「電気工事士を採用したい」と考えたとき、求人票の応募資格欄に最初に書かれるのは、たいてい「第二種電気工事士 必須」です。有資格者でなければ現場の作業に制約が出るのだから当然だ、という判断だと思います。
ただ、株式会社KD3が実施した求人相場ウォッチで全国126件の電気工事士求人を実査したところ、その前提を揺さぶる数字が出ました。資格を必須にしている求人と、資格不問・歓迎の求人で、月給の中央値が同じだったのです。どちらも22.0万円でした。
資格要件が月給に反映されていないのに、応募できる人だけが減っている。これは求人を出す側にとって、かなり分の悪い設計です。この記事では、実査データから電気工事士の求人票で何が月給を決めているのかを整理し、要件の書き方をどう変えると母集団が動くのかを扱います。
データは全国の電気工事士求人126件(正社員・重複排除後、2026年7月実査)です。集計方法と限界の開示は「電気工事士の求人相場ウォッチ」に全文を載せています。
資格要件別に見ても、月給の中央値は動かない
まず実査の結果を並べます。月給下限(手当を含んだ総額提示)の中央値です。
- 第一種電気工事士が必須: 24.5万円(3件)
- 第二種以上が必須: 22.0万円(40件)
- 資格不問・歓迎(入社後取得でよい): 22.0万円(83件)
第二種以上を必須にしている求人と、資格不問の求人が完全に同額です。第一種必須は高く出ていますが3件しかなく、この件数では確定した差とは言えません。
もう1つ、実査で分かったことがあります。126件のうち83件(66%)が、すでに資格不問・歓迎でした。電気工事士の求人市場は、有資格者だけを取り合っている市場ではありません。資格を必須にしている求人のほうが、すでに少数派です。
差を作っていたのは実務経験のほうだった
では何が月給を決めているのか。経験要件で分けると、はっきりします。
- 実務経験が必須: 25.0万円(29件)
- 未経験可: 22.0万円(87件)
3万円の差です。さらに資格要件と経験要件をクロスさせると、構造が見えます。
- 第二種以上が必須 × 実務経験が必須: 25.0万円(20件)
- 資格不問・歓迎 × 実務経験が必須: 25.0万円(7件)
- 資格不問・歓迎 × 未経験可: 22.0万円(69件)
- 第二種以上が必須 × 未経験可: 21.0万円(18件)
読み方はこうです。経験を揃えると、資格の有無による差は消えます(経験必須どうしで25.0万円対25.0万円)。逆に資格を揃えても、経験による差は残ります(第二種必須の中で25.0万円対21.0万円)。
そしていちばん低いのが「第二種以上が必須 × 未経験可」の21.0万円でした。資格を必須にしている求人が高い、という関係にはなっていないということです。資格要件は、月給の説明変数として機能していません。
「資格必須」と書いた瞬間に何が起きているか
ここまでの数字を、求人を出す側の言葉に翻訳します。
応募資格に「第二種電気工事士 必須」と書くと、求人票の見え方としては要件を1段上げたことになります。ところが実査データ上、その1段は月給に反映されていません。相場が上がらないまま、応募できる人の範囲だけが狭くなっている状態です。
支援の現場でも、応募が止まっている求人の応募資格欄には、実際には不要な要件が積まれていることがよくあります。「あったほうが望ましい」と「なければ困る」が同じ欄に並んでしまうのは、求人票のフォーマット上どうしても起きやすい事故です。
市場全体で見ても、中途採用に占める未経験者の比率は31.9%まで拡大しています(出典: リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2025年度実績、正規社員)」)。同じ調査では中途採用を実施した企業の割合も84.4%と過去最高を更新しました。要件を上げた求人が競合するのは、要件を下げた求人ではなく、同じ人を狙っている全業種の求人です。
電気工事士の月給欄は、そもそも「盛れない」
もう1つ、この職種の重要な性質があります。月給欄で見栄えを整える余地がほとんどありません。
実査した126件は全件で給与の内訳を取得できました(実査職種で初の取得率100%です)。提示額の中央値22.0万円に対し、その内訳にある基本給は21.0万円。基本給は提示額の98%で、126件のうち58件(46%)は提示額と基本給が完全に同額でした。
同じ方法で実査した看護師では基本給は提示額の86%、保育士では87%です。これらの職種では処遇改善手当や資格手当が月給欄に組み込まれ、「月給24万円」の内訳が基本給20万円ということが普通に起きます。電気工事士には、月給欄に積み上げる毎月の手当そのものが慣行として薄いのです。同じ構造は整備士(基本給が提示額の97%)でも確認しています。
固定残業代も逃げ場になりません。記載があったのは126件中15件(12%)で、想定時間数の中央値は13時間。整備士の中央値31時間と比べるとかなりおとなしい水準です。月給下限も固定残業代あり24.0万円・なし22.0万円で、信頼区間が重なっており差は確定していません。整備士では「高い月給の正体は残業代」と言えましたが、電気工事士ではその説明が成り立ちません。
つまり月給欄を1万円上げるとは、本当に1万円の人件費を出すということです。そして上げても、資格要件を上げたときと同じで、競合も同じ土俵にいます。
要件を分けて書く、というのが実務的な打ち手になる
実査データから導ける処方箋は、要件の書き方を変えることです。具体的には1つの求人票に2つの入口を作る——経験者と未経験者を、同じ月給レンジの中で混ぜない書き方にします。
- 資格は「必須」から「入社後取得を支援」へ動かす: 実査では資格不問・歓迎が83件(66%)で多数派、かつ月給中央値は資格必須と同じ22.0万円でした。資格を外しても相場を下げる必要はありません
- 実務経験者向けの条件は別立てで明示する: 経験必須の中央値は25.0万円です。「未経験22万円〜/実務経験3年以上25万円〜」のように、どちらの人が読んでも自分の額が分かる書き方にします。上限額だけを大きく見せて幅で吸収すると、どちらの層にも刺さりません
- 資格取得支援は制度名でなく実績で書く: 「資格取得支援あり」は、ほぼすべての同業他社が書いています。直近3年で何人が受験し何人が取得したか、費用は誰が負担し、勉強時間をどう確保しているか。ここまで書けると要件を下げたことが訴求に変わります
- 内訳を先に開示する: 実査した126件は全件で「基本給+定額手当+固定残業代=提示額」が読める構造でした。この職種の求職者は内訳を見る習慣があると考えたほうが安全です。固定残業代を設定しないなら、それ自体を書くのが有効です(111件が固定残業代なし/記載なしで、これが多数派です)
地域の相場は、基本給で見ると景色が変わる
他社の求人を参考にするときの注意も1つ。地域ブロック別の月給下限(総額提示)の中央値はこうでした。
- 首都圏 25.0万円 / 関西・東海 24.0万円 / 甲信越・北陸・北関東 21.0万円 / 中国・四国・九州・沖縄 20.5万円 / 北海道・東北 20.0万円
ところが同じ126件を内訳にある基本給で並べ直すと、首都圏23.0万円と関西・東海23.0万円が並びます。総額で見たときの1万円差は、手当の組み方の差でした。近隣の求人と比べるときは、提示額どうしではなく基本給どうしで比べたほうが実態に近いということです。
なお、資格要件別の順位はブロックによって入れ替わります。首都圏では第二種以上必須30.0万円が資格不問23.5万円を上回りますが、関西・東海では資格不問24.0万円が第二種以上必須22.5万円を上回りました。全国の平均像をそのまま自社の地域に当てはめないほうが安全です。
資格が必須の職種で母集団そのものが動かない場合は、原稿ではなく媒体選定から見直す必要が出ることもあります。その判断基準は「施工管理の採用が「できない」会社に共通する、たった一つの誤解」に書きました。
まとめ
- 実査126件では、第二種以上必須の求人と資格不問の求人で月給下限の中央値が同じ(どちらも22.0万円)だった
- 差を作っていたのは実務経験(経験必須25.0万円/未経験可22.0万円)。経験を揃えると資格の差は消え、資格を揃えても経験の差は残る
- 最も低いのは「資格必須 × 未経験可」の21.0万円。資格を必須にした求人が高いわけではない
- 市場の66%(83件)はすでに資格不問・歓迎。資格必須はもはや多数派ではない
- 電気工事士の月給欄は基本給が提示額の98%で、見せ方で埋める余地がない。固定残業代も12%・中央値13時間と薄い
- 打ち手は月給の引き上げより、要件を「未経験/経験者」の2つの入口に分けて書き、資格取得支援を実績で示すこと