「残業が少ない職種」「土日休みで残業が少ない仕事」。転職を考えはじめると、まずこのあたりを調べる方が多いと思います。ところがランキング記事を読んで実際の求人票に戻ると、結局その会社の残業がどれくらいなのかはわからない──そんな経験はないでしょうか。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業の採用を支援し、求人票を作る側にいます。この記事では、その立場だから知っている「求人票に書かれる残業時間の作られ方」と、同じ求人票の中にあるもっと正直な1行、そしてその1行がそもそも載らない職種があるという非対称を、実際に集めた求人票のデータとあわせてお伝えします。
内幕①: 「月平均の時間外労働◯時間」は会社の自己申告値
公的職業紹介(ハローワーク)の求人票には「時間外労働時間(月平均)」という欄があります。ここに書かれる数字が、求職者が最初に目にする残業の情報です。
ただし、この数字は誰かが実測して検証しているわけではありません。会社が自分で申告した平均値です。求人を作る現場では、この欄は「昨年の勤怠から出した部署平均」「担当者の体感」「前回の求人票からの据え置き」のいずれかで埋まることが多い、というのが実感です。平均値である以上、繁忙期と閑散期も、残業の多い先輩と少ない先輩も均されます。部署や現場が違えば実態は割れますが、求人票に出るのは1つの数字だけです。
実際、私たちが求人票を集めて集計すると、この欄はどの職種でも低めに揃います。事務職では記載のあった275件の中央値が月10時間(最長30時間)、看護師は中央値5時間、工場・製造は中央値15時間、自動車整備士は中央値10時間(最大35時間)でした。「残業が少ない求人を探す」という視点でこの欄だけを見ると、ほとんどの求人が候補に入ってしまいます。
内幕②: 同じ求人票に、もっと正直な残業の数字がある
ここからが本題です。求人票には残業についてもう1つの数字が書かれていることがあります。固定残業代(みなし残業代)の「◯時間分」という時間数です。
この2つは性質がまったく違います。月平均の時間外は「過去の実績についての会社の申告」ですが、固定残業代の時間数は会社が賃金規程として組んだ設計値です。「毎月この時間まで働くことを前提に、その分の残業代を先に月給へ入れておく」という取り決めなので、社内で額が決まり、書面になり、給与計算に載っています。担当者の体感で書ける数字ではありません。したがって求人を作る現場では、こちらのほうがその会社が想定している残業の上限に近いと考えます。実際、同じ職種で並べると2つの数字ははっきり食い違います。
- 事務職: 月平均の時間外は中央値10時間。ところが固定残業代の想定時間数は中央値20時間(最長32時間)
- 自動車整備士: 月平均の時間外は中央値10時間。固定残業代の想定は中央値20時間で、最長は月78時間分の設定でした
- 工場・製造: 月平均の時間外は中央値15時間。固定残業代の想定は中央値21時間(最長45時間)
- 看護師: 月平均の時間外は中央値5時間。固定残業代のある求人での想定は中央値19.5時間
どちらかが嘘をついている、という話ではありません。平均と上限という、別のものを測った数字が並んでいるだけです。ただ、応募を判断するときに知りたいのは「忙しい月にどこまで働くことになるのか」のほうではないでしょうか。なお固定残業代そのものは避けるべき制度ではありません。判断の分かれ目は額ではなく時間数にある、という話は固定残業代の求人を一律に避けるのは損で詳しく書いています。
内幕③: その1行が載る求人は、職種によって3.8%から35%まで開く
ではその「正直な1行」を見ればいいのかというと、ここに落とし穴があります。固定残業代が書かれている求人の割合が、職種によってケタ違いに違うのです。媒体をそろえて(公的職業紹介に固定して)集めた求人票の集計がこちらです。
- 施工管理: 126件中44件(34.9%)に記載。想定時間数は中央値30時間で、読み取れた37件のうち24件が30時間以上
- トラックドライバー: 136件中22件(16.2%)。想定時間数の中央値は33時間、最長60時間で、実査した職種の中で最も長い水準でした(ドライバーの相場ウォッチ)
- 電気工事士: 644件中91件(14.1%)/自動車整備士: 705件中80件(11%)/保育士: 1,078件中110件(10.2%)/事務: 365件中36件(9.9%)
- 看護師: 358件中26件(7.3%)/介護職: 140件中10件(7.1%)
- 工場・製造: 1,224件中64件(5.2%)/溶接工: 2,848件中108件(3.8%)
つまり施工管理やドライバーの求人票からは残業の設計値が読み取れることがそれなりにあるのに対して、溶接工や工場・製造の求人票では9割以上に材料がないということです。同じ「求人票を丁寧に読む」という行動でも、職種によって手に入る情報量がまったく違います。記載率は掲載媒体でも変わり、営業職では公的職業紹介で34.5%、大手の総合求人サイトでは72.5%でした。同じ会社の求人が両方の媒体に出ていることもあります。
誤解しやすい点: 記載がない=残業が少ない、ではない
ここは強調しておきます。固定残業代の記載がないことは、残業が少ないことを意味しません。意味しているのは「その会社が残業代を先払いせず、働いた分だけ後から支払う設計にしている」ということだけです。むしろ記載率の低い職種ほど、働き方の実態が求人票の外にあります。工場・製造では、夜勤手当・交替勤務手当・深夜割増は月給欄(基本給+定額手当+固定残業代)の外側で支給されるため、交替勤務の負担も対価も、月給欄をどれだけ見比べても出てきません。看護師の夜勤、ドライバーの拘束時間も同じです。
あわせて正直にお伝えすると、私たちの実査データでも職種そのものの残業量は比べられません。求人票から取れるのは会社の申告値と設計値だけだからです。しかも職種の平均は別の要素と混ざります。ドライバーは同じ職種名でも長距離・中距離・地場で拘束時間がまったく違い、職種平均は距離区分の構成比で動いてしまいます。ランキングは入口としては役に立ちますが、入社後の残業を決めるのは職種ではなく会社と配属先です。
実践: 求人票を見る順番と、面接での聞き方
ここが実践パートです。求人票は、この順番で見てください。
- ①固定残業代の「◯時間分」を探す──あればそれが会社の想定です。月30時間以上の設定なら、繁忙期はそこまで働く前提の職場だと考えて応募判断を
- ②月平均の時間外の欄と見比べる──①のほうが大きければ、平均と上限の差がその会社の振れ幅です
- ③どちらも書かれていなければ「読めない求人」と分類する──マイナス評価にする必要はありません。面接で聞く項目として控えておきます
- ④社名で検索して別の媒体の求人票も見る──媒体によって内訳の書き方が違うため、片方にだけ時間数が書かれていることがあります
そのうえで面接では次のように聞きます。聞き方を「自分の配属先の具体」に寄せると採用側は答えやすくなり、むしろ働き方を具体的に考えている応募者という評価になります。
- 「配属予定の部署で、直近1年の繁忙期はいつごろで、そのときの残業はどれくらいでしたか」──平均ではなくピークを聞く。いちばん効く1問です
- 「固定残業の◯時間を超えた分は、どのように支給されていますか」──制度そのものではなく運用を聞く形にすると角が立ちません。申請方法まで聞けると確実です
- 「残業時間は何を基準に記録していますか(タイムカード・打刻・自己申告)」──記録方法を即答できる会社は勤怠の管理そのものが整っていることが多い、というのが現場の実感です
そして内定後は労働条件通知書(雇用条件通知書)に、固定残業代の額・想定時間数・超過分の取り扱いが明記されているかを確認してください。口頭の説明と書面が食い違ったときに手元に残るのは書面です。記載がなければ「固定残業の時間数も明記していただけますか」とお願いして問題ありません。条件の適法性そのものに不安が残る場合は、労働基準監督署や社会保険労務士など専門家にご相談ください。
そもそも働き方が最初から見える求人を選ぶ
リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、実際に働く人のインタビューと募集要項をセットで掲載しています。残業や繁忙期の実態を、働いている人の言葉で確かめてから応募したい方は、掲載中のインタビュー記事をご覧ください。
まとめ
- 求人票の「月平均の時間外◯時間」は会社が自己申告した平均値。実査でも事務10時間・看護師5時間・工場15時間と一様に低めに出る
- 同じ求人票にある固定残業代の「◯時間分」は賃金規程に紐づく設計値で、こちらのほうが会社の想定に近い。事務では10時間に対し20時間と食い違った
- ただしその1行が載る割合は職種で3.8%〜34.9%。施工管理・ドライバーは読めるが、溶接工・工場では9割以上の求人に材料がない
- 記載がない=残業が少ない、ではない。残業代を後払いする設計というだけで、交替勤務や夜勤の負担は月給欄の外にある
- 求人票では「固定残業の時間数→月平均の欄→別媒体の求人票」の順に見て、面接では平均ではなく繁忙期のピークを聞く。最後は労働条件通知書の記載で確定させる