「営業 採用単価」で検索しても、営業職に絞った実額はほとんど出てきません。出てくるのは全職種平均の目安か、媒体の料金表です。そこで株式会社KD3では、求人相場ウォッチとして営業の求人を自分たちで実査しています。
今回はその2回目の結果です。そして正直に書くと、1回目に出した結論のうち2つが入れ替わりました。市場が1ヶ月で変わったからではありません。調べ方を変えたら、前回見えていた差が消え、見えていなかった差が出た——それだけです。
自社で相場を調べる採用担当者にとって、これは他人事ではないと考えています。同じ落とし穴に、私たちが先に落ちたからです。データは全国47都道府県の営業求人200件(正社員・重複排除後、2026年8月実査)。集計方法と限界の開示は「営業の求人相場ウォッチ」に載せています。
前提:実査で測れるのは「採用単価」ではなく提示月給の下限
先に線を引いておきます。求人票を数えて分かるのは求人票に書かれている月給の下限であって、1人採るのにいくらかかったかという採用単価そのものではありません。採用単価は媒体費・工数・決定率で決まるので、求人票からは出ません。
ただし両者は無関係ではありません。提示する月給の水準は「検索結果で足切りされるかどうか」を決め、それが応募数と決定率を通じて採用単価に効いてきます。採用単価そのものの相場観と予算の決め方は「採用単価の計算方法。「採用枠×15万円」で広告予算を決める実務」に整理しているので、この記事はその手前にある「自社の月給水準を、どの求人と比べて決めるか」に絞ります。
入れ替わり①:「商材で2万円違う」は再現しなかった
1回目(143件)で私たちは、営業の月給は勤務地よりも商材で決まると書きました。無形商材(人材・広告・IT・保険・金融など)が有形商材より2万円高く、しかも複数の媒体で同じ向きに出ていたからです。
200件で取り直すと、こうなりました。
- 公的職業紹介:無形商材 23.0万円/有形商材 22.5万円
- 大手総合求人サイト:有形商材 25.5万円/無形商材 23.5万円(上下が逆)
- 地域ブロック別に見ると、関西・東海だけ向きが逆
- 全国で見た信頼区間も重なる
媒体を変えると順位が入れ替わるということは、測っていたのは商材の差ではなく媒体の差だった可能性が高いということです。もう1つ、公的職業紹介で最も高いのは不動産(26.0万円)でしたが、これも同じ求人の内訳にある基本給で並べ直すと20.0万円で3区分の最下位に落ちます(基本給が提示額に占める割合82%)。商材の違いは月給の高さそのものではなく、手当の積み方の違いとして出ていました。
実務への影響は小さくありません。前回の記事を読んで「同じ商材の営業求人と比べればいい」と決めた方には、その基準だけでは足りなかったとお伝えする必要があります。
入れ替わり②:「地域差ははっきりしない」も違った
1回目では、首都圏と北海道・東北の差は2万円で信頼区間が重なる=地域差ははっきりしない、と書きました。今回はそう読めませんでした。
- 媒体を1つに固定して比べると、首都圏 25.0万円/北海道・東北 22.0万円で信頼区間が重ならない
- この差は、商材を有形だけに揃えても、未経験可の求人だけに絞っても、普通自動車免許必須だけに絞っても、年間休日120日以上だけに絞っても残った
- 同じ求人の基本給で並べ直しても順位は変わらない(首都圏21.0万円/北海道・東北18.0万円)
ただし留保もそのまま書きます。固定残業代のない求人だけに絞ると信頼区間が重なるため、この地域差の一部は固定残業代の厚さの差です。また首都圏が単独で最上位かどうかは媒体を変えると入れ替わり、中間の3ブロックの順位は確定していません。確度が高いのは「北海道・東北が最も低い」ところまでです。
なぜ入れ替わったのか:媒体の選び方だけで、地域差は消せる
ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。原因は市場ではなく、1回目の調べ方にありました。
今回、媒体を選ぶ前に候補4媒体で1つの検証をしました。求人数の少ない県(鳥取・高知・福井・秋田)の検索結果に、4県すべてに共通して出てくる求人がどれだけ含まれるかを数える、という検証です。
- 大手総合転職サイト3つ:52〜84%が4県共通。勤務地が「全国」の求人が県別一覧を占拠していた
- 今回採用した媒体:同じ指標が2%。県内に所在地のある求人が並ぶ
前者を使うと、どの県を見ても同じ求人を数えることになります。結果として地域差が人工的に消えます。1回目に「地域差ははっきりしない」と出たのは、地域差が無かったからではなく、地域差が見えない媒体で数えていたからでした。同時に、媒体ごとの掲載企業の偏りが商材の差として現れていた、という説明もつきます。
自社で相場を調べるときに、そのまま使える確認手順に落とすとこうなります。
- 比べる求人は、媒体を1つに固定する。複数媒体の平均を出すと、地域差・職種差の上に媒体差が乗って読めなくなります
- その媒体の県別一覧を、実際に自分の県で開いて確認する。勤務地が「全国」「東日本エリア」の求人が上位を埋めていたら、その一覧は自社の地域の相場を表していません
- 金額の採り方を1文で決めてから数え始める。私たちは「提示額=賃金欄の総額(固定残業代を含む)/基本給=基本給欄のみ」と決め、全ブロックに同じ文言で配りました。1回目はここが揃っておらず、地域差ではなく判定基準の差を測っていた箇所がありました
これは統計の話に見えて、実務の話です。相場を1万円読み違えると、その求人が検索結果で足切りされるかどうかが変わります。
200件で残った、確度の高い3つ
入れ替わらなかった——むしろ2回目のほうが強く出た事実を3つ挙げます。
1. 提示額の内訳は、基本給が中央値89%。内訳まで読めた171件で、提示額の下限の中央値23.0万円に対し基本給の中央値は20.5万円。171件のうち89件が9割を切り、11件は7割も切ります。最も低い求人は提示21.0万円に対し基本給7.0万円(33%)でした。一方で提示額と基本給が完全に同額の求人も45件(26%)あり、営業の求人は「額面がそのまま基本給の求人」と「額面の2〜3割が手当の求人」に割れています。
2. その乖離を作っているのは固定残業代で、基本給に直すと逆転する。固定残業代のある求人の提示額下限は中央値25.0万円、ない求人は22.5万円で信頼区間が重なりません。ところが同じ求人の基本給で並べ直すと、ありが20.0万円・なしが21.0万円と上下が入れ替わります。差額そのもので比べると、ありは5.0万円・なしは0.5万円で信頼区間が重なりません。固定残業代の額の中央値は4.5万円、想定時間数の中央値は25時間で、4分の1は31時間以上、最長は60時間でした。なお記載率は媒体で倍近く違います(公的職業紹介34.5%・大手総合求人サイト72.5%)。民間サイトで見かける高めの月給ほど、この構造である確率が上がります。
3. 経験と免許は、下限ではなく上限にだけ効く。実査した182件のうち160件(88%)が未経験を受け入れており、下限の中央値は経験必須25.0万円・未経験可23.0万円で信頼区間が重なります。一方で上限額は経験必須35.0万円・未経験可31.0万円で、5ブロック中4ブロックで同じ向きでした。普通自動車免許はさらに極端で、182件中153件(84%)が必須ですが、必須も不問も下限の中央値は23.0万円で完全に一致します。要件を厳しくしても、求人票の入り口の金額は動いていません。
営業の未経験可88%という数字は、市場全体の傾向とも整合します。中途採用に占める未経験者の比率は31.9%で拡大傾向にあります(出典: リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2025年度実績、正規社員)」)。営業はその中でも未経験の入り口が広い職種で、だからこそ要件ではなく金額の見せ方で並ばされます。
では、採用単価はどこで見るのか
ここまでは求人票の話です。実際に1人採るのにいくらかかるかは、支援の現場では職種を問わずおおむね7〜15万円のレンジに収束する傾向があり、広告予算は「採用枠×15万円」を上限に置くと破綻しにくくなります。この考え方は「採用単価の計算方法」に書いたとおりです。
そのうえで営業に固有の実務を2つ挙げます。1つは内訳を先に開示すること。内訳を書いている求人が少ないからこそ、書くこと自体が差になります。もう1つは「量×厳選」型か「少数精鋭」型かを先に決めること。未経験可が標準の職種では応募は集まりやすい一方、応募数と決定率は逆相関します(「「応募数は多いほど良い」は誤解。応募数と決定率の逆相関の話」)。この2点は1回目の実査でも今回でも変わっていません。
なお、1回目の記事「営業の採用が難しいのは、月給欄を「盛れてしまう」職種だから」の主張そのもの(月給欄を厚く見せられる職種である)は、200件でより強く再現しました。入れ替わったのは「では何と比べるか」の部分だけです。
まとめ
- 営業求人200件を実査し直した結果、前回の「無形商材が有形商材より2万円高い」は再現しなかった。媒体を変えると上下が逆になり、信頼区間も重なる
- 逆に前回「はっきりしない」とした地域差は出た。媒体を固定すると首都圏25.0万円・北海道・東北22.0万円で信頼区間が重ならない(確度が高いのは「北海道・東北が最も低い」まで)
- 入れ替わった原因は市場の変化ではなく媒体の選び方。求人数の少ない県では、大手総合転職サイトの検索結果の52〜84%が「勤務地=全国」の共通求人で、地域差が人工的に消えていた
- 自社で相場を調べるときは、媒体を1つに固定し、県別一覧に全国求人が並んでいないかを実際に開いて確認し、金額の採り方を先に1文で決める
- 再現した事実は3つ。基本給は提示額の中央値89%/乖離の正体は固定残業代(基本給で並べ直すと逆転)/経験・免許は下限でなく上限にだけ効く
- 求人票から分かるのは提示月給までで、採用単価そのものは媒体費・工数・決定率から別に算出する