「年間休日を増やしたいのですが、何日にすれば応募が来ますか」。条件面の相談になると必ず出てくる質問です。
この質問には、そのままの形では答えられません。同じ「2日増やす」でも、応募に効く2日と、まったく効かない2日があるからです。118日を120日にするのと104日を106日にするのとでは、会社が負担するコストはほぼ同じなのに、求人票の上での意味がまるで違います。
株式会社KD3が採用支援の現場で使っている判断基準は1つです。年間休日は「何日にするか」ではなく「閾値をまたぐか」で決める。この記事では、その根拠になっている公的統計の分布と、自前で実査している求人15,023件のデータを並べ、増やせないときの書き方まで整理します。
年間休日を「増やす」前に、線がどこに引かれているかを見る
求職者は、求人媒体の絞り込み機能で年間休日を切ります。重要なのは、絞り込みが「120日以上」「110日以上」のような区切りで用意されていることです。執筆時点の主要媒体はおおむねこの形です。つまり応募母集団に入るかを決めているのは日数そのものではなく、その区切りのどちら側に乗るかです。私たちは支援の現場で年間休日113日を最低ラインの目安として置いています。
この線の意味は、公的統計の分布を見るとはっきりします。厚生労働省の就労条件総合調査で年間休日総数の階級別に企業割合を見ると、次のようになっています(出典: 厚生労働省「令和7(2025)年就労条件総合調査の概況」第4表・令和6年1年間の実績)。
- 99日以下 ── 11.1%
- 100〜109日 ── 27.9%
- 110〜119日 ── 21.4%
- 120〜129日 ── 37.3%
- 130日以上 ── 2.0%
企業は「105日前後」と「120日台」の2か所に固まっていて、その間の110〜119日が谷になっています。目安にしている113日は、ちょうどこの谷の中です。
ここで冒頭の「同じ2日でも意味が違う」が具体的になります。104日を106日にしても同じ塊の中で動いただけで、絞り込みの結果は1件も変わりません。一方で118日を120日にすると、谷を越えて37.3%が集まる側に入ります。確認すべきなのは「何日増やせるか」ではなく「増やした先が谷のどちら側か」です。
同じ調査の1企業平均は112.4日、労働者1人平均は116.6日。企業規模別の1企業平均は1,000人以上117.7日に対し30〜99人は111.2日で、中小企業は平均で見ても谷の手前にいます。
「休みを減らせば、その分を月給に回せる」は求人票の上に存在しない
もう1つよく出るのが「休みを減らして、そのぶん月給を上げたほうが応募は来るのではないか」という考え方です。これは実査データではまったく支持されません。
リクプルでは公的職業紹介の正社員求人を職種ごとに全国47都道府県から機械採取し、月給の相場を継続的に実査しています。年間休日を集計できた8職種・合計15,023件を区分別に並べると次のとおりです(提示額の月給下限の中央値。並びは「120日以上 / 105〜119日 / 105日未満」)。
- ドライバー(8,033件)── 24.0万円 / 24.0万円 / 24.5万円
- 溶接工(2,848件)── 20.5万円 / 20.8万円 / 21.0万円
- 工場・製造(1,224件)── 20.3万円 / 20.0万円 / 20.0万円
- 保育士(1,078件)── 21.0万円 / 21.1万円 / 20.3万円
- 整備士(705件)── 21.3万円 / 21.3万円 / 20.5万円
- 電気工事士(644件)── 21.0万円 / 22.0万円 / 21.0万円
- 事務(365件)── 19.5万円 / 19.0万円 / 19.0万円
- 施工管理(126件)── 25.5万円 / 25.0万円 / 28.5万円
8職種のうち5職種で、年間休日が少ない求人の月給は、多い求人と同じか、むしろ低く出ています。「休みが少ない代わりに月給が高い」というトレードオフは、少なくとも求人票の月給欄には現れていません。
「休日が少ないほうが高い」向きに出たのはドライバー・溶接工・施工管理の3職種ですが、いずれも中身を開けると根拠が残りません。ドライバーの105日未満24.5万円は、距離区分を揃えるとほとんど消えます(長距離の中では順序が揃わず、近距離の中でも差は1.2万円)。休日の少ない求人に長距離が偏っているだけです。溶接工の0.5万円差は2,848件でも信頼区間が0をまたぎ、施工管理の28.5万円は該当13件しかありません。
つまり、休日を削って月給に振り替えた求人は相場として存在せず、それをやっても相場の中で目立ちません。逆に、年間休日を増やしたぶん月給を抑えるという交換にも裏づけがありません。年間休日と月給は、独立した2本の条件として別々に設計するほうが実態に合っています。
比べる相手は「全国平均」ではなく、自社の職種の分布
ここまで公的統計の112.4日を出しましたが、自社の年間休日をこの数字と比べても判断材料になりません。職種で水準が違い、しかも同じ職種の中の幅が極端に大きいからです。実査での中央値はドライバー107日、電気工事士110日、溶接工114日、工場・製造116日、施工管理118.5日。幅は工場・製造が52〜188日、ドライバーが53〜209日、電気工事士が68〜133日で、同じ職種の求人どうしで60日以上開いています。
募集の設計に直接効くのは「120日以上が何割か」です。工場・製造は1,224件のうち41.5%、溶接工は2,848件のうち33.5%が120日以上でした。3社に1社以上が120日側に乗っている職種で110日を出すと、絞り込みの時点で、その3分の1と勝負する前に外れます。
職種別の実査データは求人相場ウォッチで全件公開しています。実務としては、平均を調べるより自社の職種・商圏で実際に出ている求人を20〜30件開き、年間休日の記載を書き出すほうが早いです。何日が中央か、120日以上が何割か。この2つで現在地は判定できます(相場を「地域の平均」で見たときのズレは「地方の求人倍率は「低いから採りやすい」と早合点しない」でも扱いました)。
閾値をまたげないなら、増やさずに「取り方」を書く
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。増やしても閾値をまたげないと分かったら、増やさないという判断を採用支援側から提案します。年間休日の引き上げは経営インパクトが大きく、一度上げると下げられません。谷の中で1〜2日動かすくらいなら、その原資を手当や募集の露出に回したほうが応募に返ってきます。そのかわりに書けることが1つあります。「規定上の日数」と「実際の取り方」を分けて書くことです。
建設・製造・医療のように現場の工程が動く業種では、規定上の年間休日と現場の実態が一致しないほうがむしろ普通です。実際にあったのは、現状105日から当面120日への引き上げを決めた会社で、現場は4週6閉所・振替休日で回す計画という状態でした。会社側から先に「工程によっては休みを取れないことも予想されるので、記載方法には注意が必要」と共有されたケースです。
ここで提案しているのは、経験者向けと未経験者向けで書く粒度を変えることです。
- 経験者向け: 「現場は4週6閉所、振替休日で運用」で伝わります。過剰な説明はかえって条件を悪く見せます
- 未経験者向け: 同じ文言では読み取れません。振替休日の運用そのものを説明します。休みが取りにくい週があること、そのぶんをいつ取るのか。ここを省くと、年間休日120日という記載が入社後に嘘になります
支援の現場では、クライアントから自発的に「記載方法には注意が必要」と出てきたとき、その会社はすでに早期離職を経験している傾向があります。聞き流さずに掘ると原稿の精度が上がります。規定上と実績の両方を確認する手順は「定着率向上の取り組みは、入社前に確定させた6項目で半分決まる」にまとめています。
なお、こうした実態は単独で置かないでください。振替の運用、繁忙期の見通し、そのぶん何が得られるのかをセットにして初めて条件として成立します。制度を変えずに書き方で実態へ寄せる発想は、固定残業代でも同じです(「固定残業代の書き方は、45時間分でも「1行の併記」で変わる」)。実際に働く人が現場の1日を語る記事——たとえば建設会社の施工管理の記事——を併せて用意すると、条件欄だけでは伝わらない実像を補えます。
最後に2点。絞り込みの刻みは媒体ごとに違うので執筆時点の仕様を現物で確認してください。年間休日の変更は就業規則の改定を伴うため、制度を動かすときは顧問社労士の確認を前提にしてください。この記事で扱っているのは動かす前に、動かす価値があるかを判定する段階の話です。
まとめ
- 年間休日は「何日にするか」ではなく「絞り込みの閾値をまたぐか」で判断する。104日→106日は効かず、118日→120日は効く
- 公的統計の分布は100〜109日に27.9%、120〜129日に37.3%で110〜119日が谷。中小企業(30〜99人)の1企業平均111.2日は谷の手前
- 「休みを減らして月給に回す」は求人相場に存在しない。8職種15,023件の実査で、休日が少ない求人の月給は同じか低い
- 比べる相手は全国平均でなく自社の職種の分布。同じ職種の中で60日以上開くので、自社の商圏の求人20〜30件で中央と「120日以上の割合」を数える
- またげないなら増やさず原資を他に回す。かわりに規定上の日数と実際の取り方を分けて書き、未経験者には振替の運用そのものを説明する
株式会社KD3では、求人原稿の制作前に条件面の現在地を職種・商圏単位で棚卸しし、「動かす価値のある条件」だけに絞ってご提案しています。年間休日を上げるべきかで止まっている場合は、まず現在地の判定からご相談ください。