「採用が難しい職種ランキング」「人手不足の職種ランキング」を調べる人は、たいてい自社の職種が何位なのかを知りたいわけではありません。知りたいのは「うちは何をすれば採れるのか」のほうです。ところが世に出ているランキングのほとんどは有効求人倍率の順位表で、読み終えたときに残る結論は「うちの職種は難しい」だけになりがちです。
私たちは求人相場ウォッチで、ドライバー・介護・営業・施工管理・事務・看護師・保育士・整備士・電気工事士・溶接工の求人を、同じ方法で1件ずつ実査してきました。累計で1,000件を超える求人票を読んで分かったのは、職種の難しさには「外部環境の難しさ」と「求人票で動かせる余地の大きさ」という別々の2軸があるということです。この記事では、その2軸でランキングを作り直します。
「難しい職種ランキング」は、たいてい1軸で作られている
採用難易度のランキングは、ほぼ例外なく有効求人倍率で作られています。厚生労働省が毎月公表している「一般職業紹介状況」には職種別の有効求人倍率が載っており、職種によって数字が大きく異なります(出典: 厚生労働省 一般職業紹介状況)。たとえば建築・土木・測量技術者は約6倍で、全職種計の1.18倍(令和8年6月分・季節調整値)の5倍前後という水準です。
この順位表は正しいのですが、読んだあとにできることが「母集団を増やす」しかありません。倍率は自社では動かせない変数だからです。倍率を使った難易度の診断そのものは「求人を出す前に勝負は半分決まる。有効求人倍率で採用難易度を診断する」で解説していますが、そこで分かるのは「どれくらい構えるべきか」までです。構え方が決まったあと、原稿の何を直すかは倍率からは出てきません。
軸2:実査で見えた「求人票で動かせる余地」
そこで、もう1つの軸を提案します。その職種の求人票が、そもそも書き手の裁量でどれだけ動くのかという軸です。
私たちは各職種の実査で、求人票に出ている「提示額(月給欄の額)」と、その内訳に書かれている「基本給」を同じ求人どうしで突き合わせてきました。この2つの比率は、職種ごとにはっきり違います。
- 溶接工:基本給は提示額の中央値100%(132件中74件=56%が1円単位で完全同額。固定残業代の記載は4件のみ)
- 電気工事士:98%(126件・46%が完全同額)
- 事務:98%(内訳が読めた44件・48%が提示額=基本給)
- 整備士:97%(78件。固定残業代のない69件では差額の中央値0.5万円未満)
- 営業:92%(51件。4件に1件は79%以下、最も低い求人は32%)
- 保育士:87%(127件。61%の求人で基本給が提示額の9割を切る)
- 看護師:86%(104件。提示額と基本給が同額だった求人は1件もなし)
- 施工管理:中央値は100%だが二極化(内訳が読めた59件のうち51%は提示額=基本給、36%は差が4万円以上。下位10%は74%以下)
- 介護:総額型と基本給型で中央値が3.0万円(約15%)ずれる(夜勤手当・処遇改善手当を含むかどうかで書き方が分かれる)
※ドライバーは実査の件数が22件と少なく、比率を出せる水準にないため上の一覧には含めていません。
比率が100%に近い職種ほど、その業界では月給欄に手当を積んで見栄えを作るという慣行が存在しません。逆に86〜87%の職種では、手当を月給に組み込むのが標準です。この違いは、採用担当者にとって「求人票のどこで差をつけられるか」の違いになります。
2軸で並べ直すと、同じ「難しい」でも打ち手が変わる
この2軸を組み合わせると、同じ「採用が難しい職種」が3つのタイプに分かれます。
タイプA:倍率が高く、月給欄では差がつかない(溶接工・整備士・電気工事士などの技能職)
横並びの求人が全部「素の基本給」を出しているので、金額の見せ方で抜きん出る余地がありません。ここで効くのは仕事内容側の情報です。溶接工の実査では、月給の下限は経験の有無でほとんど動かない一方、月給レンジの上限は経験必須33.0万円・要件なし28.5万円と開き、この向きは5つの地域ブロックすべてで一致しました。差がつくのは入口の金額ではなく、上限とそこへの到達経路です。あわせて、職種名そのものが実態とズレている問題も技能職では深刻でした(製造業の採用課題は「職種名」にある。求人1,249件を実査して分かったこと)。
タイプB:倍率が高く、月給欄の書き方で実額がズレる(看護師・保育士・介護)
ここでは月給の総額表記が実額を表していません。看護師では基本給が提示額の86%、提示額と基本給が同額の求人は104件中1件もありませんでした。応募者は額面で応募し、選考の後半で内訳を知ります。打ち手は募集そのものより、内訳を先に開示して期待値のズレを潰すことです(看護師の採用が難しいのは、月給が実額とズレる職種だから)。倍率は同じように高くても、タイプAとは直すべき箇所がまったく違います。
タイプC:二極化していて、自社がどちら側か分からない(施工管理・営業)
施工管理では、内訳が読めた59件のうち51%が提示額=基本給、36%は差が4万円以上と、同じ職種の中で書き方が割れています。営業も基本給比率の中央値は92%ですが、4件に1件は79%以下です。このタイプでは、自社の求人が求職者からどちら側に見えているかを先に確かめる必要があります。相場の中央値だけを見て給与を決めると、実際には比較されていない相手と比べていることになります。
自社の職種を診断する3ステップ
実務としては、次の順で確認すると自社の位置が分かります。
- 1. 外部環境を確認する(軸1)。厚生労働省の一般職業紹介状況で、自社の職種に近い区分の有効求人倍率を見ます。毎月変わるので、募集を出すタイミングの直近値を使ってください。ここで決まるのは「どれくらいの期間と予算を構えるか」です。
- 2. 競合求人の内訳を10件読む(軸2)。同じ職種・同じ商圏の求人を10件開き、月給欄に手当が積まれているかを見ます。公的職業紹介の求人票は基本給・定額手当・固定残業代が分けて書かれているため、内訳が読めます。ほぼ全件が素の基本給ならタイプA、手当が標準で乗っているならタイプB、割れているならタイプCです。
- 3. タイプに応じて直す場所を決める。タイプAは職種名・仕事内容・レンジ上限とキャリア。タイプBは月給の内訳開示。タイプCはまず自社がどちら側かの確定。いずれも原稿の中で完結する打ち手で、母集団の絶対数を動かす話ではありません。
職種別の実査データは求人相場ウォッチで全件公開しています。件数・信頼区間・除外した求人の条件まで載せているので、自社の職種があれば競合10件を読む前の当たりをつける材料に使えます。
まとめ
- 「採用が難しい職種ランキング」は有効求人倍率の1軸で作られることが多く、読んでも打ち手が「母集団を増やす」しか出てこない
- 実査で見えたもう1つの軸は「求人票で動かせる余地」。提示額に対する基本給の比率は職種ごとに大きく違う
- 溶接工100%・電気工事士98%・事務98%・整備士97%に対し、営業92%・保育士87%・看護師86%。施工管理と営業は同じ職種の中で二極化している
- タイプA(技能職)は月給欄で差がつかないため、職種名・仕事内容・レンジ上限で勝負する
- タイプB(看護師・保育士・介護)は月給の内訳開示で期待値のズレを潰すのが先
- タイプC(施工管理・営業)は、自社の求人が求職者からどちら側に見えているかの確定が先
- 倍率が同じでも直す場所は違う。ランキングは「構え方」を決めるまでで、「直す場所」は求人票の側から決まる
自社の職種が何位かを調べるより、同じ商圏の競合求人を10件開いて内訳を読むほうが、翌週の原稿は具体的に変わります。