地方企業の採用担当者様が「地方 求人倍率」を検索するとき、多くは自社エリアの数字を全国値と見比べて、低ければ安心し、高ければ焦ります。この読み方自体は間違っていませんが、それだけで判断すると足元をすくわれます。都道府県別の開きは全国値よりずっと大きく、しかも倍率が同じ水準でも、同じ職種の給与相場は地域ブロックでまったく違うからです。この記事では、求人倍率の地域差の読み方と、そこに給与相場の地域差をどう重ねるかを解説します。
有効求人倍率は「全国値」より「都道府県別」の開きのほうが大きい
まず全国の水準を確認します。全職種計の有効求人倍率は1.18倍(令和8年6月分・季節調整値/前月差+0.01ポイント)、正社員に限ると1.00倍です(出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」)。
ここで見落とされがちなのが、都道府県別の差のほうが全国値の変動よりはるかに大きいという事実です。同じ令和8年6月分で、就業地別に見た有効求人倍率は福井県1.72倍〜大阪府0.96倍まで開いています。求職者を受け付けた職業安定所の所在地でみる受理地別ではさらに開きが大きく、東京都1.70倍〜神奈川県0.84倍です。隣接県でもこれだけの差が出ます。
ここで重要な反証があります。福井県は一般に「地方」に分類される県ですが、有効求人倍率は全国トップ水準です。「地方だから倍率が低くて採用しやすい」という前提は、都道府県単位で見ると成立しません。倍率を人口密度や都市・地方のイメージだけで推測するのは危険です。
「地方 求人倍率」を調べる目的別に、見る数字を変える
倍率には「就業地別」と「受理地別」の2種類があり、目的で使い分けが必要です。
- 就業地別: 実際にその地域で働く人を求める求人と求職者の比率。自社が採用する現場の需給に近く、地方企業がまず見るべき数字です
- 受理地別: 求職者がどの職業安定所に登録しているかを基準にした比率。開きが大きく出やすく、参考値として補助的に使います
そしてもう1点、この数字は毎月変わります。厚生労働省は月次で「一般職業紹介状況」を公表しており、募集を出すタイミングの直近値を必ず確認してください。数ヶ月前の数字をそのまま使うと、季節要因やトレンドの反転を読み違えます(この診断の基本的な使い方は「求人を出す前に勝敗は半分決まる。有効求人倍率で採用難易度を診断する」で解説しています)。
もう1つ注意したいのが、転職サイトなどが独自に集計する「転職求人倍率」との混同です。民間の転職求人倍率(doda、2026年6月分)は2.55倍で、厚労省の公的統計とは調査対象・母集団がまったく別物です。地方企業が実際に採用する層(ハローワーク経由や地域の求人媒体を含む)を見るなら、公的統計の都道府県別データのほうが実態に近く、民間の転職市場データと混ぜて語らないようにしてください。
倍率が同じでも、給与の「勝負ライン」は地域ブロックでまったく違う
ここからが本題です。有効求人倍率だけを見て「自社の地域は倍率が低いから、給与は抑えめでも大丈夫」あるいは「倍率が高いから都市部並みに出さないと」と判断するのは早計です。同じ職種でも、給与相場そのものが地域ブロックで大きく違うことが、私たちの求人相場ウォッチの実査で分かっています。
溶接工の正社員求人132件を全国5ブロックで実査したところ、月給下限(総額提示)の中央値は首都圏24.5万円に対し、北海道・東北19.0万円でした。内訳にある基本給で並べ直しても首都圏22.0万円・北海道東北19.0万円と順位は変わりません(詳細は溶接工の求人相場ウォッチ、記事は「製造業の採用課題は『職種名』にある」)。5.5万円の差は、有効求人倍率の1桁台の小数点差からは読み取れません。
つまり、倍率という「奪い合いの激しさ」の軸と、相場という「勝負に必要な金額」の軸は、別々に確認する必要があります。倍率だけを見て地方だからと給与を都市部基準より下げすぎれば、地元相場の下限を割って足切りされ、逆に都市部の相場をそのまま地方に持ち込めば予算が過大になります。
実務での使い方:2ステップで自社の位置を確認する
特別な集計は不要です。求人を出す前に、次の2つを別々に確認してください。
- 1. 就業地別の有効求人倍率で「構え方」を決める: 厚生労働省の公表データで、自社エリア・自社職種に近い区分の倍率を直近月で確認します。ここで分かるのは奪い合いの激しさと、募集にかける期間・予算の目安です
- 2. 同職種・同商圏の給与相場で「勝負ライン」を決める: 求人相場ウォッチのような一次データ、なければ競合求人10件の内訳を確認し、地域ブロックの相場を把握します。ここで分かるのは、求職者から見て「候補に入る」ための最低額です
この2つを別々の軸として持っておくと、「倍率は低いのに応募が来ない」「倍率は高いのに想定より採れた」といったギャップの原因を、倍率のせいにせず正しく切り分けられます。職種横断でこの2軸の関係を整理した記事は「採用が難しい職種ランキングを、有効求人倍率だけで作ってはいけない」もあわせてご覧ください。また、地方採用そのものの設計(通勤圏・給与下限・見せ方)は「地方採用が難しい本当の理由は『母集団』ではなく『設計』」で扱っています。
まとめ
- 全職種計の有効求人倍率は1.18倍・正社員は1.00倍(令和8年6月分)だが、都道府県別の開きはこれよりずっと大きい
- 就業地別は福井県1.72倍〜大阪府0.96倍、受理地別は東京都1.70倍〜神奈川県0.84倍で開きが最大
- 福井県のように「地方」でも倍率が高い(=採用が難しい)県はある。地方=倍率が低いという前提は成立しない
- 倍率が同じ水準でも、同一職種の給与相場は地域ブロックで大きく違う(溶接工実査:首都圏24.5万円 vs 北海道・東北19.0万円)
- 倍率(奪い合いの激しさ)と相場(勝負に必要な金額)は別軸。2ステップで別々に確認する
「地方 求人倍率」を調べたら、その数字だけで一喜一憂せず、同じ職種の給与相場が自社の地域でいくらなのかまで、必ずセットで確認してください。