「月給28万円(固定残業代4万円/30時間分を含む)」。この一行を見て、応募をやめたことがある人は多いと思います。「固定残業代 やばい」という検索が絶えないのも、そのためでしょう。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。その立場で正直に言うと、固定残業代があるかないかで求人を切ってしまうのは、かなりもったいない読み方です。切るべき求人と、そうでない求人が同じ言葉で括られてしまいます。
この記事では、私たちが実際に集計した求人データをもとに、固定残業代のどこを見れば判断できるのかを1点に絞ってお伝えします。使うのは、8職種・合計1,136件の求人を職種ごとに実査した「求人相場ウォッチ」のデータです(正社員・重複排除後・2026年7月実査)。
まず前提: 固定残業代は「その職種の慣行」で決まっている部分が大きい
実査してはっきり分かったのは、固定残業代の有無が会社の姿勢より先に、職種の設計として決まっているということでした。同じ方法で集計した職種別の出現率がこれです。
- 営業: 内訳が読めた51件のうち24件(47%)
- 施工管理: 内訳が読める媒体50件のうち17件(34%)
- 事務: 内訳が読める媒体40件のうち9件(23%)
- 自動車整備士: 130件のうち16件(12%)
- 電気工事士: 126件のうち15件(12%)
- 看護師: 有無を確認できた108件のうち11件(10%)
- 保育士: 150件のうち5件(3.3%)
営業の47%と保育士の3.3%では、同じ「固定残業代あり」の意味がまったく違います。営業では固定残業代のある求人が半分近くを占めるので、それだけで会社の性格は判別できません。逆に保育士では例外的な設計なので、なぜこの園だけ設定しているのかを確認する価値があるという読み方になります。
※職種によって分母が違います(全件で数えた職種と、給与の内訳が読める媒体に絞って数えた職種が混在しています)。割合はあくまで職種間の傾向を見るための目安として扱ってください。
本題: 同じ「あり」でも、想定時間は12時間から31時間まで違う
ここが本題です。固定残業代に設定されている想定残業時間の中央値を職種別に並べると、こうなりました。
- 自動車整備士: 31時間(時間数まで判明した14件中8件が30時間以上、最長45時間)
- 施工管理: 26.5時間(額まで確認できた53件。40時間以上に設定された求人が12件)
- 事務: 20時間(額まで確認できた38件。30時間以上が10件、40時間以上も4件)
- 看護師: 20時間(該当する11件。額の中央値は4.0万円)
- 電気工事士: 13時間(該当する15件。30時間以上は3件、最長40時間)
- 保育士: 12時間(該当する5件。30時間以上に設定された求人は1件もなし)
整備士の31時間と保育士の12時間では、2.5倍以上の差があります。「固定残業代あり」という同じ文字列が、まったく違う働き方を指しているということです。
だから見るべきは、あるかないかではなく何時間分か。ここが今回いちばんお伝えしたい1点です。金額(4万円か2万円か)よりも、時間数のほうが入社後の生活を左右します。
時間数が長い求人は、時間あたりで見ると順位が入れ替わる
なぜ時間数なのか。実例を挙げます。
電気工事士の実査で見つかった求人に、提示額27.5万円・基本給21.2万円、差額は40時間分の固定残業代というものがありました。同じ実査で、固定残業代なしの求人の月給下限の中央値は22.0万円です。
数字だけ見れば27.5万円のほうが5万円以上高い。ただしその5万円は、月40時間働いて初めて届く額です。所定時間内で帰れる22.0万円の求人と並べたとき、時間あたりの条件は逆転しえます。
この構造は、求人検索の一覧では絶対に見えません。一覧に出ているのは「月給27.5万円」という数字だけだからです。月給の高い求人が並んでいるとき、その高さが基本給の差なのか、残業前提の数字なのかで、意味が正反対になります。
ちなみに「残業しなかったらどうなるのか」という疑問については、固定残業代は実際の残業がその時間に満たなくても支払われる設計が一般的です(詳細は各社の就業規則によります)。その意味では求職者に不利な仕組みとは限りません。問題は、時間数が長く設定されているほどその時間まで働くことが会社の想定になっているという点にあります。
もう1つ見る場所: 差額を引いたあと、基本給がいくら残るか
時間数と並んで見てほしいのが、基本給です。実査では、提示額に対する基本給の割合が職種によって大きく違いました。
- 営業: 基本給は提示額の中央値92%。ただし4件に1件は79%以下で、最も低い求人は32%(提示28.0万円に対し基本給9.0万円)
- 看護師: 中央値86%。内訳が読めた104件で、提示額と基本給が同額だった求人は1件もなし
- 電気工事士: 中央値98%。126件のうち58件は提示額と基本給が完全に同額
- 自動車整備士: 中央値97%
基本給が効いてくるのは、月々の給与よりもそれ以外の場面です。
- 賞与: 「基本給の◯ヶ月分」で計算する会社が少なくありません。提示額が同じ25万円でも、基本給21万円と基本給15万円では、同じ「4ヶ月分」でも受け取る額が24万円変わります(この話は「賞与「実績4ヶ月」と「規定による」の決定的な違い」に詳しく書きました)
- 退職金: 基本給と勤続年数で計算する制度が一般的です
- 固定残業時間を超えた分の残業代: 割増単価も基本給がベースです
つまり固定残業代で月給欄を厚くしている求人ほど、月給以外の場面で目減りしやすいという関係になります。ここまで見て初めて「やばいかどうか」が判断できます。
内訳が書かれていない求人はどう読むか
とはいえ、多くの求人票には内訳が書かれていません。実査でも、給与の内訳を判別できた割合は媒体によって100%・70%・38%とばらつきました。作る側の事情を正直に言えば、内訳を書く欄がある媒体と、自由記述に頼る媒体があるためです。
そこで実務的な方法を1つ。公的職業紹介(ハローワーク)の求人票は、賃金欄が「基本給(a)」「定額的に支払われる手当(b)」「固定残業代(c)」に分けて書かれる構造になっています。気になる会社が民間の求人サイトにも公的職業紹介にも出している場合、後者を見れば内訳が読めます。実査でも、この構造のおかげで電気工事士は126件すべてで内訳を取得できました。
同じ会社の求人が片方にしかない場合は、面接で聞くことになります。
面接で聞くなら、この3つ
採用する側として答えづらい質問ではありません。むしろ、ここを明確に答えられる会社は求人票の設計がしっかりしています。二次面接以降で聞くのが無難です。
- 「月給◯万円の内訳を教えてください。基本給はいくらになりますか」——最も重要な質問です。答えられない、あるいは濁される場合は、その理由のほうが情報になります
- 「固定残業代の◯時間分というのは、実際の平均残業時間に近い数字でしょうか」——設定時間と実態が合っているかを確認します。「実際はもっと少ない」なら理由(繁忙期対応など)を、「だいたいその通り」なら常態化している前提で判断できます
- 「超過分は別途支給されますか。賞与は基本給の何ヶ月分で計算されますか」——この2つで、基本給が低いことの影響範囲が分かります
なお、固定残業代の設定そのものが適法かどうか(金額と時間数の明示、最低賃金との関係など)の判断は、専門家に相談してください。この記事は求人票の読み方の話に限っています。
まとめ
- 固定残業代の有無は職種の慣行でほぼ決まる。実査では営業47%・施工管理34%・事務23%に対し、保育士は3.3%だった
- だから「固定残業代あり=やばい会社」という判定は成立しない
- 見るべきは時間数。同じ「あり」でも想定時間の中央値は保育士12時間から整備士31時間まで2.5倍以上開く
- 時間数が長い求人は、月給が高く見えても時間あたりでは逆転しうる(実例: 提示27.5万円・基本給21.2万円・40時間分)
- もう1つ見るのは基本給。賞与・退職金・超過分の割増単価はすべて基本給がベースになる
- 内訳が書かれていない場合は、公的職業紹介の求人票(基本給a・手当b・固定残業代cの構造)と突き合わせるか、二次面接以降で内訳・実際の残業時間・超過分の扱いの3点を聞く