求人を見ていると、ほとんどの求人に「社会保険完備」と書いてあることに気づきます。書いてあれば安心、書いていなければ不安──そう感じて「社会保険完備 当たり前」「求人 社会保険 記載なし」と検索した人も多いはずです。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業の採用を支援し、求人票を作る側にいます。この記事では、その立場から「社会保険完備」という言葉がどういう事情で書かれているのかを正直にお伝えします。結論を先に言うと、この一言は会社を比べる材料としてはほとんど役に立ちません。見るべきは、その下にある別の欄です。
「社会保険完備」とは何を約束している言葉なのか
まず言葉の意味を確認しておきます。厚生労働省の若者向け教材は、求人情報の「各種保険完備」を「会社が雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険に加入しており、その会社で働く従業員にはそれらの制度が適用されますよ、ということを示しています」と説明しています(厚生労働省『知って役立つ労働法』より抜粋)。
つまり中身は雇用・労災・健康・厚生の4つです。福利厚生のように聞こえますが、会社が独自に用意している特典ではありません。
内幕①: 求人を作る側にとって、ほぼ「書くだけ」の一言
日本年金機構は、「法人事業所など、一定の条件を満たす事業所は健康保険・厚生年金保険の加入が義務づけられています(強制適用事業所)」と案内しています(日本年金機構「厚生年金保険のしくみを知る」)。株式会社などの法人であれば、そもそも加入が前提の制度だということです。
求人を作る現場では、「社会保険完備」は特に検討せず、決まり文句として入れる項目です。原稿の打ち合わせで「社保完備は入れますか」と議論になることはまずありません。求人サイトの絞り込み条件に引っかかるように、タグとして付けておく──それくらいの扱いです。
だから「社会保険完備 当たり前」という感覚は正しいのです。書いてあるからといって良い会社の証拠にはなりませんし、「書いていない=未加入」でもありません。当たり前すぎて書かない会社も、支援の現場ではよく見かけます。
内幕②: 見るべきは「加入保険等」の欄。チェックされているのはどれか
では何を見ればいいのか。ハローワークの求人票には「加入保険等」という欄があり、制度ごとに加入状況が記載されます。厚生労働省・労働局のリーフレットでは、項目を次のように説明しています(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのリーフレット)。
- 雇用: 雇用保険。失業した場合などに支給
- 労災: 労災保険。業務上の病気・ケガなどの場合に支給
- 健康: 健康保険。業務外の病気・ケガなどの場合に支給
- 厚生: 厚生年金保険。老齢・障害・死亡の場合などに支給
- 財形: 勤労者財産形成促進制度(働く人の貯蓄制度)
- 退職金共済: 退職金を確実に払うため、社外に積み立てる制度
ポイントは、「社会保険完備」の4つ以外の項目も同じ欄に並んでいることです。雇用・労災・健康・厚生の4つはどの会社でもそろうのが基本なので、差がつくのはむしろ財形や退職金共済、企業年金にチェックがあるかどうかです。民間の求人サイトで「社会保険完備」としか書かれていない場合も、ハローワークに同じ会社の求人が出ていれば、この欄で中身を確かめられます。退職金の欄の読み方は求人票の「退職金あり」は金額を約束していないで詳しく解説しています。
内幕③: 「完備」は雇用形態ごとに違う。パート併記の求人に注意
「社会保険完備 パート」「社会保険完備 パート 条件」という検索が立っているのは、ここで混乱する人が多いからです。
前掲の厚生労働省の教材にあるとおり、雇用保険は週20時間以上・31日以上の雇用見込みがあれば、パートやアルバイトも含めて対象になります。一方、健康保険・厚生年金は、短い時間で働く人の場合、働く時間や会社の規模などの条件を満たしたときに加入するしくみです。この条件は段階的に広がっている最中で、厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトには、会社の規模ごとに今後対象が広がる時期が示されています。自分が対象になるかどうかは、このサイトで確認するのが確実です。
ここで求人を作る側の事情があります。民間の求人サイトでは、正社員とパートを1つの原稿にまとめて募集することがよくあります。そのとき福利厚生の欄は共通で1つしかなく、「社会保険完備」と書いてあっても、それは正社員やフルタイムの人の話で、短時間のパートは条件次第──ということが起こります。悪意というより、欄が1つしかない作りの問題です。
パートで応募するなら、「社会保険完備」の一言ではなく、自分が働く予定の時間で加入になるかどうかを聞くことが大切です。
内幕④: 同じ「健康保険」でも、加入先は1つではない
もうひとつ、あまり知られていない話です。「社保完備 歯科医師国保」「歯科医院 社会保険完備 意味」という検索が立っていますが、これは健康保険の加入先が会社によって違うことへの疑問です。
会社員の健康保険といえば、協会けんぽや会社・業界の健康保険組合が一般的です。一方で、歯科医師や建設業など同じ業種の人が集まって作る国民健康保険組合という仕組みもあります。日本年金機構の資料によると、法人などの事業所で働く人は原則として健康保険に加入しますが、例外として、国民健康保険組合の理事長と厚生労働大臣の承認(適用除外承認)を得れば、引き続き国民健康保険組合に加入できるとされています(日本年金機構「国民健康保険組合の加入手続きについて」)。
この場合でも、求人では「社会保険完備」とひとまとめに書かれることがあります。加入先によって保険料の決まり方や給付の内容が同じとは限らないので、「健康保険はどこに加入しますか」と聞いておく価値があります。具体的な給付の違いは加入先によって変わる専門的な論点なので、気になる場合は加入先の組合や社会保険労務士などの専門家に確認してください。
入社前・入社後に確かめる方法
ここまでを踏まえると、確認することは次の4つに絞れます。どれも失礼にならない、ごく普通の質問です。
- 「この雇用形態・この勤務時間で、加入する保険を教えてください」──「社会保険はありますか」より具体的に聞くと、パート併記の求人でも自分のケースの答えが返ってきます
- 「健康保険は、協会けんぽ・健康保険組合・国保組合のどれですか」──特に医療・建設など業界の組合がある職種で役立ちます
- 「財形や退職金共済、企業年金の制度はありますか」──ハローワークの「加入保険等」の欄で、会社ごとに差がつく部分です
- 内定後は労働条件通知書で、加入する保険の記載を確かめる──求人票は募集時点の情報で、自分に適用される条件が確定するのはここです
入社後に自分で確かめる方法もあります。厚生年金の加入記録は、日本年金機構のねんきんネットで確認できます。もし説明と記録が食い違うようなことがあれば、自分で判断せず、年金事務所や社会保険労務士などの専門家に相談してください。
保険の欄は、会社が「法律どおりに手続きしているか」までしか教えてくれません。その会社で実際にどんな人が、どう働いているかは、条件欄には出てこない情報です。リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、実際に働く人のインタビューと募集要項をセットで掲載しています(掲載中の求人一覧)。求人票全体の読み方は求人票の見方は3行でいいもあわせてご覧ください。
まとめ
- 「社会保険完備」の中身は雇用・労災・健康・厚生の4つ。会社独自の特典ではない
- 法人などの事業所は健康保険・厚生年金の加入が義務づけられている。求人を作る現場では、決まり文句として入れる一言
- 書いてあっても良い会社の証拠にはならず、書いていなくても未加入とは限らない
- 見るべきはハローワーク求人票の「加入保険等」の欄。差がつくのは財形・退職金共済・企業年金
- パートの社会保険は働く時間や会社の規模で決まる。正社員とパート併記の求人の「社保完備」は、自分の働き方に当てはまるとは限らない
- 健康保険の加入先は協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険組合などに分かれる。どこに入るかを聞いておく
- 確認は「この働き方で入る保険」「健康保険の加入先」「財形・退職金・企業年金」「労働条件通知書」の4点。入社後はねんきんネットで加入記録を確かめられる