「工場 人手不足 対策」で検索すると、自動化や外国人材、待遇改善の話が並びます。製造業の採用担当者から受ける相談も、「月給を上げたいが原資がない」「寮を用意して交替手当も付けているのに応募が来ない」という内容が多くあります。条件は整えたつもりなのに反応がない。その理由を、求人票の側から見てみます。
リクプル編集部が株式会社KD3で続けている工場・製造職の求人相場ウォッチ(2026年10月12日時点・公的職業紹介の正社員求人8,183件・47都道府県)を見ると、相談の構造がはっきりします。この記事の主張は1つです。工場の求人は、寮・社宅を付けても、交替制にしても、工程や工場の規模が違っても、月給欄の数字がほとんど動かない職種である。求職者が比べたい条件は月給欄の外にあり、そこが書かれていない求人は、月給で負けていなくても選ばれない。数字で順に説明します。
工場の求人票は、月給欄がほぼそのまま基本給。盛る余地がない
8,183件すべてで月給の内訳を確認したところ、提示額の中央値20.4万円に対し、同じ求人の基本給の中央値は20.0万円でした。4,967件(60.7%)は提示額と基本給が1円単位で完全に同額で、これは3回の実査で毎回同じ結果です。定額手当の記載がない5,169件に限ると、96%が同額でした。
固定残業代の記載があるのは331件(4.0%)だけで、実査した職種の中では少ないほうです。ただし該当する求人では提示額23.6万円に対し基本給19.4万円と、固定残業代のない求人の基本給20.0万円を下回っていました。月給欄を高く見せようとすると、基本給が削られる形になっています。
求人が減っているわけではありません。厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」では、新規求人が全体で前年同月比3.4%減のなか、製造業は3.9%増でした。求人は増え、月給欄では差がつかない。これが工場の人手不足の、求人票から見える構造です。
寮・社宅を付けても、月給欄は0.7万円しか動かない。基本給は同じ
今回の実査で新しく分けた軸が寮・社宅です。入居可能住宅(単身用・世帯用)がある求人718件(8.8%)の提示額は21.0万円で、ない求人6,993件の20.3万円より0.7万円高く見えます。ところが内訳の基本給はどちらも20.0万円で、差が消えます。
上乗せの正体は寮ではありません。寮・社宅つきの求人は交替勤務が半数を超え(53.5%)、定額手当の記載も多いため、勤務形態と手当の分だけ提示額が高く出ています。日勤のみ・定額手当なし・経験不問に揃えると、差はほぼ消えました。
一方で、月給の上限額は寮・社宅ありが28.5万円、なしが26.4万円と2.1万円の差があります。寮を用意できる会社は上限を高く置いている傾向がある、という読み方はできます。
求職者が寮つきの求人で見たいのは、月給ではなく「寮費と自己負担はいくらか」「入居できる期間と条件(遠方者のみ・年齢制限など)」です。これらは求人票の特記欄にしか書かれず、書かれていないことも多い項目です。執筆時点のGoogleのサジェストには「寮完備 求人 怪しい」という検索語も並んでいました。費用と条件が書かれていない寮は、魅力ではなく不安として読まれます。社宅と家賃補助のどちらを打ち出すかは社宅と家賃補助はどっちが効く。採用で差がつくのは金額ではないで扱っています。
交替制も、工程も、工場の規模も、月給欄に出てこない
交替制・シフト勤務ありの求人2,477件は提示額20.5万円、日勤のみの5,706件は20.4万円で、差は0.1万円でした。前回の実査では0.4万円の差が出ていましたが、今回は再現していません。基本給では日勤のほうが高いか同じです。交替勤務の対価(夜勤手当・交替勤務手当・深夜割増)は月給欄(基本給+定額手当+固定残業代)の外側で支払われるのが通例なので、求人票の月給欄をどれだけ見比べても出てきません。
工程でも差はつきません。職種名から読める工程別では、機械オペレーター20.9万円・加工・成形20.6万円・組立20.0万円・検査20.0万円と並びますが、機械オペレーターが高く見えるのは交替勤務率が57.5%(検査21.3%・組立5.8%)と高く、経験者向けの求人が多いからで、日勤・経験不問に揃えると差は確定しなくなります。
工場の規模でも並びは崩れます。就業場所の従業員数で分けると、300人以上21.0万円・30人未満20.9万円・100〜299人20.3万円・30〜99人20.1万円で、規模の順番になっていません。業種別でも、金属製品・機械器具20.9万円と食料品・飲料20.0万円の差は、地域の中で比べると−0.1〜0.5万円に縮みます。
つまり、「うちは交替制で手当が厚い」「大手だから」「精密機械だから」という自社の強みは、求人票の月給欄には1つも現れません。
月給欄で動くのは2つだけ。実務経験と、働く場所
地域・業種を揃えても向きが変わらない要件は、実務経験ひとつでした。実務経験が必須の求人610件は22.5万円、経験不問の6,352件は20.1万円で、差は2.4万円。5つの地域ブロック・7つの業種すべてで同じ向きです。上限額では30.5万円対26.0万円と4.5万円に開きます。フォークリフト・玉掛け・クレーンなどの資格は、経験を揃えると0.3万円しか動きません。
もう1つは地域です。首都圏22.0万円、関西・東海21.0万円、甲信越・北陸・北関東20.0万円、中国・四国・九州・沖縄20.0万円、北海道・東北19.3万円。都道府県では東京都23.0万円と秋田県18.8万円で4万円強開きます。
実査した求人の77.6%は経験不問で、その中央値は20.1万円。20.0万円ちょうどの求人が1,017件(12.4%)あります。未経験者を採る求人は、入口の月給でほぼ一律だということです。経験者を採る求人だけは、上限と到達条件を書くことで月給欄に差が出ます。
年間休日と残業は、月給と切り離されている。だから書く価値がある
実査した求人の年間休日は中央値117日で、120日以上が42.7%でした。厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」の1企業平均112.4日、120〜129日の企業37.3%と比べると、工場の求人は休日の多い部類です。それにもかかわらず、年間休日120日以上の求人(20.5万円)と105日未満の求人(20.5万円)で月給欄の差は0でした。「休みが少ない代わりに月給が高い」というトレードオフは、求人票に現れていません。
残業も同じです。実査した求人の月平均時間外は中央値12時間、最長60時間でした。Indeed Hiring Lab「求人の残業開示は広がっている、沈黙もまた」(2026年9月)によると、残業に言及する求人は2019年1月の約10%から2026年7月に26.6%まで増えましたが、裏返せば7割強の求人はまだ書いていません。
同じ月給の求人が並ぶ職種では、休日と残業の数字が選別の軸になります。月給欄で差がつかないからこそ、月給欄の外の数字に書く価値があります。年間休日の見せ方は求人票の年間休日は、日数より「閾値をまたぐか」で決まるも参考になります。
求人票に書くべき「月給欄の外」の4項目
ここまでの数字から、工場の求人票で書くべきことは絞れます。月給欄を動かそうとするより、月給欄の外にある次の4項目を数字で書くほうが先です。
- 交替勤務の中身。2交替か3交替か、夜勤・準夜勤が月に何回か、1回あたりの手当はいくらか。「基本給20.0万円+交替勤務手当◯円×月◯回=月収例◯万円」のように、月給欄の外の受取額を1行で示す
- 寮・社宅の中身。寮費と自己負担額、入居できる期間、遠方者のみ・年齢などの条件。「寮完備」の4文字だけでは不安材料として読まれる
- 年間休日の数字と取り方。120日以上なら必ず数字で書く。月給と切り離して選べる職種なので、ここで選ばれる
- 残業の実績時間と固定残業代の有無。通常月と繁忙期の平均時間を書く。固定残業代を使う場合は、基本給が削られて見えることを前提に何時間分かを明示する
あわせて、経験者を採るなら上限額と到達条件を書き、職種名は「製造スタッフ」ではなく工程で書くことをおすすめします。職種名の粒度の話は製造業の採用課題は「職種名」にあるで扱っています。
まとめ
- 工場の求人は月給欄がほぼそのまま基本給(60.7%が同額)。固定残業代の記載は4.0%で、使うと基本給が削られて見える
- 寮・社宅の有無で月給欄は0.7万円しか動かず、基本給は同じ。上乗せの正体は交替勤務と手当。求職者が見るのは寮費と入居条件
- 交替制(差0.1万円)・工程・工場の規模・業種では月給欄に差が出ない。交替の対価は月給欄の外で払われる
- 月給欄で動くのは実務経験(+2.4万円・上限で+4.5万円)と地域(首都圏22.0万円・北海道東北19.3万円)の2つだけ
- 年間休日・残業は月給と切り離されている。交替の中身・寮の中身・休日の数字・残業の実績の4項目を月給欄の外に数字で書く
自社の工場の求人票を開いて、交替手当の1回あたりの額と寮費が書かれているかを確認してみてください。どちらも書かれていなければ、月給を上げる前に直せる場所があります。