保育士の募集要項を作るとき、近隣の保育園の求人を何件か開いて月給を見比べる——という進め方が一般的だと思います。同じ区分の施設なら条件も揃っているはずだ、という前提です。
リクプル編集部(株式会社KD3)は2026年8月31日に、保育士の正社員求人7,246件を実査しました。施設区分ごとに月給を並べたところ、公開されている保育士求人の4件に1件は「保育園以外」で、しかも施設区分は相場を決めていませんでした。区分で並べた順位は、地域を揃えると再現しません。首都圏では児童発達支援・放課後等デイが認可保育所を上回っています。
この記事では、その構造を実査データで示したうえで、保育士採用で「何と比べるか」をどう決めるかを整理します。数字はすべて公的職業紹介に出ている正社員求人の月給下限の中央値で、データは「求人相場ウォッチ(保育士)」で公開しています。
実査7,246件:保育士の求人の4件に1件は「保育園以外」
実査した7,246件を施設区分で分けた件数はこうなりました。
- 認可保育所(保育所・保育園)——3,217件(44.4%)
- 児童発達支援・放課後等デイサービス——1,923件(26.5%)
- 小規模・事業所内・院内保育——864件(11.9%)
- 認定こども園——429件(5.9%)
- 幼稚園——265件(3.7%)
- 乳児院・児童養護施設——127件/学童・放課後児童クラブ——127件
- その他・区分不明——294件
認可保育所は44.4%で、過半に届きません。いちばん多いのは確かに認可保育所ですが、次に多いのは児童発達支援・放課後等デイサービスで、これだけで4件に1件を占めます。
求職者側の動きもこれと揃っています。「保育士 求人」で調べる人のサジェストには「保育士 求人 保育園以外」が並びます(2026年9月6日実測)。保育園以外で働く選択肢を、求職者は最初から検索語として持っています。採用側だけが「近隣の保育園」を競合の範囲だと思っている、という状態が起こりえます。
施設区分で並べた相場は、地域を揃えると再現しない
次に、施設区分ごとの提示額(基本給+定額的に支払われる手当+固定残業代)の下限を、全国をまとめて並べます。
- 認可保育所——22.8万円
- 乳児院・児童養護施設/認定こども園——22.3万円
- 学童・放課後児童クラブ——22.2万円
- 児童発達支援・放課後等デイ——22.0万円
- 小規模・事業所内・院内保育/幼稚園——21.7万円
ここだけ見ると「認可保育所がいちばん高く、幼稚園と小規模がいちばん低い」と読めます。ところがこの順序は、地域ブロックの中では再現しませんでした。
- 首都圏では、児童発達支援・放課後等デイ25.5万円が認可保育所24.5万円を上回ります
- 中国・四国・九州・沖縄では、認定こども園21.7万円が認可保育所21.1万円を上回ります
- 北海道・東北でも、認定こども園20.8万円が認可保育所20.0万円を上回ります
全国をまとめた表で見えていたのは、施設区分の差ではなく「その区分の施設がどの地域に多いか」でした。同じことは年間休日でも起きていて、全国では年間休日120日以上の求人のほうが月給が高く見えますが、5つの地域ブロックすべてで、ブロックの中では105〜119日のほうがわずかに高くなります。原因は、休日の多い求人が首都圏に集中していることです(首都圏2,201件のうち1,554件=71%が120日以上)。
全国平均や区分別の一覧表は、自社の相場を決める材料になりません。比較は同じ地域の中でやる必要があります。
基本給で並べ直すと順位が入れ替わる。差は手当の厚み
もう一段、内訳まで下りると景色がさらに変わります。同じ7,246件の求人票から基本給(a欄)を取り出して、施設区分で並べ直したものです。
- 幼稚園——19.0万円/乳児院・児童養護施設——19.0万円
- 学童・放課後児童クラブ——18.8万円
- 認可保育所——18.7万円
- 認定こども園——18.5万円/小規模・事業所内・院内保育——18.2万円
- 児童発達支援・放課後等デイ——18.0万円
提示額では最下位グループだった幼稚園が、基本給では最上位に入れ替わります。理由は月給に組み込まれている手当の額で、幼稚園が中央値2.5万円なのに対し認可保育所は3.5万円。基本給が提示額に占める割合も、幼稚園88.8%・認可保育所84.4%と差があります。
保育士の求人全体では、提示額の中央値22.1万円に対し内訳の基本給は18.5万円で、基本給は提示額の85.5%。7,246件のうち64%は基本給が提示額の9割を切り、11%は7割も切っていました。処遇改善手当・地域手当・資格手当を月給に組み込む書き方が標準になっているためで、この点は保育士採用は月給で差がつかないという記事で詳しく書いています。
採用側にとって重要なのは、この手当の厚みが施設区分によって違うということです。提示額を近隣と揃えたつもりでも、賞与や退職金を基本給基準で計算している園なら、入社後に受け取る額の差は別のところで開きます。
比べる相手は「同じ区分の園」ではなく「同じ通勤圏の求人」
ここまでの実査データから、比較の手順は次のように組み直せます。
1つめは、範囲を施設区分ではなく通勤圏で切ることです。保育士資格を持つ人が応募できる求人は、認可保育所・認定こども園・小規模保育・企業内保育・幼稚園・学童・児童発達支援・放課後等デイまで広がっています。同じ駅から通える範囲に出ている求人を、区分を問わず全部並べてください。首都圏で認可保育所を運営しているなら、実査上いちばん高い提示額を出しているのは児童発達支援・放課後等デイです。
2つめは、提示額と基本給の両方で並べることです。提示額だけで揃えると、手当の厚い求人と薄い求人が同じ位置に並びます。求職者が面接で「基本給はいくらですか」と聞いたときに、自社がどの位置にいるのかを先に把握しておく、ということです。
3つめは、月給以外の条件を同時に並べることです。実査した求人の年間休日は中央値117日、四分位は110〜122日。固定残業代の記載があるのは891件(12.3%)で、金額の中央値1.78万円・時間数の中央値10時間でした。保育士の求人は月給の幅が狭い職種なので、月給だけで差をつけようとすると、動かせる範囲がほとんどありません。
なお、月給の提示額を厚くしても採用単価が下がるとは限らないことは、前回の実査(1,078件)で保育士の採用単価は月給欄の厚みでは動かないとして書いています。今回の7,246件でも、固定残業代のある求人は提示額こそ23.7万円と高く出ますが、同じ求人の基本給は18.5万円で、固定残業代のない求人と同額でした。上乗せ分はほぼ全額が固定残業代です。
募集要項に書くのは区分名ではなく中身
比較の話を、そのまま自社の募集要項に折り返します。求職者の側も、施設区分の名前だけでは働き方を判断できないからです。
実査では、施設区分を「職種名 → 就業場所の施設名 → 事業所名・事業内容 → 仕事内容」の順に機械判定しましたが、職種名だけで区分が決まったのは2,538件(35%)にとどまり、294件は最後まで区分不明でした。求人票の書き方だけでは、外から施設の種類すら分からないことがある、ということです。
だとすれば、募集要項に書くべきは区分名ではなく、その区分の内側にある差です。実査データと支援の現場から見て、少なくとも次の4つは月給の数字より先に読まれる傾向があります。
- 受け持つ子どもの人数と年齢クラス——配置基準に対して実際に何人いるのか
- クラス担任を持つかどうか——同じ職種名でも負担がまったく違います
- 行事と書類作成の量、持ち帰り仕事の有無——求人票の所定外労働時間の記載は中央値5時間ですが、これは求人票に書かれた数字です
- 開園時間と延長保育の担当体制——シフトの実態がここで決まります
そのうえで、月給欄には内訳を書いてください。提示額22万円のうち処遇改善手当がいくらで、基本給がいくらなのか。実査では7,246件すべてで内訳が読めましたが、これは公的職業紹介の求人票が内訳欄を持っているからで、民間の求人サイトでは書かれていないことが多いのが実情です。内訳を書いた求人は、同じ提示額の中で自社だけが判断材料を出していることになります。
まとめ
- 公開されている保育士求人7,246件のうち認可保育所は44.4%で過半に届かず、児童発達支援・放課後等デイが26.5%を占めます。求職者側も「保育園以外」を検索語に持っています
- 施設区分で並べた相場は、地域を揃えると再現しません。首都圏では児童発達支援・放課後等デイ25.5万円が認可保育所24.5万円を上回ります
- 基本給で並べ直すと順位が入れ替わります。提示額で下位だった幼稚園が19.0万円で最上位、認可保育所は18.7万円。差は月給に組み込まれた手当の厚み(幼稚園2.5万円・認可保育所3.5万円)です
- 全体では基本給は提示額の85.5%で、64%の求人が9割を切っています。提示額だけを揃えても、入社後に受け取る額は揃いません
- 比較は①施設区分ではなく通勤圏で切る②提示額と基本給の両方で並べる③月給以外の条件も同時に並べるの順で組み直してください
- 募集要項に書くのは区分名ではなく子どもの人数・担任の有無・行事と書類の量・延長保育の体制、そして月給の内訳です
保育士の採用がうまくいかないとき、原因が「近隣の園より月給が低いこと」であるケースは、実査で見るかぎり多くありません。比べている相手が違っている、というほうが先に起きています。実査データは「求人相場ウォッチ(保育士)」で全件公開しているので、自園の通勤圏に出ている求人と突き合わせる土俵合わせにお使いください。