社長候補や幹部候補の求人原稿を、掲載前にオーナー経営者に確認してもらう。ここで返ってくる赤字には、はっきりした傾向があります。
赤字は要件や給与ではなく、代表メッセージの文体に集中します。
株式会社KD3が支援した、ある会社の社長候補の募集でもそうでした。1か月かけてまとめた原稿を、掲載直前に代表に確認してもらったところ、赤字は8か所。その8か所すべてが代表メッセージの欄で、応募要件と年収への赤字は1つもありませんでした。添えられていたコメントはこうです。
- 「全体的に、軽く経営をしてみませんか、という雰囲気を感じてしまった」
- 「プロ経営者という視点で応募してくれる人でないと、ミスマッチを起こしそう」
この指摘を受けて要件を引き上げるのは誤答です。直すべきは要件ではなく原稿の格で、原因はたいてい2種類の一文の積み重ねにあります。この記事では、その2種類と、削ってはいけない一文を実例で扱います。
赤字の「場所」を数えると、経営者が本当に気にしている所が分かる
経営者レビューの赤字は、内容より先にどこに入っているかを数えてください。
今回のように要件と給与に赤字が1つも入っていないなら、条件面はすでに合意できていると読んでよいでしょう。経営者が引っかかっているのは「何を求めるか」ではなく「どういう人に向けて書いているように読めるか」です。
ここを取り違えると、打ち手が逆になります。「プロ経営者の視点で応募してほしい」を要件への要望として受けると、「経営経験◯年以上」「P/L責任の経験必須」と条件を足すことになります。ところが今回の年収は据え置きの前提です。要件だけを上げれば、その年収で応募できる層が消え、提示額と要件の整合も崩れます。
幹部の募集では、年収の額によって届く層がほぼ決まっています(詳しくは「管理職・幹部の採用年収は、相場ではなく「その額で届く層」で決める」)。年収を動かさないなら要件も動かさず、絞るのは書類選考と面接で行う。原稿で直すのは文体だけ、という切り分けにしました。
実際の返信でも、「ご指摘は要件のお話ではなく、原稿の格のお話として受け取りました。絞り込みは書類と面接で行います」という形で方針をお伝えし、代表からは「承知しました」と返ってきています。
削る一文①:「安心させる文」
1つ目は、応募者を安心させようとする一文です。
- 「ご安心ください」
- 「ひとりで抱え込まなくて構いません」
- 「わからないことは何でも相談できる環境です」
一般職の求人では、こうした一文が応募のハードルを下げる役割を果たします。支援の現場でも、未経験者向けの原稿では効いている傾向があります。
ところが社長候補・幹部候補の原稿に入ると、読み手には「この会社は、経営を任せる人にも安心を約束しないといけないと思っている」と伝わります。経営を担える人ほど、ここで違和感を持ちます。
ここで大事なのは、支える体制そのものを消すわけではないということです。経営会議に誰が出るのか、既存の管理部門がどこまで担うのか、代表とどの頻度で話すのか。体制は事実として書けば足ります。削るのは、その事実に添えていた「だから安心してください」という情緒の一文だけです。
削る一文②:「間口を広げる文」
2つ目は、応募の間口を広げようとする一文です。
- 「部署の立ち上げ経験でも構いません」
- 「数字の専門家でなくても大丈夫です」
- 「経営の経験がなくても、意欲があれば」
厄介なのは、一つひとつは代表自身の発言どおりだということです。打ち合わせで「立ち上げ経験でもいい」「財務は管理部門がいるから専門家でなくていい」と実際に言っている。だから原稿に入れます。
ところが、それが3つ4つと並ぶと、全体としては「誰でもどうぞ」に読めます。代表が「軽く経営をしてみませんか、という雰囲気」と感じた正体は、ほぼこれでした。
直し方は、削るか、「絞る」言い方に向きを変えるかのどちらかです。「部署の立ち上げでも可」は、「ゼロから事業や組織を立ち上げた経験のある方」と言い直せます。条件は変わっていませんが、「そこまでは許容する」から「それを求めている」に向きが変わります。今回の原稿でも、冒頭を「自ら事業を立ち上げた経験がある方へ。」という一文で始める形に変えました。
なお、「幹部候補」「経営」といった言葉は、それだけで経験豊富な層=年齢の高い層を集める方向に働きます(「若い人が来ない求人の共通点。「年齢不問」がむしろ中高年を集める」)。幹部の募集ではそれが狙いどおりなので、その層を「誰でもどうぞ」の一文で薄めないことのほうが大切です。
残したもの:「絞る文」と、赤字と、年収と、見やすさ
文体を直すときに、削りすぎないことも同じくらい大切です。今回、手を付けずに残したものは4つあります。
- 代表の赤字8か所——全部そのまま反映しました。直しの主語は代表です
- 年収——額はそのまま。上限は書いていません。社長候補の募集で上限を書くと、そこが交渉の天井として読まれるためです
- 絵文字や記号などの装飾——格を上げるために装飾まで消すと、スマートフォンで読みにくくなるだけです。見やすさは落としません
- 「自由にやらせてもらえないのかと感じる方には合いません」という一文——これは残しました
最後の一文は、一見すると応募者を遠ざける否定形です。ただ、これは間口を広げる文ではなく絞る文です。「どういう人には合わないか」を書くと、合う人のほうには「自分のことだ」と伝わります。削るのは安心させる文と間口を広げる文だけで、絞る文はむしろ効いています。
転職者が採用サイトで最初に見る情報の1位は募集要項(51.1%)です(出典: ベイジ「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」)。条件は最初に読まれ、比べられます。その後に読まれる代表メッセージの役割は、条件を繰り返すことではなく、「この条件は、どういう人に向けたものか」を決めることです。そこに安心させる文と間口を広げる文が並んでいると、せっかくの条件が「誰でもいい募集の条件」として読まれてしまいます。
このチェックが効く原稿・効かない原稿
適用条件も書いておきます。
この傾向が強く出るのは、社長候補・幹部候補など、オーナー経営者が自分で読んで赤字を入れる原稿です。一般職の原稿では、ここまで文体に赤字が入ることはあまりありません。むしろ未経験者を広く集めたい原稿では、安心させる文が役に立つこともあります。
もう1つ、「軽く見える」原因は1文ずつ読んでも見つかりません。どの文も、単体では問題がないからです。見つけるには、代表メッセージを通しで読み直し、次の2つに当てはまる文に印を付けていきます。
- 読み手を安心させるために書いた文か(事実ではなく、事実に添えた気持ちの一文か)
- 「〜でも可」「〜でなくても」のように、許容範囲を広げる文か
印が3つ以上並んでいたら、その原稿は「誰でもどうぞ」に読まれている可能性が高いと考えてください。雇用形態や肩書きの置き方で応募の幅が変わる話は、「管理職・幹部の採用が難しいとき、「取締役」という募集条件を疑う」でも扱っています。
まとめ
- 社長候補・幹部候補の原稿をオーナー経営者に確認してもらうと、赤字は要件や給与ではなく代表メッセージの文体に集中する(実例では8か所すべて)
- 「プロ経営者の視点で応募してほしい」を要件の引き上げ要求として受けない。年収を動かさないまま要件を上げると、届く層が消える。絞るのは書類と面接で行う
- 削るのは2種類。①安心させる文(体制は事実として書けば足りる)②間口を広げる文(一つひとつは代表の発言どおりでも、並ぶと「誰でもどうぞ」に読める)
- 残すのは、代表の赤字・年収(上限は書かない)・見やすさのための装飾・「合わない人」を書いた絞る文
- 「軽く見える」の正体は1文ずつでは見つからない。通しで読み、安心文と間口拡張文に印を付けて数える