契約社員やパートの求人に並んでいる「正社員登用あり」。いずれ正社員になれる道がある会社なのだと読んで応募した人は多いと思います。一方で「正社員登用あり 嘘」「正社員登用あり やばい」と検索する人もいます。どちらの感覚も、それほど間違っていません。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。この記事では、その立場から「正社員登用あり」と書くために会社が何をしなければならないのかを、公開されている入力仕様と法令、そして自分たちで集めた求人データにあたりながら説明します。
結論: 「登用の有無」と「登用の実績」は、別々の欄
求人票の正社員登用は、「制度があるか」と「過去に何人登用したか」が別の質問です。そして求職者の目に「正社員登用あり」と映るのは、前者に答えただけでも成立します。つまり「制度はある。ただし過去3年で登用された人は0人」という求人でも、正社員登用ありと表示されうる。嘘を書いているわけではなく、欄の作りがそうなっています。
内幕①: ハローワークの求人票には「過去3年間の実績」を書く欄がある
いちばん仕様がはっきり公開されているのがハローワークの求人です。企業が求人を入力するページには、こう書かれています。「正社員以外の労働者を正社員に登用する制度がある場合には『あり』を選択し、過去3年間の登用実績を入力してください」(ハローワークインターネットサービス「求人情報の入力方法について」)。
求人票の側にも、この2つは別の行として出てきます。正社員登用の有無(あり/なし)と、正社員登用の実績(過去3年間)です。大事なのは、実績欄が選択式ではなく自由記述だということ。人数を書いても、「あり」の2文字だけでも、記号を1つ置いても、求人は受理されます。求人を作る現場での実感を言えば、ハローワーク以外の求人サイトではこの実績欄自体を見かけることがほとんどありません。多くの媒体では「正社員登用あり」というタグが1つあるだけです。
内幕②: 実際に数えた。「登用あり」の45.1%は、人数が読めないかゼロ
では実績欄には何が書かれているのか。求人相場ウォッチの実査と同じ方法で数えました。2026年9月19日、ハローワークインターネットサービスで47都道府県のフルタイム「正社員以外」求人の1ページ目(各30件・既定の新着順)を取得し、求人票の詳細1,408件から登用欄を機械的に抜き出しています(求人票1枚を1件として数えているので、同じ会社の複数求人はその数だけ含まれます)。
- 正社員登用の有無が「あり」: 874件(62.1%)。「なし」は534件(37.9%)
- 「あり」874件のうち、実績欄に人数が書いてあるのは480件(54.9%)
- ゼロと書いてあるのが147件(16.8%)。「なし」「0名」「過去3年は実績なし」「なし(開設後3年未満)」など
- 人数が読めないのが247件(28.3%)。「あり」「実績あり」の数文字だけ、あるいは「・」という記号1つだけ、というものです
後ろの2つを足すと394件・45.1%。「正社員登用あり」と書かれた求人のおよそ半分は、過去3年に何人が正社員になったのかが求人票から分からないか、明確にゼロです。
「正社員登用あり 嘘」という検索の正体は、多くの場合ここだと考えています。会社は虚偽を書いていません。制度の有無に「あり」と答え、実績欄には正直に「なし」と書いた。ところが求人サイトのタグでは、その2つが同じ「正社員登用あり」に畳まれてしまう。畳まれる前の情報が、ハローワークの求人票には残っている——今日いちばん持ち帰ってほしいのはここです。
人数が書いてある480件にも読み方が要ります。中央値は4名、47.9%は3名以下。一方で「1,190人 正社員登用率99.4%」のような三桁もあり、大きな数字はたいてい全国合計、小さな数字は事業所単位。そしてどちらも分母がありません。
内幕③: 「制度あり」と言える下限は、法律のほうで決まっている
「正社員登用制度あり」と書ける会社のハードルは、想像よりかなり低いところにあります。パートタイム・有期雇用労働者を雇う事業主には、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第13条で「通常の労働者への転換を推進するため」の措置が義務づけられています。ただし条文は次の3つの「いずれかの措置を講じなければならない」という書き方です。
- 一: 正社員を募集するとき、その募集内容を事業所内のパート・有期雇用労働者に周知すること
- 二: 正社員を新しく配置するとき、希望を申し出る機会を与えること
- 三: 転換のための試験制度を設けること、その他の転換を推進するための措置
いわゆる「登用試験」は三つ目だけです。一つ目は正社員の求人が出たときに社内にも貼り出すという意味で、登用というより応募の機会にあたります。それでも法律上の義務は満たします。求人を作る現場でも、「登用の制度はありますか」と確認した答えがこの一号どまりであることは珍しくありません。制度の有無を聞いても、運用の厚みまでは聞けていないということです。
なお、個々の会社の措置が法の要件を満たしているかは個別の事情で判断される論点なので、ここでは断定しません。説明と実態が食い違う場合は、労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士などの専門家に相談してください。
内幕④: 「5年勤めれば正社員」ではない。無期になるのと正社員になるのは別
「契約社員 正社員登用 何年」「正社員登用 何年かかる」という検索も多く、5年という数字を聞いたことがある人もいると思います。これは労働契約法第18条の無期転換ルールです。有期契約が通算5年を超えた労働者が申し込めば、期間の定めのない契約に転換されます。ただし同じ条文には続きがあり、転換後の労働条件は、契約期間を除いて従前と同一(別段の定めがある部分を除く)と定められています。「期間の定めがなくなる」だけで、正社員の待遇になるとは書かれていないのです。
これは理屈の話ではありません。今回の1,408件のうち、雇用期間が「定めなし」なのに雇用形態は「正社員以外」という求人が134件(9.5%)ありました。期間の定めがない、フルタイム、直接雇用——それでも正社員ではない募集が現に出ています。ハローワークの定義では「正社員」は、社内の呼称にかかわらず①直接雇用 ②雇用期間の定めがない ③フルタイム ④社内の他の雇用形態の労働者に比べて高い責任を負うの4要件を満たすもの(前出の入力方法ページ)。無期転換で満たせるのは②だけです。
呼称による違いも出ました。登用ありの割合は契約社員76.2%(403件)に対し、嘱託社員は37.5%(32件)。定年後再雇用などに使われやすい呼称では、登用の道がそもそも用意されていないことが多いようです。
確かめる: 応募前にできること2つと、面接での4つの質問
ここからが実践パートです。まず、面接を待たずにできることから。
- 同じ会社の求人をハローワークで探す。求人サイトで1つのタグに畳まれた情報が、ハローワークの求人票では「登用の有無」と「登用の実績(過去3年間)」の2行に分かれています。両方に出している会社なら、実績欄だけそちらで読めます
- 実績欄の書き方そのものを見る。「営業所3年間計8名」のように範囲と期間つきで書く会社は、社内で実際に数えているということです。「あり」の2文字や記号1つで済ませている求人は、数えていないか、数えると小さい可能性があります
そのうえで、面接や条件面談で聞く質問を4つ。いずれも採用側が失礼だと受け取るものではなく、長く働く前提で条件を見ている応募者だと伝わります。
- 「この事業所で、過去3年に正社員になった方は何名いらっしゃいますか」——制度ではなく実績を、全社ではなく自分が働く事業所で聞きます。求人票の実績欄を口頭で埋めてもらう質問です
- 「その方々は、対象になった何名のうちの何名でしたか」——分母を聞きます。人数だけでは多いか少ないか判断できません
- 「登用の条件は、勤続年数ですか、試験ですか、上長の推薦ですか」——法律の三号(試験制度)まで運用されているのか、一号(社内への募集周知)どまりなのかが分かります。「がんばり次第」で終わるなら、基準が文書化されていないサインです
- 「正社員になったら、給与や手当はどこが変わりますか」——賞与や住宅手当の対象になるのか、月給がいくら上がるのか。何も変わらないなら、その「登用」が目指すゴールを先に知っておくべきです(手当が手取りにどう効くかは求人票の試用期間の書き方で、入社後3か月の手取りが変わるに書きました)
この種の質問にその場で答えられない会社に注意してほしい理由は、昇給欄のときと同じです。制度として運用されているなら、過去3年に誰が正社員になったかという事実は必ずどこかに残っています。数字が出てこないのは、制度が曖昧なまま置かれているサイン。「あり」と書けてしまう欄の読み方という点で、求人票の「昇給あり」に、金額の裏づけは要らないと同じ構造です。
制度の一行より、働いている人の実感のほうが早い
求人票の登用欄から読み取れることには限りがあります。「実際に何年目で正社員になれたのか」を本当に知っているのは、そこで働いている人だけです。
リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、実際に働く人のインタビューと募集要項をセットで掲載しています。制度の一行ではなく働き方のリアルを確かめたい方は、掲載中のインタビュー記事をご覧ください。
まとめ
- 正社員登用は「制度の有無」と「過去3年間の実績」が別の欄。実績欄は自由記述で、人数を書かなくても求人は受理される
- ハローワークの正社員以外求人1,408件の実査では、登用の有無が「あり」は62.1%。うち人数が書いてあるのは54.9%、ゼロ明記16.8%、「あり」や記号だけで人数が読めないもの28.3%
- 人数が書いてあっても分母と範囲はない。中央値4名・47.9%が3名以下で、全国合計の三桁を書く会社もある
- パートタイム・有期雇用労働法第13条が求める措置は3つのいずれか一つ。その一つ目は「正社員募集時に社内へ周知すること」で、制度ありの下限は低い
- 無期転換ルール(労働契約法第18条)で無期になっても労働条件は原則従前と同一。実際、期間の定めなしで「正社員以外」の求人が9.5%あった
- 聞くべきは「この事業所の過去3年の登用人数」「その分母」「条件は年数か試験か推薦か」「正社員になったら何が変わるか」の4点