看護師の採用コストが読めない、というご相談をよくいただきます。求人広告を出しても応募が来ず、人材紹介に切り替えると1人あたりの費用が跳ね上がる。だから求人票のほうで勝負しよう、と月給欄に手を入れる——ここまではよくある流れです。そのとき前提になっているのが「うちは夜勤があるから、月給は高く見せられるはずだ」という感覚です。
株式会社KD3の求人相場ウォッチで、看護師・准看護師(正社員・常勤)の求人を全47都道府県から採取し、358件を1件ずつ実査しました。今回は358件すべてで月給の内訳(基本給がいくらか)まで読めています。そこで分かったのは、夜勤の有無は求人票の提示月給をほとんど動かしていないということでした。動いていたのは施設区分です。
この記事では、看護師の採用単価をどう見積もるか、そして自社の求人を「誰と比べられているのか」を実査データから整理します。集計方法と限界の開示は「看護師の求人相場ウォッチ」に全文を載せています。
看護師だから、という採用単価の割増はない
先に定義を揃えます。採用単価は1人採用するのにかかった費用を採用人数で割った数字で、広告費だけを見るのか、人材紹介の手数料や社内工数まで含めるのかで額が2倍以上変わります。他院の数字とそのまま比べる意味はほとんどないので、自社の中で定義を固定するところから始まります(順序は「採用単価は「計算」より先に決める。採用枠×15万円で予算上限を引く」に書いたとおりです)。
そのうえで支援の現場での実感を1つ。職種が違っても、原稿と媒体運用が噛み合った求人の採用単価は1人あたり7〜15万円のレンジに収まる傾向があります。応募が安く集まる職種は決定率が低く、応募単価が高い職種は本気度が高いというシーソーの関係があるためです。看護師だから割増、という形にはなりません。跳ね上がるのは、求人広告で母集団が作れずに人材紹介へ切り替えたときです。
実査の位置づけもはっきりさせておきます。今回のデータが示すのは「求人票に出ている提示月給の下限が、何によって動いているか」までで、採用単価そのものを条件別に測ったものではありません。ただ、月給欄をいじっても応募が動かないときに、何が空振りなのかを知る材料にはなります。採取は媒体を公的職業紹介1つに固定しており、民間の求人サイトにしか載っていない求人や非公開求人は含まれていません。
夜勤ありでも、提示月給は上がっていなかった
まず実査の結果です。月給下限(手当・固定残業代を含んだ提示額)の中央値で並べます。
- 夜勤なし: 23.5万円(261件)
- 夜勤あり: 23.0万円(97件)
信頼区間は大きく重なり、差は確定しません。しかも施設区分を揃えると、差はさらに消えます。病院では夜勤あり・なしとも22.0万円、介護施設もどちらも23.5万円、クリニック・診療所ではむしろ夜勤なしのほうが高く出ました(22.5万円対21.5万円)。向きすら一定しません。
理由は求人票の構造にあります。夜勤ありの97件のうち、夜勤手当が月給欄の中(毎月定額で支払われる手当)に入っていたのは3件だけでした。残りはすべて「夜勤1回◯円」という別建てで、提示額の外側にあります。つまり夜勤の対価は、求職者が最初に見る月給の数字にはほとんど反映されていません。
採用側にとっての意味は単純です。夜勤があることを月給欄で表現しようとしても、一覧画面の比較ではその努力が見えません。逆に「夜勤◯回込みで月給28万円」と書けば数字は上がりますが、それは夜勤が減れば下がる数字であり、入職後の期待値ズレの原因になります。
動いていたのは施設区分。訪問看護と病院で4.5万円
提示月給を実際に動かしていたのは施設区分でした。中央値で並べます。
- 訪問看護: 26.5万円(62件)
- 介護施設(特養・老健・有料老人ホーム等): 23.5万円(152件)
- クリニック・診療所: 22.5万円(39件)
- 病院: 22.0万円(86件)
訪問看護と病院の信頼区間(25.0万〜28.0万円/21.0万〜23.0万円)は重なりません。この差は比べる条件を揃えても消えず、正看護師必須の求人だけに揃えると26.5万円対23.0万円、准看護師でも応募可の求人だけなら25.5万円対20.5万円、夜勤なしだけなら26.0万円対22.0万円で、いずれも重なりません。5つの地域ブロックすべてで訪問看護のほうが高く、内訳の基本給で引き直しても22.0万円対19.5万円と順序は変わりません。
参考までに地域差も出ています(首都圏27.0万円に対し中国・四国・九州・沖縄22.0万円)。ただし首都圏は4県しかなくn=27と薄く、幅の広い数字です。相場を見るときは、地域より先に施設区分を揃えてください。
「地域の看護師相場」と自社を比べても意味がない
ここが採用単価の実務に効いてきます。求人媒体の相場ページや、地域の看護師求人の平均月給を見て「うちは相場並みだ」と判断している病院は多いのですが、その平均には訪問看護が混ざっています。訪問看護と病院を混ぜた中央値を基準にすると、病院は必ず見劣りする側に置かれます。
支援の現場では、競合の設定を「同じ商圏の同じ施設区分」に絞り直すところから始めることが多くなります。同じ市内の病院どうしで比べれば、22.0万円は相場割れではありません。相場割れだと誤認して月給を1万円上げると、それは12万円の人件費増と、訪問看護には届かないままの提示額を同時に抱えることになります。なお訪問看護が高く出る背景には、オンコール当番や自動車運転が前提になっている求人が多いことも含まれます。同じ額を出せば同じ土俵に立てる、という話ではありません。
月給欄で差がつかないなら、原稿で書くべきは3つ
実査から、看護師の求人原稿で確認したい点は3つに絞れます。
- 提示額の内訳を書く。看護師は基本給が提示額の中央値87%で、358件のうち213件(60%)が9割を切り、44件(12%)は7割も切ります。差を作っているのは資格手当・処遇改善手当・ベースアップ手当です。賞与を基本給の◯ヶ月分で計算する医療機関は多いため、内訳を書ける求人は年収の説得力で優位に立てます(この構造は「看護師の採用が難しいのは、月給が実額とズレる職種だから」で扱いました)。
- 夜勤は回数と1回あたりの手当額を数字で書く。月給欄に入らない以上、本文で書かなければ伝わりません。「月◯回・1回◯円」まで書ければ、提示額の外側の実収入を求職者が計算できます。
- 准看護師でも応募可にするなら、レンジのどちら側が誰かを書く。実査では「月給21万〜34万円」のような広いレンジで、下限が准看護師・上限が正看護師という書き方が多く見られました。求職者はレンジの真ん中を期待値として読むため、応募後の辞退や入職後の不満につながります。
固定残業代は看護師では少数派で、358件中26件(7.3%)にとどまりました。月給欄を厚く見せる手段としては、この職種では機能していません。
他業種から連れてくる、という設計は空振りしやすい
母集団を広げようとして、異業種からの転職者に間口を開ける設計を検討することがあります。ただ看護職についてはIndeed Hiring Labの分析があり、「看護への転職の85%は看護からの移動であり、看護から転職する人の81%は看護にとどまります」と報告されています(出典: Indeed Hiring Lab「静かなる逼迫:人手不足・AI・労働再配置が決める日本の次の15年」2026年8月19日・Indeed上の求人およびレジュメデータにもとづく分析)。
労働移動がほぼ職種の中で閉じているということは、看護師の採用は基本的に他院・他事業所との入れ替えになるということです。だからこそ、比較される相手を正しく設定できるかどうかが採用単価に直結します。支援の現場でも、母集団を広げる施策より、比較の土俵を揃えて原稿の情報量を上げるほうが先に効く傾向があります。
まとめ
- 看護師だから採用単価が割増になる、という構造はありません。原稿と媒体運用が噛み合えば1人あたり7〜15万円のレンジに収まる傾向です
- 夜勤の有無は提示月給を動かしていません(夜勤なし23.5万円・夜勤あり23.0万円で信頼区間が重なる)。夜勤手当は97件中94件で月給欄の外にあります
- 動いていたのは施設区分です。訪問看護26.5万円・介護施設23.5万円・クリニック22.5万円・病院22.0万円で、条件を揃えても5ブロックすべてで同じ向きに残ります
- 地域の看護師相場と自社を比べると、訪問看護が混ざったぶん病院は必ず見劣りします。競合は同じ商圏の同じ施設区分に絞って設定してください
- 月給欄で差がつかないぶん、内訳・夜勤の回数と手当額・レンジのどちら側が誰かを原稿に書けるかが分かれ目になります
データは全国358件(正社員・常勤、重複排除後、2026年8月実査)です。媒体は公的職業紹介1つに固定しており、そこに載らない求人は含まれていません。集計方法と限界の開示は「看護師の求人相場ウォッチ」に全文を掲載しています。