求人原稿の作成にAIを使う会社は、この1年で一気に増えました。「求人票 作成 ai」で調べている方の目的は、たいてい時間の短縮でしょう。結論から言えば、その目的は達成されます。基礎情報を整えて文章にする作業は、AIが人より速く、しかも抜けなくこなします。
ただし採用支援の現場から見ると、そこで新しい問題が始まります。全社が同じ道具で同じ品質の原稿を作れば、原稿は横並びになるということです。この記事では、AIに任せてよい範囲と、任せた瞬間に差がつかなくなる範囲を切り分けたうえで、人が書くしかない「3訴求」の話をします。
AIに求人原稿を書かせると、まず「抜け」が消える
先に、AIを使うべき領域をはっきりさせておきます。それは基礎情報の網羅です。
給与の下限と上限、固定残業代の内訳、年間休日、勤務時間、選考フロー、必須要件と歓迎要件の区別。求職者が知りたい情報を項目化すると25項目前後になりますが、人が書くと必ずどこかが抜けます。ここにAIを入れると、抜けはほぼゼロになります。「この項目が空欄です」と指摘させるだけでも効果があります。
文章の粗さも消えます。てにをはの乱れ、係り受けの崩れ、社内でしか通じない略語。こうした減点要素は、AIを一度通すだけで大部分がなくなります。だからAIは使ったほうがいいというのが前提です。使わない理由はありません。
全社がAIを使うと、原稿は「減点ゼロ・加点ゼロ」で揃う
問題は、これが自社だけの武器ではないことです。同じエリア・同じ職種の競合も、同じことをしています。
結果として起きるのは、原稿の均質化です。抜けがなく、文法が整い、無難に読める求人が並ぶ。求職者から見ると、どれも減点はないが、どれを選ぶ理由もないという状態になります。条件面で明確に上回っている会社があれば、そこが選ばれて終わりです。
もう1つ、AIには構造的な癖があります。良いことを並べる方向にバイアスがかかることです。「アットホームな職場」「風通しの良い社風」「成長できる環境」。指示しなければ、AIはこの種の言葉を自然に選びます。悪意はなく、そう書くのが無難だからです。そして無難な言葉は、他社の無難な言葉と区別がつきません。
求職者の側も、すでにAIで読んでいる
採用側だけがAIを使っているわけではない点も押さえておく必要があります。転職活動で生成AIを使っている人の割合は58.73%にのぼり、20代では66.67%に達します(出典: ベイジ「【2026年版】AI時代の転職活動実態調査」・n=1,500)。用途の1位は履歴書・職務経歴書の作成と添削で49.38%、2位が企業・業界リサーチで19.18%です。
つまり求職者は、複数社の求人をAIに要約させて比較することができる状態にあります。ここで何が起きるか。要約すると、抽象的な言葉は真っ先に落ちます。「アットホームな職場」は要約に残りません。残るのは具体的な数字と固有の事実だけです。
AIで書いた原稿がAIで要約される。この往復のなかで、生き残るのは一次情報だけになります。
人が書くしかない3訴求「舞台・到達点・現実ルート」
では何を書くのか。支援の現場では、基礎情報25項目に加えて次の3つを言語化することを勧めています。
- 1. どの舞台で戦えるか: その会社で挑める仕事の大きさです。担当する市場の規模、任される予算や人数、扱う案件の種類。「裁量があります」ではなく「初年度から◯名規模のチームを持ちます」と書きます
- 2. 勝つと何者になれるか: 成果を出した先のキャリア像です。役職名、身につく専門性、社外でも通用する市場価値。理念ではなく実在するポジション名で書きます
- 3. そこへ至る現実的なルート: 到達点を絵空事にしないための道筋です。1年目に何をして、何年目に何が任されるのか。社内に実際にいる先輩のステップをそのまま書くのが最も強い形です
この3つは、AIが単独で書くことはできません。社内にしかない事実だからです。逆に言えば、この3つを箇条書きのメモでAIに渡せば、文章に仕上げる部分はAIが引き受けてくれます。役割分担はここで切ります。
3訴求は「等価交換」で書く。大変さを隠さない
3訴求を書くときに、もう1つ守っている原則があります。等価交換です。得られるものを書くなら、その代償も同じ密度で書く、ということです。
任される範囲が広いなら、その分だけ判断の責任が重いこと。成長が速いなら、最初の半年は覚えることが多くて楽ではないこと。繁忙期には残業が発生すること。こうした「きつさ」を先に開示します。
目的は誠実さの演出ではありません。応募の質を変えることです。大変さを読んだうえで応募してきた人は、面接に来る時点ですでに納得しています。入社後に「聞いていた話と違う」で辞めることも減ります。応募数は減りますが、決定率と定着率が上がる。この交換に納得できるかどうかで、この書き方を採用するか決めてください。
ただし注意点があります。代償だけを強調すると応募は止まります。「厳しい環境です」「甘くはありません」だけが並んだ求人は、単に条件の悪い会社に見えます。代償と見返りが釣り合って見えることが条件です。天秤の片側だけを重くしないでください。
また、この書き方は少数精鋭で採るポジションと相性が良く、未経験者を数多く集めたい求人では3訴求を薄めに使います。どちらの型で戦うかを先に決める話は「「応募数は多いほど良い」は誤解。応募数と決定率の逆相関の話」に書いています。
AIに渡す一次情報は、どこから取るか
3訴求を書くには材料が要ります。集め方は3つです。
- 現場の社員に取材する: 1日の流れ、つまずいた場面、乗り越え方。ここから「現実ルート」の具体が出ます。質問の設計は「社員インタビューの質問例30。「志望動機」を聞いてはいけない」が使えます
- 直近で昇進した人の経歴をたどる: 入社から現在までの実際のステップが、そのまま「到達点」の証拠になります
- 採用の決裁者に、なぜ今この人が必要かを聞く: 事業計画のどこに空白があるのかが「舞台」の説明になります
この3つはいずれも社内で完結します。取材にかかる時間は合計で2〜3時間程度で、原稿作成の時短分を使えば十分に賄えます。AIで浮いた時間を取材に回すのが、現時点で最も効率の良い配分だと考えています。
なお、原稿が仕上がったあとの確認作業も忘れないでください。AIが整えるのは文章であって、スマートフォンでの表示崩れや画像の使い回しは検知できません。公開前のチェック項目は「求人票の書き方のコツは、公開前にスマホの「壊れ」を潰すこと」にまとめています。
まとめ
- 基礎情報の網羅と文章の整えはAIに任せる。抜けと減点は確実に消えるので、使わない理由はない
- ただし全社が同じことをするため、AIで作った原稿は「減点ゼロ・加点ゼロ」で横並びになる
- 求職者の58.73%も生成AIを使っている。要約に残るのは具体的な数字と固有の事実だけで、抽象的な形容は落ちる
- 差がつくのは舞台・到達点・現実ルートの3訴求。社内にしかない事実なので、AI単独では書けない
- 3訴求は等価交換で書く。得られるものと同じ密度で代償も開示すると、応募数は減るが決定率と定着率が上がる
- 代償だけを強調しないこと。見返りと釣り合って見えないと、単に条件の悪い会社に見える
- AIで浮いた時間は取材に回す。現場社員・昇進者の経歴・決裁者への確認の3つで材料は揃う