「製造業 採用課題」で調べると、出てくる答えはだいたい同じです。若手が来ない、有効求人倍率が高い、3K のイメージがある、地方の工場は母集団が小さい。どれも事実ではありますが、採用担当者から見るといずれも自社では動かせない変数です。動かせない話をいくら読んでも、明日の求人原稿は1文字も変わりません。
私たちは求人相場ウォッチで、溶接工の正社員求人を全国5ブロックに分けて実査しました(2026年8月6日時点・採用件数132件)。このとき、集計に入る前の段階で1,249件の正社員求人を1件ずつ開いています。その作業で最初に突き当たったのは相場の話ではなく、「同じ職種名で募集されている求人の、中身がそろっていない」という問題でした。この記事では、製造業の採用課題を「原稿で動かせる範囲」に絞って整理します。
実査で最初に起きたこと:「溶接工」を集めようとすると集まらない
溶接工の相場を出すために、まず職種名で求人を集めました。ところが集めた求人を1件ずつ読むと、職種名に「溶接」と書かれているのに、実際の仕事内容が溶接作業ではない求人が次々に出てきます。
- 溶接部の目視検査・非破壊検査の専任(自分では溶接しない)
- 溶接管理技術者としての管理業務(自分では溶接しない)
- 溶接機そのものの製造・整備・試運転
- 溶接材料の営業・配送
- 切削・旋盤・プレスのみの機械オペレーター、組立のみ、塗装のみ、板金のみ
- 施工管理・現場監督のみ
これらは5ブロック合計で80件以上ありました。いずれも実在する仕事で、求人票としてウソを書いているわけではありません。ただ、応募する側が「溶接工」という言葉から思い浮かべる仕事とは違います。私たちは実査の対象を「自ら溶接作業に従事する職」に限定したため、これらは1件ずつ仕事内容を読んで除外しました。逆に言えば、読まなければ区別がつかなかったということです。
これは溶接に限った話ではありません。製造業の職種名は「機械オペレーター」「製造スタッフ」「軽作業」「品質管理」のように、1つの言葉が広い範囲を指します。同じ職種名の求人が並んでいても、扱う設備も、必要な経験も、キャリアの伸び方も別物です。
職種名がズレると、採用側で2つの損が同時に起きる
職種名と仕事内容がズレている求人は、採用側にとって2つの損を同時に生みます。
1つ目は、対象外の応募が増えること。「溶接工」で検索した人が、実際は検査専任の求人に応募してくる。その逆も起きます。書類選考や面接の工数を使ったうえで、どちらにとっても実りのない結果になります。応募数だけを見れば増えているので、数字上は問題が見えにくいのが厄介なところです。応募数が成果指標にならない理由は「「応募数は多いほど良い」の誤解。応募数と決定率の逆相関の話」でも書いたとおりです。
2つ目は、本当に来てほしい人に見つけてもらえないこと。求職者は職種名で検索します。自社が「製造スタッフ」と書いていて、採りたい人が「NC旋盤」「半自動溶接」で探しているなら、その求人は最初から検索結果に出ていません。母集団が少ないのではなく、母集団に接触できていない状態です。
厚生労働省「一般職業紹介状況」によれば、製造業の新規求人は前年同月比10.4%増(令和8年6月分、出典: 厚生労働省 一般職業紹介状況(令和8年6月分))。求人が増えているということは、同じ検索結果に並ぶ競合も増えているということです。職種名の精度は、以前より効くようになっています。
もう1つの落とし穴:正社員なのに日給制・時給制が2割強
実査でもう1つはっきりしたのが、賃金形態の問題です。走査した正社員求人1,249件のうち、月給制は979件。残る2割強(21.6%)が日給制・時給制でした(日給197件・時給68件ほか)。しかも今回使った媒体では、日給・時給の求人も一覧画面では月額に換算して表示されます。画面上は「月給22万円」の求人と見分けがつきません。
地域差も大きく、中国・四国・九州では正社員求人447件のうち151件(34%)が日給制・時給制だった一方、甲信越・北陸・北関東では9%でした。3倍以上の開きがあります。
これは採用担当者にとって、相場の見え方が壊れるということです。「近隣の同業は月給23万円で出しているらしい」と思って自社の月給を決めたら、その23万円が日給の月額換算だった、ということが普通に起こり得ます。日給制は出勤日数と工期に月収が直結するため、求職者にとっては同じ23万円でも意味が違います。競合の求人票を見るときは、金額より先に「賃金形態等」の欄を見てください。この確認を飛ばすと、自社の給与設定そのものが間違った基準の上に乗ります。
製造業は「月給欄で差をつけられない」職種だった
では、給与の見せ方で差をつければいいのか。実査データはそこにも制約があることを示しています。
溶接工の132件は全件で月給の内訳が読めたため、同じ求人どうしで「求人票に出ている提示額」と「その内訳にある基本給」を突き合わせられました。結果は、提示額の中央値21.0万円に対し基本給20.0万円。基本給は提示額の中央値100%で、132件のうち74件(56%)は1円単位で完全に同額です。固定残業代の記載があったのは132件中わずか4件(3.0%)でした。
これは、同じ手法で実査した他職種と比べると際立ちます。看護師は基本給が提示額の86%、保育士は87%で、手当を月給欄に積むのが標準です(看護師の採用が難しいのは、月給が実額とズレる職種だから)。整備士は97%(整備士の採用が難しいのは、月給欄で「盛れない」職種だから)、電気工事士は98%。溶接工はその中で最も「額面がそのまま基本給」の職種でした。
つまり製造業の技能職では、手当を月給欄に組み込んで見栄えを作るという打ち手がそもそも業界慣行として存在しません。横並びの求人が全部「素の基本給」を出しているので、月給の数字だけで抜きん出ようとすれば、本当に原資を積むしかないということです。
一方で、実査は差がつく場所も示しています。溶接工では、月給の下限は経験の有無でほとんど動きません(経験必須22.0万円・要件なし21.0万円で信頼区間は重なる)が、月給レンジの上限は経験必須33.0万円・要件なし28.5万円と明確に開き、この向きは5つの地域ブロックすべてで一致しました。溶接資格を必須にしている求人は132件中12件(9%)しかなく、金額差も確定していません。「資格で選ぶ」より「経験で伸ばす」構造が求人票に出ているということです。
実務:製造業の求人原稿で、職種名を決める4つの手順
ここまでの実査結果を、原稿の作り方に落とすと次の順番になります。支援の現場でも、この順で整えると応募の中身が変わる傾向があります。
- 1. 職種名を「動詞」で確認する。その人が1日の大半で何をするのかを1文で書き出します。「溶接する」のか「溶接部を検査する」のか「溶接工程を管理する」のか。この1文と職種名がズレていたら、職種名のほうを直します。
- 2. 対象物と工法を職種名に足す。「溶接工」ではなく「建築鉄骨の半自動溶接」「産業機械のTIG溶接」まで書く。検索されるのは具体語のほうです。実査でも、扱う対象(建築鉄骨・造船プラント配管・産業機械・自動車部品)で仕事の中身は大きく変わりました。
- 3. 賃金形態を最初に明記する。月給制なら「月給制」と書く。それだけで、日給制の求人が月額換算で並ぶ検索結果の中で、比較の土俵が正しくなります。競合が2割強その状態にあるからこそ、書いた側が有利になります。
- 4. 月給ではなく上限とキャリアで差をつける。下限の数字で勝てないなら、経験者の到達額、何年でそこに届くか、誰が実際に到達しているかを書く。実査上も差が出ているのは上限側です。あわせて年間休日は必ず数字で書いてください。実査した求人の年間休日は64日から129日まで開いており(中央値115.5日)、同じ月給でも条件がまったく違います。
原稿を書くときの基本的なコツは「求人票の書き方のコツ、公開前にスマホの「壊れ」を潰すこと」にまとめています。あわせて、溶接工の実査結果そのものは求人相場ウォッチ(溶接工)で全データを公開しています。
まとめ
- 製造業の採用課題は「母集団が少ない」で語られがちだが、実査で先に出てきたのは職種名と仕事内容のズレだった
- 職種名に「溶接」とあっても中身が検査・管理・営業・機械オペレーターだった求人が80件以上。読まないと区別できない
- ズレは「対象外の応募が増える」「本当の候補者に見つけてもらえない」という2つの損を同時に生む
- 走査した正社員求人1,249件のうち2割強(21.6%)が日給制・時給制。一覧では月額換算で表示されるため競合の相場を読み違える
- 溶接工は基本給が提示額の中央値100%(132件中74件が完全同額)。月給欄に手当を積む慣行がなく、額面の見せ方では差がつかない
- 差がつくのはレンジの上限側。経験必須の求人は上限33.0万円、要件なしは28.5万円で、5ブロックすべて同じ向きだった
- 実務は「職種名を動詞で確認 → 対象物と工法を足す → 賃金形態を明記 → 上限とキャリアで差をつける」の順
製造業の求人原稿を見直すときは、給与の数字より先に職種名の欄を見てください。そこが実態とそろっていない限り、その下に何を書いても届く相手が変わりません。