「求人広告 費用」「求人広告 費用 相場」で検索すると、媒体別の料金表が並びます。ただ、その表を見ても自社がいくら使うべきかは決まりません。相場は他社が払った金額の平均であって、自社の求人が今どれだけ効率的にお金を使えているかとは別の話だからです。
私たちが支援の現場で繰り返し見てきたのは、クリック単価が安い運用ほど、費用の内訳を分解しないと危ないという現象です。安いクリックは、求人ページに到達しないクリックであることがあります。この記事では、実際に運用したSNS採用広告1ヶ月分の数字を使って、求人広告の費用をどの単位で見るべきかを整理します。
「相場」を調べても自社の費用が決まらない理由
求人広告の費用相場が読みにくくなっている背景には、市場側の事情もあります。民間の転職求人倍率は2026年6月時点で2.55倍、求人数は前年同月比で+16.6%伸びている一方、転職希望者数の伸びは+6.7%にとどまっています(出典: パーソルキャリア「doda転職求人倍率 2026年6月・2026年第1四半期レポート」)。求人の増え方が求職者の増え方を上回っている状態では、同じ費用で買える露出は年々やせていきます。去年の相場感がそのまま今年通用しない、というのはこの構造から来ています。
だからこそ、相場より先に決めるべきなのは「自社の広告費を、何の単価で管理するか」です。ここが「クリック単価(CPC)」のままだと、費用が安く見えているのに応募が来ない状態を、誰も説明できなくなります。なお、そもそも効果が出ていないと感じている段階の方は、費用の話に入る前に測定の型を整えたほうが早いので「求人広告の効果が「ない」と感じたら、まず測定をやり直す」を先にお読みください。
クリック単価が良好でも、応募までに2段の脱落がある
ある医療系の専門職の中途採用で、SNS広告(バナー配信)を1ヶ月運用したときの実測値です。広告費は約9万円。数字は丸めていますが、通過率はそのままです。
- 表示回数:約15万1,000回
- クリック:1,669件(クリック率1.10%/クリック単価 約55円)
- 求人ページ(LP)への到達:約704件 = クリックの42.2%
- 応募フォームへの遷移:119件 = 到達の約16.7%(6人に1人)
クリック率1.10%・クリック単価55円は、医療系の採用広告としては良好な水準です。広告レポートを「表示・クリック・CTR・CPC」の4行で締めていたら、この月は「順調です」と報告して終わっていました。
ところが実際には、クリックした人の57.8%が求人ページにたどり着いていません。ここが最大の脱落です。しかもこの層は、広告クリエイティブの出来でもLPの中身でもなく、読み込み速度・遷移の設計・誤タップといった領域で失われています。クリック率が高いほど、この「到達しないクリック」の絶対数も増えます。
費用の単位をここで変えます。クリック単価55円ではなく、応募フォーム到達1件あたり約730円(広告費約9万円 ÷ 119件)。これが、この月に実際に買えたものの単価です。相場表と比べるべきなのは55円ではなくこちらです。
安いクリックは「配信面」が作っている
なぜクリック単価が55円まで下がったのか。配信面ごとの消化額を見ると、答えが出ていました。
- 提携アプリ内のバナー枠(オーディエンスネットワーク):消化額の約92%
- Instagram:約7%
- Facebook本体:約1%
- クリックの100%がモバイルアプリ経由
広告費のほとんどが、SNS本体ではなく提携アプリ内のバナー枠に流れていました。この枠は単価が安く、そのぶんクリック単価の平均を大きく引き下げます。同時に、アプリ内から外部サイトへ遷移する構造上、到達率が落ちやすい枠でもあります。「クリック単価が下がった」と「到達しないクリックが増えた」が同じ原因で起きていたわけです。
実務としては、月次で配信面別の消化額の比率を必ず見てください。この比率が先月より上がっていたら、到達率の低下を疑うのが先です。クリック単価だけを見ていると、悪化を「改善」と読み違えます。
ひとつ留保をつけておくと、到達率42.2%が業界的に低いのかどうかは、私たちもまだ断定できません。同じ条件で計測できた案件が現時点で1件だからです。ここは今後の案件で継続して取っていく数字です。ただし、「クリック単価と到達率が同じ原因で動く」という構造そのものは、配信面の内訳を見れば誰でも確認できます。
ターゲット設定は、費用の精度を保証しない
もうひとつ、費用の効率を静かに下げていた要因があります。この配信では年齢ターゲットを45歳以下に設定していましたが、応募フォームに遷移した119件のうち、65歳以上が25件ありました。年齢層としては3番目に多い数です。
プラットフォームの年齢ターゲティングは、執筆時点では完全には効きません。設定した年齢の外にも配信され、そのクリックにも費用は発生します。対象外を弾く役割は、ターゲティング設定ではなくクリエイティブ側が担う必要があるということです。バナーの文言に職種名と主要な応募条件を明記して、対象外の人がそもそもクリックしない形にするのが実務的な対処になります。この考え方は媒体をまたいで共通で、Indeedでの費用対効果を論じた「Indeedの費用対効果は応募単価では測れない。見る数字は採用単価」でも同じ話をしています。
求人広告の費用を管理する4行のレポート
ここまでを実務の型にまとめます。求人広告の月次レポートは、次の4行+2項目で作ってください。代理店から出てくるレポートがCTRとCPCで止まっているなら、この形で出し直してもらう価値があります。
- 1. 表示回数(露出が足りているか)
- 2. クリック数・クリック率・クリック単価(クリエイティブが効いているか)
- 3. 求人ページへの到達数と到達率(クリックが無駄になっていないか)
- 4. 応募フォームへの遷移数と遷移率(求人ページが機能しているか)
- + 配信面別の消化額(安さの正体はどこか)
- + 遷移者の年齢・属性分布(対象者に届いているか)
この4行があると、費用対効果が悪いときに「どこを直すか」が一意に決まります。到達率が低ければ配信面と遷移設計、遷移率が低ければ求人ページの中身、クリック率が低ければクリエイティブ。逆にこの分解がないと、打ち手が「予算を増やす」か「媒体を変える」の二択になります。
そのうえで、月にいくらまで出すかという上限額は、広告の効率とは別のロジックで決めます。採用枠から逆算する方法は「採用予算の決め方は「積み上げ」でなく採用枠からの逆算」にまとめています。上限は採用枠で決め、その中の効率はこの4行で見る——この2つを分けて持つのが、求人広告費のいちばん壊れにくい管理の形です。
まとめ
- 求人広告の費用は「相場」ではなく「自社が何の単価で管理しているか」で決まる
- 求人数の伸び(前年同月比+16.6%)が転職希望者数の伸び(+6.7%)を上回る市場では、去年の相場感はそのまま使えない
- 実測ではクリック率1.10%・クリック単価約55円と良好でも、クリックの57.8%が求人ページに到達していなかった
- 見るべき単価はクリック単価ではなく、応募フォーム到達1件あたり(この例では約730円)
- クリック単価の安さは、提携アプリ内バナー枠(消化額の92%)が作っていた。安さと到達率の低さは同じ原因から来ている
- 年齢ターゲティングは完全には効かない(45歳以下設定でも遷移119件中25件が65歳以上)。対象外はクリエイティブで弾く
- 月次レポートは「表示→クリック→到達→フォーム遷移」の4行+配信面別消化額+属性分布で作る
費用を下げる工夫より先に、費用の見え方を1段細かくする。それだけで、来月直す場所が具体的になります。