求人票の給与欄に「職務手当」「営業手当」「処遇改善手当」といった名前が並んでいると、その分だけ得をしているように見えます。逆に手当の記載がまったくない求人は、少し物足りなく感じるかもしれません。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業の採用を支援し、求人票を作る側にいます。あわせて、公開されている求人票の月給欄を職種ごとに数千〜1万件単位で集計する求人相場ウォッチも続けています。その両方から見えたことをお伝えします。
結論から言うと、求人票の手当は、月給の額面をほとんど増やしていません。手当がついている求人で減っているのは、基本給のほうです。
前提: 月給欄は「基本給+定額手当+固定残業代」の合計
求人票の「月給◯◯万円」は、多くの場合ひとつの数字ではなく合計額です。公的職業紹介(ハローワークインターネットサービス)の求人票は、この内訳が構造的に分かれて書かれています。
- a 基本給──毎月の賃金のベースになる部分
- b 定額的に支払われる手当──職務手当・技能手当・処遇改善手当・営業手当・運行手当など、毎月定額で払われるもの
- c 固定残業代──あらかじめ決まった時間数ぶんの残業代を先に払う形にしたもの
相場ウォッチで「提示額」と呼んでいるのはこのa+b+cの合計で、求人サイトで目にする「月給」もほぼこれにあたります。つまり同じ「月給23万円」でも、23万円まるごとが基本給の会社と、基本給17万円+手当6万円の会社が、同じ見た目で並んでいるということです。
実測: 手当があってもなくても、月給の額面はほぼ同じだった
手当が「上乗せ」なら、手当のある求人のほうが額面は高くなるはずです。同じ職種の中で分けて比べました。トラックドライバーの求人8,033件(全国47都道府県・2026年8月時点)の結果です。
- 定額手当がある求人 3,591件 … 提示額 23.1万円/同じ求人の基本給 17.0万円
- 定額手当がない求人 2,877件 … 提示額 23.0万円/同じ求人の基本給 23.0万円(いずれも中央値)
額面の差は0.1万円しかありません。ところが基本給は17.0万円と23.0万円で、6万円離れています。手当のない2,877件のうち2,874件は、提示額と基本給が1円単位で完全に同額でした。そして手当そのものの額の中央値も、ちょうど6.0万円です。
介護職の求人7,735件でも同じ形が出ました。定額手当も固定残業代もない740件は提示額19.5万円・基本給19.5万円(740件すべてが完全に同額)。手当のある6,500件は提示額20.0万円・基本給16.5万円です。額面の差は0.5万円なのに、基本給の差は3.0万円あります。
手当がついているぶん月給が高い、という形にはなっていません。同じ額面を、基本給だけで払う会社と、基本給を下げて手当を乗せる会社に分かれているだけです。求人を作る側から見ても、集計データから見ても、これがいちばん正直な説明です。
職種によって「月給欄の意味」がまるで違う
もうひとつ重要なのは、この乖離の大きさが職種によって違うことです。実査した職種の基本給が提示額に占める割合(中央値)を並べます。
- 介護職 82.6%(7,735件)/保育士 85.5%(7,246件)/看護師 86.6%(12,061件)
- トラックドライバー 88%(8,033件)/営業 91%(8,679件)
- 事務 98.8%(11,556件)
- 溶接工・工場/製造・自動車整備士・電気工事士 いずれも100%
下のグループ、たとえば溶接工や電気工事士では、月給欄はほぼそのまま基本給と読んで構いません。一方で介護・保育・看護・ドライバーでは、月給欄の1〜2割は基本給ではない何かです。極端な求人も実在し、ドライバーでは月給32.0万円に対し基本給2.0万円、営業では月給28.0万円に対し基本給6.0万円という求人がありました。違法な書き方ではなく、内訳がそう書いてあるだけです。
同じ「月給25万円」でも職種によって読み方を変える必要があり、職種をまたぐ転職で額面だけを比べるのがいちばん危ないのはこのためです。
手当には2種類ある。固定残業代と、それ以外
混同されやすいのが固定残業代との違いです。固定残業代は残業代の先払いなので、残業時間ぶんの対価という説明がつきます。しかし今回の乖離は別のものです。
介護職では、固定残業代の記載がある求人は7,735件中495件(6.4%)だけです。その495件を除いた7,240件で集計しても、基本給の中央値は16.7万円のまま動きませんでした。乖離を作っているのは残業代ではなく、処遇改善手当や資格手当といった定額手当です。
注意したいのが幅で書かれた手当です。ドライバーの求人票では「運行手当 96,780円〜222,120円」のような記載があり、これは運行の本数や距離で額が変わるという意味です。下限側の額が毎月必ず出るのかは、求人票の数字だけでは分かりません。
なぜ基本給の額を気にする必要があるのか
「毎月の手取りが同じなら内訳はどうでもいい」と思うかもしれません。その月の収入だけを見ればそのとおりです。差が出るのは基本給を計算の基礎にしている支給のほうです。
- 賞与──賞与欄が「基本給の◯か月分」の場合、基本給が低いほど賞与も小さくなります。月給20万円・基本給20万円の会社と、月給20万円・基本給16万円の会社では、同じ「計4か月分」でも年間で16万円変わります
- 退職金──勤続年数と基本給から計算する制度が使われることがあります
- 残業代・休業補償──割増賃金の計算基礎になる範囲は法令で決まっており、手当の名前ではなく実態で判断されます。判断が難しい場面もあるため、疑問があれば労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に相談してください
会社ごとの制度差が大きく、求人票だけでは確定しません。断定できるのは「額面が同じなら、基本給が高いほうが有利になる場面が多い」というところまでです。
なお、手当が乗ること自体が悪いわけではありません。介護の処遇改善手当のように、制度上その形で支給されるものもあります。問題は同じ額面の求人を比べるときに、内訳を見ないと比較にならないという点です。
内訳を確かめる4つの方法
民間の求人サイトでは「月給◯◯万円〜」だけで内訳が出ていないことがよくあります。それでも段階的に確認できます。
- ①同じ会社の求人を公的職業紹介で探す。ハローワークインターネットサービスの求人票は基本給・定額手当・固定残業代が分けて記載されます。同じ会社が両方に出していれば内訳だけそちらで読めます。これは私たちが相場ウォッチの実査で実際に使っている方法です
- ②賞与欄の書き方から逆算する。「賞与 年2回(基本給の◯か月分)」とあれば、その会社は基本給を計算基礎にしています。基本給の額を確認する意味が特に大きくなります
- ③条件面談で内訳を聞く。「月給の内訳として、基本給と各手当の額を教えていただけますか」が最も直接的です。賞与欄が「◯か月分」の会社なら「その基本給はいくらになりますか」、幅で書かれた手当があれば「毎月固定ですか、実績によって変動しますか」と続けます。金額の質問は1次面接の冒頭ではなく、選考が進んだ段階や条件面談で切り出せば失礼にはなりません
- ④労働条件通知書で最終確認する。内定後に受け取る書面には基本給と各手当の額が明記されます。求人票と食い違っていないかを、入社を決める前に必ず確認してください
内訳の質問は「入社後に揉めないための確認」なので、採用側は嫌がりません。むしろ内訳を出すことを渋る会社は、入社後の賃金制度も曖昧である可能性があります。
職種ごとの実額は、トラックドライバーの相場や介護職の相場で、提示額と基本給を同じ求人どうしで対応させた分布として公開しています。応募先と同じ職種のページを先に見ると、その職種で月給欄がどれくらい当てになるかが分かります。あわせて、実際に働く人のインタビュー記事もご覧ください。
まとめ
- 求人票の月給欄は「基本給+定額手当+固定残業代」の合計。手当は上乗せではなく、基本給からの振り替えになっていることが多い
- ドライバー8,033件では、手当あり/なしで提示額は23.1万円と23.0万円(差0.1万円)なのに、基本給は17.0万円と23.0万円で6万円離れた。介護職7,735件でも同じ形
- 基本給が提示額に占める割合は職種差が大きい。介護82.6%・保育士85.5%・看護師86.6%に対し、溶接工・工場・整備士・電気工事士は100%
- 基本給は賞与・退職金・割増賃金の計算基礎になることが多く、額面が同じなら基本給が高いほうが有利になる場面が多い
- 内訳は、公的職業紹介の求人票・賞与欄の書き方・条件面談での質問・労働条件通知書の4段階で確認できる