「准看護師も採用の対象に入れるべきか」。看護師の募集が動かないときに、必ず一度は検討される論点です。間口は広がるけれど給与水準を下げることになるのではないか、既存スタッフとの兼ね合いはどうか、という不安が同時に出てきます。
リクプル編集部(株式会社KD3)は2026年8月30日に、看護師・准看護師の正社員求人12,061件を実査しました。資格要件で分けて月給を並べたところ、「看護師・准看護師のいずれかで応募可」とした求人で下がっていたのは、月給の下限だけでした。上限は、正看護師必須の求人とほとんど同じ位置にあります。
この記事では、その構造を実査データで示したうえで、求人票の資格要件欄をどう書き分けるかを整理します。数字はすべて公的職業紹介に出ている正社員求人の月給の中央値で、データは「求人相場ウォッチ(看護師・准看護師)」で公開しています。
まず前提:公開求人の約半分は、准看護師が応募できる
実査した12,061件を資格要件で3つに分けると、件数の内訳はこうなりました。
- 看護師(正看護師)必須——6,198件(51.4%)
- 看護師・准看護師のいずれかで応募可——4,337件(36.0%)
- 准看護師のみ必須——1,526件(12.7%)
准看護師が応募できる求人は5,863件で、全体の48.6%。ほぼ半分です。「准看護師は採用しない」という方針は業界のなかで珍しいものではありませんが、公開されている求人の実態としては、受け入れている側のほうが多数派に近いところにあります。
そのうえで、金額がどうなっているかを見ていきます。
実査12,061件:月給の下限は、資格要件で3段階に分かれる
求人票に出ている提示額(基本給+定額的に支払われる手当+固定残業代)の下限、その中央値です。
- 看護師(正看護師)必須(6,198件)——24.5万円
- いずれかで応募可(4,337件)——22.8万円
- 准看護師のみ必須(1,526件)——20.7万円
3段階にはっきり分かれ、いずれの組み合わせでも95%信頼区間が重なりません。正看護師必須と准看護師のみ必須の差は3.8万円、年に直すと約46万円ぶんです。
この差は、内訳の基本給で引き直しても同じ順序で残りました。20.4万円/19.5万円/17.6万円です。看護師の求人は資格手当や処遇改善手当が月給に組み込まれるため提示額と基本給が大きくズレる職種ですが、資格要件による差はどちらの系列でも消えません。
施設区分を揃えても向きは変わりませんでした。件数が10件しかない「その他」区分を除く5つの施設区分すべてで、提示額は同じ3段階に並びます。介護施設だけに絞っても基本給は20.5万円/19.1万円/18.0万円で、逆転しません。
ひとつ補足しておくと、この点は前回の実査(358件)の結論を書き換えています。前回は「基本給では差が確定しない」「介護施設では基本給の向きが逆転する」と記録していましたが、標本を34倍にした今回はどちらも再現しませんでした。標本が薄いときの「確定しない」は「差がない」ではない、という例です。
ところが上限はほぼ同じ。「いずれか可」の求人で起きていること
ここが今回いちばんお伝えしたい点です。同じ求人票の上限額(「〜◯◯万円」の側)の中央値を並べると、景色が変わります。
- 看護師(正看護師)必須——30.6万円
- いずれかで応募可——29.0万円
- 准看護師のみ必須——25.7万円
下限では1.7万円あった正看護師必須と「いずれかで応募可」の差が、上限では1.6万円。ほぼ横並びです。一方で准看護師のみ必須は、上限でも4.9万円低いままでした。
この並び方が意味するのは1つです。「いずれかで応募可」の求人は、レンジの下限を准看護師に、上限を正看護師に対応させて書かれている。1つの求人票のなかに2つの資格の相場が同居しているわけです。
だから「准看護師も可にすると月給を下げることになる」という言い方は、正確ではありません。下がるのはレンジの入口だけで、正看護師を採ったときに提示できる上のほうの金額は、正看護師必須の求人と変わらない位置に置けます。実際に半数近くの求人がそう書いています。
その求人票が求職者にどう読まれるか
採用側にとって都合のよい構造に見えますが、そのまま出すと副作用があります。求職者は、レンジの真ん中を自分の期待値として読みます。
「月給22.8万円〜29.0万円」と書かれた求人を正看護師が見たとき、自分がどちら側に当たるのかは求人票からは分かりません。中間の26万円くらいだろうと読んで応募し、面接で下限に近い提示を受ければ、そこで話が止まります。逆に准看護師が上限を期待して応募した場合も同じことが起きます。
支援の現場でも、入口の期待値がズレたまま選考が進んだ案件は、内定辞退か早期離職のどちらかで戻ってくる傾向があります。求人票の1行を削ったぶんが、そのまま選考の後半に持ち越されるかたちです。
実査データからは、この読み違いが起きやすい条件も見えます。看護師の求人は提示額と基本給の乖離が大きく、基本給は提示額の中央値86.6%、12,061件のうち62%が9割を切っています。レンジの幅と内訳の不透明さが重なると、求職者の側で金額を再構成する手がかりがなくなります。
資格要件欄と給与欄を、対応させて書く
打ち手はシンプルで、資格要件を「いずれか可」にするなら、給与欄でどちらがどこに当たるかを書き分けるということに尽きます。実査データから言える具体的な書き方は次の通りです。
まず、レンジを1本で書かず資格ごとに分けます。「月給22.8万円〜29.0万円」ではなく「正看護師:月給24.5万円〜/准看護師:月給20.7万円〜」の形です。実査の中央値がそのまま自社の水準になるわけではありませんが、2本に分けて書くこと自体が、レンジの真ん中を期待値として読まれる事故を防ぎます。そのうえで、准看護師のみ必須の求人が上限25.7万円で頭打ちになっている一方、「いずれか可」の求人の上限が29.0万円まで届いていることは、准看護師にとっては上を目指せる求人という読み方にもなります。
次に、上限額が誰の数字かを1行添えます。「上限は正看護師・経験◯年以上の実績です」と書けるかどうかで、同じ29.0万円の意味が変わります。求人票の給与の幅は職種で決まっているという記事でも書いたとおり、幅の広い求人ほど上限の根拠を書かないと効きません。
最後に、提示額の内訳を書きます。看護師の求人では資格手当が金額を作っている割合が大きく、資格要件を分けて書くなら、その手当が資格ごとにいくらなのかまで書けると、下限と上限の差の説明がそのまま成立します。
なお、資格要件より先に効く分割軸が別にあります。実査では施設区分(訪問看護・介護施設・クリニック・病院)だけで3.7万円の幅が出ており、これは資格要件を揃えても残ります。詳しくは看護師の採用単価を実査した記事の施設区分の節に書いています(同記事の夜勤に関する結論は、今回の12,061件で書き換わっています。該当箇所に追記済みです)。自社の水準を決めるときは、施設区分を揃えた相場を先に確認してください。
まとめ
- 公開されている看護師求人の48.6%は、准看護師が応募できます。受け入れは例外的な設計ではありません
- 月給の下限は資格要件で3段階に分かれます。正看護師必須24.5万円/いずれか可22.8万円/准看護師のみ必須20.7万円で、信頼区間は重なりません
- 上限では差がほとんどありません。正看護師必須30.6万円に対し、いずれか可は29.0万円。准看護師のみ必須だけが25.7万円と低いままです
- つまり「いずれか可」の求人は、下限を准看護師・上限を正看護師に対応させて書かれています。准看護師を対象に入れて下がるのは、レンジの入口だけです
- ただし求職者はレンジの真ん中を期待値として読みます。1本のレンジで出すと、入口の期待値がズレたまま選考が進みます
- 打ち手は、資格ごとにレンジを2本に分けて書く・上限が誰の数字かを1行添える・提示額の内訳を書くの3つです
- 資格要件より先に効く分割軸は施設区分(3.7万円の幅)です。相場を確認する順番は、施設区分→資格要件になります
准看護師を採用対象に入れるかどうかは、給与を下げるかどうかの判断ではありません。レンジをどう書き分けるかの判断です。実査データは「求人相場ウォッチ(看護師・准看護師)」で全件公開しているので、募集要項を組むときの土俵合わせにお使いください。