求人票に「定年制なし」と書いてあると、何歳になっても働き続けられる会社のように見えます。50代や60代で転職を考えている人ほど、この4文字が目に留まるはずです。一方で「定年制なし デメリット」「定年制なし 退職金」「定年制なし 再雇用なし」と検索している人もいます。うまい話ではないかと、どこかで疑っているからでしょう。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業の採用を支援し、求人票を作る側にいます。その立場から先に結論を言うと、「定年制なし」は長く働けるという約束ではありません。会社が制度をどういう形にしているかを書いた欄です。この記事では、その欄の中身と、読み落としやすい周辺の欄を説明します。
結論: 「定年制なし」は制度の形の話。働ける年数は別の欄と面接で決まる
ハローワークの求人入力案内では、求人票の「保険・年金・定年等」の区分に、定年制・再雇用制度・勤務延長の3つの欄があります。定年制は、就業規則などで定めた定年制の有無を選ぶ欄です。再雇用制度は、定年に到達した人をいったん退職させたあと再び雇う制度の有無と、雇用が続く上限年齢を入れる欄。勤務延長は、定年に達した人を退職させずに引き続き雇う制度の有無と上限年齢を入れる欄です(ハローワーク「求人情報の入力方法について」)。
つまり「定年制なし」は、会社が定年という区切りを定めていない、という事実だけを示しています。何歳まで働いている人がいるのか、年を重ねた人の賃金や仕事がどうなるのかは、この欄からは分かりません。
内幕①: 「定年制なし」は、65歳までの3つの選択肢のうち会社が選んだ1つ
なぜ定年を定めない会社があるのか。法律の側から見ると理由が分かります。高年齢者雇用安定法は、事業主に対して65歳までの雇用を確保する措置を義務づけています。選択肢は、65歳までの定年引き上げ、65歳までの継続雇用制度の導入、そして定年制の廃止の3つです。さらに70歳までについては、いくつかの措置のどれかを講じる努力義務があります(厚生労働省「高年齢者雇用安定法 改正の内容」)。
「定年制なし」は、この3つのうちの1つを選んだ結果です。求人を作る現場では、定年を定めない理由はさまざまです。人手が足りず、働ける間は働いてほしい会社もあります。一方で、再雇用の契約や賃金の決め方を新しく設計する手間を避けたい会社もあります。この欄だけでは、どちらの会社なのか見分けられません。
もうひとつ、定年を書く前提が揃っていない会社もあります。就業規則の作成と届出の義務があるのは、常時10人以上の労働者を使う事業場です(労働基準法 第89条)。10人未満の事業所では、そもそも就業規則に定年が書かれていないことがあります。支援の現場の実感では、小規模な会社の「定年制なし」は、制度として選んだというより、決めていないだけの場合も少なくありません。
内幕②: 「再雇用なし」が並んでいても不自然ではない。再雇用欄は定年のある会社の欄
「定年制なし 再雇用なし」と検索する人は、ひどい条件ではないかと心配しているのだと思います。しかし再雇用制度と勤務延長の欄は、どちらも定年に到達した人のための制度です。定年がなければ使い道がないため、「定年制なし」の求人で再雇用や勤務延長が「なし」と並んでいても、多くの場合は不自然ではありません。
見るべきなのは逆の場合です。「定年制あり」で、再雇用制度の上限年齢に数字が入っている求人は、入社後に働ける年数が読み取れる求人です。たとえば定年が60歳、再雇用の上限が65歳なら、そこが現実の区切りになります。年齢が高めの転職では、「定年制なし」の求人より、こちらのほうが働ける年数の見通しが立つことがあります。定年と再雇用を具体的に書いている会社の例は、建築施工管理のインタビュー記事にもあります。
定年制なしのデメリットは「区切りがない」こと。区切りを決めるのは年齢以外になる
「定年制なし デメリット」で検索する人が気にしているのは、区切りがないことの裏側でしょう。定年があると、会社も本人も「この年齢で一度、働き方や賃金を見直す」という節目を持てます。定年がない会社では、その節目がありません。
節目がないとき、働き方の見直しは年齢ではなく個別の事情で起きます。体力や健康状態、担当する仕事の量、会社の業績などです。求人を作る現場では、定年のない会社ほど、この見直しの基準が明文化されていないことが多いと感じます。基準がないから悪い、とは言えません。ただ、年齢を重ねた人が、誰とどう話し合って働き方を決めるのかは、入社前に確かめておく価値があります。
なお、解雇や雇止めが法律上どこまで認められるかは、個別の事情で変わります。トラブルになりそうなときは、都道府県労働局や弁護士などの専門家に相談してください。この記事は、求人票の欄の読み方を説明するもので、法律の判断をするものではありません。
定年制なし 退職金: 退職金欄と必ず並べて読む
「定年制なし 退職金」も検索の多い組み合わせです。退職金は、定年退職のときに支給する形で設計されている会社が多い、というのが求人を作る現場の実感です。定年がない会社では、退職金がいつ、どの条件で出るのかが、定年のある会社より分かりにくくなります。
求人票の退職金欄は、制度の有無と、適用される勤続年数を入れる欄です。「退職金制度あり」でも金額は約束されていません。この欄の読み方は、退職金あり・なしの読み方を解説した記事で詳しく書いています。定年制なしの求人では、退職金が「あり」なら支給の条件を、「なし」なら代わりの仕組み(企業年金や共済など)があるかを、あわせて確認するのが現実的です。
雇用形態で読み方が変わる。契約社員・パートの本当の区切りは「契約の更新」
ハローワークの案内には、雇用形態(正社員・正社員以外など)やフルタイム・パートタイムで適用される内容が違う場合は、募集する求人ごとに入力する、と書かれています。同じ会社の求人でも、正社員は定年制あり、契約社員やパートは定年制なしと書かれることがあるのは、そのためです。
契約期間が決まっている雇用形態では、実際の区切りは定年ではなく契約の更新です。2024年4月の労働条件明示のルール改正で、有期の契約には、契約更新の上限(通算の契約期間や更新回数)がある場合、その有無と内容を示すことになりました(静岡労働局「労働条件明示のルール変更」)。「定年制なし」と書かれた契約社員の求人で、「通算5年まで」のような更新上限が別に書かれていたら、働ける年数を決めているのはそちらです。
年齢の欄との関係も押さえておくと便利です。「定年を上限」と年齢欄に書かれた求人の仕組みは、年齢制限の6通りの書き方を解説した記事に書きました。定年が見える求人は、年齢欄からも働ける年数が逆算できます。
応募前と面接で、働き続けられるかを確かめる方法
「定年制なし」の求人では、制度の有無ではなく実際に働いている人の姿を聞くのが近道です。
- 応募前に、周辺の欄を並べて読む。定年制・再雇用制度・勤務延長の3欄、退職金の欄、雇用形態、契約の更新上限の記載。3欄がすべて「なし」なら、制度として年齢の区切りを定めていない求人だと分かります
- 面接では「いま、いちばん年上の方は何歳で、どんなお仕事をされていますか」と聞く。制度ではなく実在する人の話を聞く質問なので、採用側は失礼とは受け取りません
- 「60代以降の方の賃金や仕事の内容は、どのように決めていますか」も聞いてよい質問です。基準があれば具体的に答えが返ってきます。「その都度相談です」だけなら、基準が決まっていないと読めます
- 就業規則を入社前に見せてもらえるかを聞く。10人以上の事業場なら作成と届出の義務がある書類です。見せてもらえるかどうかも、会社の姿勢が表れる部分です
- 内定後は、書面で受け取る労働条件通知書の「退職に関する事項」を求人票と見比べる。定年の有無や、更新の上限が求人票と同じか確かめます
答え方が曖昧だったとしても、すぐに悪い会社だと決めつける必要はありません。決まっていないことを決まっていないと正直に答える会社は、むしろ誠実です。避けたほうがいいのは、質問をはぐらかして「大丈夫ですよ」だけで終わらせる会社です。
まとめ
- 「定年制なし」は、定年という区切りを定めていない、という制度の形を書いた欄。何歳まで働けるかの約束ではない
- 定年制の廃止は、65歳までの雇用確保措置の選択肢の1つ。大きな会社の方針の場合もあれば、小規模で決めていないだけの場合もある
- 再雇用・勤務延長の欄は定年のある会社の欄。「定年制なし」で「なし」と並ぶのは多くの場合不自然ではない。再雇用の上限年齢が書かれた求人のほうが、見通しが立つことがある
- 区切りがない分、働き方の見直しは年齢以外の事情で行われる。退職金欄・雇用形態・契約更新の上限もあわせて読む
- 面接では「いちばん年上の方」「60代以降の賃金の決め方」「就業規則を見られるか」を聞き、内定後は労働条件通知書の「退職に関する事項」を見比べる