病院や介護施設、保育園、給食会社の採用担当者から、「調理師の求人を出しても応募が来ない」「近くの飲食店に月給で負けている」という相談を受けることがあります。求人サイトで同じ「調理師」の求人を並べると、月給が3万円も4万円も違う。免許を持つ人を採りたいのに、資格手当を足しても反応が変わらない。その戸惑いはもっともです。
リクプル編集部が株式会社KD3で続けている調理師の求人相場ウォッチ(2026年10月13日時点・公的職業紹介の正社員求人7,199件・47都道府県)を見ると、この悩みの正体がはっきりします。この記事の主張は1つです。調理師の月給を動かしているのは免許でも経験でもなく「どの厨房か」で、飲食店と病院の差は4.4万円。免許が月給に効くのは病院・介護の厨房だけで、飲食店では効いていない。だから求人原稿は「同じ調理師」の相場ではなく、自分の厨房の相場の中で書く必要がある。数字で順に説明します。
飲食店24.1万円、病院19.7万円。差は4.4万円で、全国どの地域でも同じ向き
求人票の月給欄の下限(求職者が最初に目にする提示額)を、働く場所の区分ごとに中央値で並べると次のようになりました。
- 飲食店・レストラン(2,351件):24.1万円
- ホテル・旅館・宴会(768件):23.0万円
- 保育園・こども園(338件):21.3万円
- 介護・福祉施設(1,763件):20.1万円
- 病院・医療機関(1,233件):19.7万円
飲食店と病院の差は4.4万円(95%信頼区間4.2〜5.1万円)で、首都圏から北海道・東北まで5つの地域ブロックすべてで同じ向きでした。内訳の基本給で見ても21.0万円対17.2万円と3.8万円の差が残り、月給の上限額では30.0万円対23.0万円と7.0万円まで開きます。
ただし、条件も違います。年間休日の中央値は飲食店105日に対し病院113日。22時以降まで及ぶ勤務の割合は飲食店30.8%に対し病院0.2%。固定残業代の記載がある割合は飲食店37.4%に対し病院5.8%でした。飲食店の月給には、夜の勤務と残業と休日の少なさが含まれています。4.4万円は、そのまま持ち帰れる差ではありません。
なお、この実査は月給欄の下限だけを集計しており、賞与や退職金、早朝手当・夜勤手当の実支給額は含みません。
「調理師免許を必須にすると月給が上がる」は、全体では成り立たない。効くのは病院と介護だけ
調理師免許の要件で分けると、免許必須の求人2,155件も、免許の記載がない求人3,322件も、提示額の中央値はどちらも22.0万円でした。差の信頼区間は0.00〜0.03万円で、内訳の基本給でも差は確認できません。
ところが、働く場所を揃えると様子が変わります。
- 病院:免許必須20.6万円 対 記載なし18.9万円(差1.7万円)
- 介護施設:免許必須22.1万円 対 記載なし19.5万円(差2.7万円)
- ホテル・旅館:免許必須25.0万円 対 記載なし23.0万円(差2.0万円)
- 飲食店:免許必須24.7万円 対 記載なし24.6万円(差なし)
全体で差が消えるのは、免許必須の求人が介護29%・病院28%と月給の低い現場に集中し、免許の記載がない求人の48%が飲食店だからです。免許必須の求人のうち、月給欄に資格手当が立っているのは669件(31.0%)で、金額の中央値は月5,000円でした。
つまり、給食・福祉の厨房では免許は採用の条件そのものとして月給を分けていますが、飲食店では免許より実務経験のほうが見られています。飲食店の求人原稿で「調理師免許必須」と書いても月給の土俵は変わらず、応募できる人を減らすだけになります。
病院・介護の調理師求人は、直営か給食受託かで3.5万円違う
病院・介護施設の厨房の求人2,996件を、求人票の「派遣・請負等」欄で分けると、給食受託会社の求人814件は提示額22.8万円、直営などの求人2,182件は19.3万円でした。差は3.5万円(信頼区間3.1〜3.8万円)です。病院だけで比べても22.0万円対19.0万円、介護施設だけでも23.0万円対19.5万円と、どちらも同じ向きでした。
この差は内訳の基本給(差3.2万円)でも、月給の上限額(26.0万円対22.0万円)でも残っています。年間休日の中央値は請負112日・直営107日で、休日でも受託会社側が多くなっています。一方、学校給食の中では直営と請負の差は確認できませんでした。
病院や介護施設が直営で調理師を募集するとき、月給で比べられる相手は隣の飲食店ではありません。同じ厨房を受託している給食会社の求人です。自施設の求人票と、同じ市内の給食受託会社の求人票を並べて、月給・上限・休日の3つを見比べることが最初の確認になります。
月給欄に定額手当を積むと、基本給が4.5万円低く見える
月給欄への上乗せの種類で分けると、定額手当のみの求人3,018件は提示額20.0万円で、上乗せのない求人2,635件の22.0万円より2.0万円低いうえに、内訳の基本給は17.5万円と4.5万円低くなります。この基本給のマイナスは働く場所を揃えても消えず、9区分すべてで残りました(病院−4.1万円、介護−2.7万円、飲食店−2.6万円など)。
定額手当のある求人の割合は、病院76%・保育園73%・介護66%に対し、飲食店は13%です。「基本給を低く置いて手当を積む」給与設計が、給食・福祉の現場に集中しています。
賞与や退職金が基本給を基準に決まる会社では、この違いは年間の受取額に直接効きます。求職者が内訳を開いたときに「提示額20.0万円、基本給17.5万円」と読まれる求人は、提示額22.0万円で基本給も22.0万円の求人と同じ土俵に立てません。手当と基本給の関係は求人票の手当は月給を上げない。実査1.6万件でわかった基本給の削られ方でも扱っています。
経験は入口で3万円、天井で5万円。早朝の始業は月給を下げていない
経験要件で分けると、実務経験が必須の求人1,478件は下限24.0万円・上限30.0万円、経験不問の求人3,350件は下限21.0万円・上限25.0万円でした。入口の差3.0万円に対し、天井の差は5.0万円です。未経験から採る求人では、入口の月給よりも「どこまで上がる設計か」が見られます。
早朝の始業は、全体で見ると6時台までに始業する求人が20.1万円と、日中のみの求人21.8万円より1.7万円低く出ます。しかし早朝勤務の42%が介護施設・31%が病院で、その中だけで比べると病院19.4万円対19.4万円、介護施設19.9万円対19.9万円と差は消えました。早朝始業が低く見えるのは、月給の低い現場に早朝勤務が多いことの写し絵です。
外部の統計も同じ方向を示しています。厚生労働省「令和7年 雇用動向調査」では、一般労働者の入職率・離職率がともに最も高い産業は「宿泊業、飲食サービス業」(入職24.4%・離職21.5%)です。飲食店の厨房は人が動く市場で、病院・介護の厨房はそうではありません。同じ調理師でも、採用の土俵はもともと別です。
求人原稿で何を書くか。厨房の種類ごとに違う
共通して先に直すべきは3点です。
- 職種名の隣に厨房の種類を書く。「調理師(病院厨房・直営)」「調理スタッフ(介護施設・給食受託)」のように、どの相場の求人かを最初に示す
- 月給の内訳を書く。基本給、定額手当の名称と金額、固定残業代があるなら何時間分か
- 上限と到達の目安を書く。経験不問の求人は上限で5.0万円の差がつく職種です。「3年で◯万円」のような到達条件は、入口の月給より効きます
そのうえで、厨房の種類ごとに書くことが変わります。
- 病院・介護(直営):比べる相手は給食受託会社です。月給で3.5万円負けているなら、22時以降の勤務がないこと(病院は0.2%)、早朝の回数と1回あたりの手当、年間休日の数字、免許手当の額を書く。免許必須で2〜3万円の差がつく現場なので、免許保有者向けの月給は別建てで示す
- 飲食店:免許は月給を動かしていません。見られているのは実務経験です。上限30.0万円に届く条件と、固定残業代の時間数(37.4%の求人に記載あり)を正直に書く。免許必須の条件は外して構いません
- 給食受託会社:月給では直営に勝っています。配属先の厨房の種類と、異動の範囲を書く。2024年4月からは「変更の範囲」の明示が必要です(求人票の「変更の範囲」は、書き方より先に聞く相手を分ける)
飲食店が正社員の調理スタッフとアルバイトを同じ求人で募集する問題は、飲食店の採用単価はアルバイトと正社員で別物で扱っています。あわせてご覧ください。
まとめ
- 調理師の月給を動かしているのは「どの厨房か」。飲食店24.1万円・病院19.7万円で差4.4万円、全国5ブロックで同じ向き。ただし飲食店は夜勤務・残業・少ない休日を含んだ額
- 調理師免許は全体では月給を動かしていない(必須22.0万円・記載なし22.0万円)。効くのは病院(+1.7万円)・介護(+2.7万円)・ホテル(+2.0万円)で、飲食店では差なし
- 病院・介護の厨房は直営19.3万円・給食受託22.8万円で3.5万円の差。直営の競合は隣の飲食店ではなく給食会社
- 定額手当を積む求人は基本給が4.5万円低く見える。給食・福祉の厨房に集中している設計
- 求人原稿は「同じ調理師」ではなく自分の厨房の相場の中で書く。厨房の種類を職種名の隣に/内訳を開示/上限と到達条件の3点が共通の直しどころ
自社の調理師求人を開いて、職種名の隣に厨房の種類が書かれているか、月給の内訳が読めるかを確認してみてください。どちらも書かれていなければ、月給を上げる前に直せる場所がまだあります。