採用サイトの制作を検討しはじめると、まず相場を調べます。検索すれば「小規模なら30万円前後、しっかり作るなら100万円以上」といった金額表がいくらでも出てきます。ところが、実際に制作会社から見積もりを2〜3社分もらって並べた瞬間に、その相場表は役に立たなくなります。金額の差が何の差なのかが、相場表からは分からないからです。
私たちも同じ壁に当たりました。採用サイトの制作プランを「ページ数」「デザインの自由度」で説明していたころ、お客様から返ってくる反応はいつも同じでした。高いほうを選ぶ理由が分からない、です。ページが3枚増えることと、金額が数十万円上がることが、頭のなかでつながりません。
そこで説明の軸を変えました。株式会社KD3がいまプランを分けている基準は、機能でも枚数でもなく「納品されたあと、自社で回せるかどうか」です。この軸で分けると、金額差の理由が1分で伝わります。
この記事は、その経験を発注する側に置き換えたものです。見積もりを比べるときに確認する3点——募集要項の更新権/ソースコードの譲渡/保守の範囲を扱います。相場表の代わりに使ってください。
相場表が使えないのは、金額の幅が「作業量の幅」ではないから
制作費用の相場が30万円から100万円超まで開いているのは事実です。ただ、その幅はページ数や工数の幅とはあまり一致していません。同じ「50万円」でも、公開後に自社で文字ひとつ直せないサイトと、募集要項を自社で書き換えられるサイトが両方あります。相場表は「いくらか」しか比べていないので、この差が消えます。
そして採用サイトは、公開して終わる制作物ではありません。募集職種は増えたり止まったりしますし、給与も年間休日も改定されます。支援の現場で見ていても、公開後1年のあいだに一度も内容を触らない採用サイトはほとんどありません。つまり見積もりを比べるときに効くのは、作るときの値段ではなく、触るたびに発生する手間と費用のほうです。
この観点は、求人広告の費用を比べるときの考え方と同じです(参考: 求人広告の費用の内訳)。掲載金額そのものではなく、運用で動く部分がどこかを先に見ます。
1点目。募集要項を自社で更新できるか
3点のうち、いちばん効くのがこれです。理由ははっきりしていて、募集要項は採用サイトの中でもっとも見られ、かつもっとも変わるページだからです。
ベイジが中途採用の転職者に行った調査では、採用サイトで「まず見たい情報」の1位は募集要項で51.1%でした(出典: ベイジ「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」)。会社紹介でも社員インタビューでもなく、条件が書いてあるページに直行する人が半数を超えます。
ここが古いまま放置されると、いちばん見られるページで「いまは募集していない職種」「前回改定前の給与」を見せることになります。更新のたびに制作会社へ依頼して、数日待って、修正費が発生する形だと、必ず後回しになります。
見積もりで確認する言い方はシンプルです。
- 募集要項の追加・削除・条件変更は、自社の担当者が管理画面から行えますか
- 行えない場合、1回あたりの費用と、依頼から反映までの日数はどれくらいですか
- 職種を1つ増やすときも同じ扱いですか
私たちがプランを分けるときも、ここを境目にしています。下位プランは1ページ完結型で公開後の変更が限られるもの、上位プランは募集要項をお客様側で更新いただけるもの。金額差の説明はこの一行で足ります。
2点目。ソースコードを渡してもらえるか
これは一見、制作会社にとって不利な条件に見えます。ソースコードを渡せば、次からよそに頼めてしまうからです。実際に私たちも、渡すと明記することにしたときは迷いました。
ただ、発注する側の立場で考えると逆でした。発注側がいちばん怖いのは、作ったあとに業者に握られることです。会社のホームページを別の会社が管理していて、採用サイトだけまた別の会社になると、小さな修正のたびに窓口を探すことになります。
「ソースコードもお渡しできますので、御社のホームページ制作会社様での修正も可能です」と先に言い切ると、この不安が消えます。そのうえで保守を払える金額で提示すると、「渡せるけれど、やってもらったほうが楽だ」という結論に落ち着きます。囲い込みを外した代わりに、継続的な関係は保守と採用運用のほうで作る、という形です。
発注側として確認するなら、次の2つです。
- 契約終了後、サイトのソースコードとデータは自社に残りますか(独自の管理システム上でしか動かない作りになっていないか)
- ドメインとサーバーの契約名義は自社ですか
後者を見落とすと、サイトは手元にあってもURLが動かせない、という事態になります。
3点目。「保守」に何が含まれるかを、範囲で切って聞く
保守費の月額だけを3社で比べても意味がありません。「保守」という言葉が指す範囲が会社ごとに違うからです。サーバー費用だけを指している場合もあれば、文章修正まで含む場合もあります。
比べられる形にするには、範囲を切って聞きます。私たちがお客様に提示するときも、混ぜずに分けています。執筆時点の一例として、会社紹介の部分の保守は月5,000円でお引き受けし、募集要項の更新はお客様側で行っていただくという切り方です。ここを混ぜて「保守込み」と書いてしまうと、更新権をどちらが持っているのかが見えなくなります。
- サーバー・ドメイン・SSLの維持費は保守費に含まれますか、実費請求ですか
- 会社紹介や写真の差し替えは、月額の範囲内ですか、都度見積もりですか
- 募集要項の更新はどちらが行う前提ですか
この3問を同じ文面で各社に投げると、金額表よりずっと早く比較ができます。
上位プランを選ぶ理由は、値引きではなく「範囲の追加」で作る
ここからは、見積もりをもらったあとに交渉する側の話です。上位プランに寄せてもらうとき、値引きを求めると相手は品質か範囲のどちらかを削ります。代わりに範囲を足してもらうほうが、結果として得られるものが増えます。
私たちが実際に提案で使っているのは、拠点や職種をもう1つ分だけ含めてもらう形です。工場や店舗を複数持つ会社なら、上位プランを選んだ場合に「もう1拠点分の求人作成と取材を含める」と提示します。値引きをしていないので単価は崩れませんが、お客様から見れば差額以上の価値が付きます。
単一拠点の会社ではこれが効かないので、そのときは職種の追加や取材回数に置き換えます。発注する側からも、「同じ金額で、もう1職種分の原稿と撮影を入れてもらえますか」という聞き方はできます。
見積もりを取る前に、社内で決めておく3つ
最後に順番の話です。上の3点は、自社の前提が決まっていないと答え合わせができません。見積もりを依頼する前に、次を決めておくと比較が早くなります。
- 公開後に誰が更新するか。担当者名まで決める。決まらないなら、更新権よりも「依頼したら何日で直るか」のほうが重要になります
- 年に何回くらい募集内容が変わるか。職種の増減、給与改定、年間休日の変更を数えます。回数が多いほど更新権の価値が上がります
- 既存のホームページを誰が管理しているか。同じ会社に頼めるなら、ソースコード譲渡の優先度は下がります
なお、これは「どんな内容を載せるか」とは別の話です。中身の設計については採用サイトに足りないコンテンツは「不安1位・人間関係」への回答を合わせてお読みください。採用サイトは載せる中身と公開後に直せる体制の両方がそろって初めて機能します。
まとめ
- 採用サイトの制作費用の相場表は、金額しか比べていない。同じ金額でも公開後に自社で直せるかどうかが違うので、見積もり選びの役には立たない
- プランの差は「ページ数」「デザインの自由度」では伝わらない。株式会社KD3は「納品されたあと自社で回せるか」で分けるようにしてから、金額差の説明が一行で済むようになった
- 確認する1点目は募集要項の更新権。転職者が採用サイトでまず見たい情報の1位は募集要項51.1%(ベイジ調査)で、もっとも見られ、もっとも変わるページを外注依存にしない
- 2点目はソースコードとドメイン名義。発注側の最大の不安は「作ったあとに業者に握られること」なので、渡せると言い切れる相手かを見る
- 3点目は保守の範囲。月額だけを比べず、サーバー実費/会社紹介の修正/募集要項の更新を分けて聞く。混ぜると更新権の所在が見えなくなる
- 上位プランに寄せるときは値引きではなく範囲の追加で。複数拠点なら1拠点分、単一拠点なら職種や取材回数を足してもらう
- 見積もり依頼の前に、更新担当者・年間の変更回数・既存サイトの管理会社の3つを決めておくと比較が早い