「採用向け会社紹介資料(採用ピッチ資料)」と括弧で補足する
実務上の注意が1つあります。表紙とファイル名が一致しなくなるので、納品のときに「表紙は会社紹介資料としています」と一言添えないと、差し替え漏れだと誤解されます。社内語を抜く運用は、抜いたことを申し送りするところまでが1セットです。
社員インタビューで社内語が残りやすい5か所
この考え方を社員インタビューに当てはめると、点検すべき場所はだいたい5つに絞れます。
1. ページ名・記事タイトル
「社員紹介」「クロストーク」「PROJECT STORY」「社員ボイス」。英語表記そのものが悪いわけではありませんが、そのページに何が書いてあるか分からないラベルは、条件を見終わった候補者を次に進ませません。「入社3年目の現場監督に、1日の流れを聞きました」のほうが、開かれます。
2. 肩書き・部署名
社内の正式な部署名は、外から見ると何をしている部署か分かりません。「第二事業部 サービス推進課」だけでは職種が伝わらないので、候補者が検索に使う職種名を併記するのが安全です。求人の職種名が実態とズレて届かなくなる現象は、原稿側でも繰り返し起きています。
3. 社内制度の呼び名
「メンター制度」「◯◯会」「1on1」など、社内で定着している制度名は、名前だけ出しても中身が伝わりません。名前より先に、何がどれくらいの頻度であるのかを書く。「入社後3か月は、先輩が週1回30分、仕事の困りごとを聞く時間があります」と書けば、制度名は要りません。
4. 業界の専門用語
支援先の事例を掲載するとき、株式会社KD3では専門用語を日常語に言い換える方針を取っています。同業の読者には一発で通じる語でも、未経験者を採りたい求人では、その語が門になります。誰に読ませたいかで、言い換えるかどうかが決まります。
5. 制作過程の言葉の残骸
「ペルソナ」「訴求」「ジョブディスクリプション」「MTG」、そして原稿作成に使った指示文やラベルの消し忘れ。求人原稿の納品前チェックでも、この種の残骸は定番の検出項目です。公開前に、候補者が読む面だけを通しで音読すると、ほぼ拾えます。
言い換えるかどうかの判断基準と、言い換えない場合
判断基準は1つで足ります。その言葉を、候補者は転職を考える前から知っていたか。知らなかった言葉なら、それは社内語です。
ただし、機械的に全部を言い換えるべきではありません。この考え方には適用条件があります。
- 社内・取引先とのやり取りでは業界語を残してよい。共通言語として機能しているものを崩すと、伝達が遅くなるだけです
- 候補者がその業界の経験者に限られる求人では、業界語のままでよい場合があります。IT職の中途採用で「採用ピッチ資料」と書いても、身構えられません。職種を選ばずに適用する規範ではありません
- 言い換えた語が社内で通じなくなるのも避けたいので、対外向けの名前を決めたら、社内向けの名前もセットで決めて残します
要するに、判断しているのは言葉の善悪ではなく読み手が誰かです。同じ会社が、同じ物について、相手によって違う名前を使う。それが正解の形になります。
何を語るかは、言葉を直した後の話
言葉を整えたうえで、次に効くのは中身です。ここでも参考になる公的なデータが出ています。厚生労働省の「令和7(2025)年 転職者実態調査」(2026年9月25日公表・個人調査)では、転職者が現在の勤め先を選んだ理由(3つまでの複数回答)は次の順でした。
- 仕事の内容・職種に満足がいくから 40.2%
- 自分の技能・能力が活かせるから 38.4%
- 労働条件(賃金以外)がよいから 23.1%
- 賃金が高いから 18.8%
「一番の理由」に絞ると、1位は「自分の技能・能力が活かせるから」17.7%です。賃金より、仕事の内容と「自分の経験が活きるか」が上に来ている。社員インタビューは、この2つに答えるためのコンテンツだと考えると、聞くべきことがはっきりします。
そして、この「仕事の内容」と「経験の活き方」を語らせるには、質問の設計が要ります。支援の現場では、志望動機を聞いた原稿はほぼ使えない傾向があります。質問側の具体的な作り方は社員インタビューの質問例30。「志望動機」を聞いてはいけないにまとめています。
順番としては、言葉を直す(安い・早い)→ 聞くことを変える(中くらい)→ 撮り直す・作り直す(高い)。読まれない社員インタビューを前にしたとき、いちばん下から手を付けるのは効率が悪い、というのが現場の実感です。
まとめ
- 社員インタビューは最初に読まれるコンテンツではない。まず見られるのは募集要項(2024年度の調査では51.1%)で、インタビューは一度関心を持った人が読む。だから1人の離脱が重い
- 株式会社KD3では、候補者が見る表紙に「採用ピッチ資料」と書かず「会社紹介資料」とするルールにした。理由は、ピッチが売り込みの意味であること、IT業界以外に通じないこと、そしてそれが作る側の呼び名であること
- 業界語は捨てるのではなく、同じ物に2つの名前を持たせて場面で使い分ける。候補者向け/取引先とのやり取り向け/括弧で補足、の3段で足りる
- 社員インタビューで社内語が残りやすいのはページ名・肩書き/部署名・制度の呼び名・専門用語・制作過程の残骸の5か所
- 判断基準は「候補者は転職を考える前からその言葉を知っていたか」。ただし候補者が業界経験者に限られる求人では、業界語のままでよい場合がある
- 語る中身は、2026年9月公表の公的調査で仕事の内容40.2%・自分の技能が活かせる38.4%が賃金18.8%より上位。インタビューはこの2つに答える場だと置くと、聞くことが決まる
- 手を付ける順番は言葉 → 質問 → 作り直し。名前を直すのは中身を直すより安く、効き方は入口にいちばん近い