求人票の就業時間欄に「8:30〜17:30」と書いてあり、その下に小さく「変形労働時間制(1年単位)」。ハローワークの求人票でも、民間の求人サイトでも、見かけたことがあるのではないでしょうか。「変形労働時間制とは何なのか」「求人票にどう書いてあれば安心なのか」と、気になって検索した方も多いはずです。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。この1行は、求人を作る現場でもいちばん説明が省かれやすい欄のひとつです。この記事では、その内幕と、応募前に確かめておきたいことを正直にお伝えします。
まず「変形労働時間制」とは何か。求人票での意味
通常、働く時間は「1日8時間・1週40時間」が上限の目安です。変形労働時間制は、一定期間の平均で週40時間に収まっていれば、忙しい時期は長く、暇な時期は短く働いてよいという仕組みです。求人票でよく見るのは、1年を単位にする「1年単位」と、1か月を単位にする「1か月単位」です。
1年単位の場合、企業は次のようなものを用意するのが一般的です。
- 従業員の代表などとの労使協定(労働基準監督署への届出が必要)
- どの日が出勤でどの日が休みかを決めた年間カレンダー
- 労働日数は年280日が上限、1日10時間・1週52時間が上限、といった枠
つまりこの1行は、「うちには、忙しい時期と暇な時期で働く時間が変わる仕組みがあります」という宣言です。建設、運送、小売、観光、経理・決算期のある会社など、業務量に季節差のある仕事で多く使われています。
なお、制度の細かい要件や、自分の勤務先の運用が適法かどうかは、この記事では判断しません。実態に不安がある場合は、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。ここでは求人票の読み方に絞ります。
内幕①: 就業時間欄には「いちばん平均的な日」が書かれる
変形労働時間制の会社は、時期によって始業・終業の時刻や1日の所定時間が違います。ところが求人票の就業時間欄は、枠が限られています。そのため求人を作る現場では、代表的な日の時間だけを書き、「変形労働時間制あり」で残りを済ませることがよくあります。
悪意があるわけではなく、書く側にとっては「毎月違う」を何行も書くより、1行で済ませるほうが楽だからです。しかしこの結果、読む側には繁忙期の実際の所定労働時間が見えません。「8:30〜17:30」と書いてあっても、繁忙期は「8:00〜18:30」のカレンダーかもしれないのです。
内幕②: 年間休日の数字は「ある年のカレンダーの合計」
1年単位の変形労働時間制では、年間のカレンダーが先に決まり、休日はその結果として数えられます。年間休日の数字は、そのカレンダーの合計です。ここで知っておきたいことが2つあります。
- 労働日数の上限が年280日なので、理屈の上では年間休日は85日(365日−280日)まで少なくできる枠です。実際の求人がそこまで少ないという意味ではなく、制度上の枠が大きいという意味です
- 休みの入り方が「土日祝」ではなく「繁忙期は休みが少なく、閑散期にまとめて取る」形になりやすい。年間休日が同じ110日でも、いつ休めるかは全く違います
年間休日の数字そのものの読み方は、別の記事で詳しく書いています(年間休日105日の求人で、少ない休みが月給に反映されない理由)。変形労働時間制の求人では、そこに「その休みがどの時期に偏っているか」という読み方が加わります。
内幕③: 「残業」の数え方が通常の会社とは違う
求人票を読むうえで、いちばん誤解されやすいのがここです。通常の会社なら、1日8時間を超えた分が残業(時間外労働)です。ところが変形労働時間制では、あらかじめカレンダーで「この日は10時間」と決めた日は、10時間までは所定の労働時間として扱われるのが一般的な仕組みです。
たとえば繁忙期の所定が1日10時間のカレンダーなら、10時間働いても、その日は「残業」にならない場合があります。そのぶん、閑散期には所定が6時間などの短い日が設けられ、年間を通した平均で帳尻を合わせる設計です。
求職者にとって大切なのは、次の2点です。
- 月給が同じでも、繁忙期は時間あたりの単価が下がり、閑散期は上がる。月ごとの所定労働時間が違うからです
- 「月平均の残業は10時間」と言われても、その10時間が、所定時間を超えた分なのか、1日8時間を超えた分なのかで、実際の拘束時間は変わる
固定残業代が付いている求人では、さらに複雑になります(固定残業代の求人の読み方、残業時間の見方)。変形労働時間制と固定残業代が重なる求人は、書面で数字を確認しておく価値が最も高い求人です。
内幕④: 良い会社と悪い会社を、この1行では分けられない
誤解のないようにお伝えします。変形労働時間制を採用していること自体は、悪いことではありません。業務量の波がはっきりしている会社が、暇な時期に無理に出勤させず、しっかり休ませるために使う場合もあります。繁忙期の長時間を、閑散期の連休で返してくれる会社もあります。
一方で、カレンダーが形だけで、実際には繁忙期の長時間が年間を通して続く会社がないとは言えません。支援の現場の実感として、差が出るのは制度の有無ではなく、年間カレンダーが実際に守られているかです。この1行は、その会社に「確認する価値があるか」を教えてくれるサインだと思ってください。
応募前・面接での確認方法
確認すべきことは多くありません。次の5つを、選考が進んだ段階で聞いてみてください。採用側は、入社後の「思っていたのと違う」を何より避けたいので、聞かれて困る質問ではありません。
- ①「年間カレンダーを見せていただけますか」。見せてもらえる会社は、カレンダーが実際に運用されている会社です。昨年度分でも構いません
- ②「いちばん忙しい月の、所定の始業・終業時刻と休日数を教えてください」。就業時間欄に出ていない繁忙期の数字が、ここで分かります
- ③「入社予定月の所定労働時間は何時間ですか」。繁忙期の直前に入るのか、閑散期に入るのかで、最初の数か月の働き方が変わります
- ④「繁忙期の時間外労働は、昨年度は月に何時間ほどでしたか」。制度ではなく実績を聞くのがポイントです
- ⑤内定後は、労働条件通知書で書面を確認する。変形労働時間制の適用の有無や、始業・終業の時刻が書いてあるかを見てください
ここで質問に具体的に答えられる会社は、日ごろから労務管理がされている可能性が高い──これも現場の実感です。逆に、制度の説明が曖昧なまま「入ってから説明します」と繰り返す会社は、慎重に見たほうがよいかもしれません。
制度の数字だけでは分からない「実際の繁忙期」を知るには、実際に働く人の声がいちばん早い方法です。リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、実際に働く人のインタビューと募集要項をセットで掲載しています(掲載中の求人一覧)。
まとめ
- 変形労働時間制は、一定期間の平均で週40時間に収める仕組み。忙しい時期は長く、暇な時期は短く働く
- 就業時間欄には「代表的な日」しか書かれにくく、繁忙期の実際の時間は求人票から見えない
- 年間休日は年間カレンダーの合計。数字が同じでも、休みの入る時期は会社ごとに全く違う
- 「残業」の数え方が通常と異なる。所定が10時間の日は、10時間までは残業にならない場合がある
- 制度そのものは良し悪しではなく、差が出るのは年間カレンダーが実際に守られているか
- 面接では、年間カレンダー・繁忙期の所定時間・入社月の所定時間・昨年度の実績を聞き、内定後は労働条件通知書で確認する