「施工管理の採用単価はいくらか」を調べている担当者の多くは、その手前で1つの前提を置いています。施工管理技士の有資格者は希少だから高くつく、だから資格要件を緩めれば単価は下がるはずだ、という前提です。予算を組むときも「資格必須なら◯◯万円、不問なら△△万円」という形で見積もろうとします。
私たちは求人相場ウォッチで、施工管理(建築・土木・設備/正社員)の求人148件を1件ずつ実査しました。地域と媒体が交ざらないよう、全国5ブロックすべてで同じ媒体構成を揃えて採取したデータです。そこで分かったのは、資格要件と提示されている月給の下限が、単調な関係になっていないということでした。そして実査した148件のうち73件、つまり市場の49%はすでに未経験可です。この記事では、施工管理の採用単価をどう見積もるべきか、そして単価が下がらないときに疑う場所を、実査データから整理します。
そもそも「施工管理の採用単価の相場」は相場表からは出てこない
先に定義を揃えておきます。採用単価とは、1人採用するのにかかった費用を採用人数で割った数字です。広告費だけで見るのか、人材紹介の手数料や社内工数まで含めるのかで額が2倍以上変わるため、他社の数字と比べる意味はほとんどありません。まず自社の中で定義を固定するところから始まります。この計算の順序そのものは「採用単価は「計算」より先に決める。採用枠×15万円で予算上限を引く」に書いたとおりです。
そのうえで、支援の現場での実感を1つ共有します。職種や地域が違っても、原稿と媒体運用が噛み合った求人の採用単価は1人あたり7〜15万円のレンジに収まる傾向があります。応募が安く集まる職種は決定率が低く、応募が高い職種は応募者の本気度が高い、というシーソーの関係があるため、掛け算の結果が一定の幅に落ち着くからです。私たちが予算設計をするときは、この上端を使って「広告費の上限=採用枠×15万円」という線を引いています(予算表の作り方は「採用予算の決め方は「積み上げ」でなく採用枠からの逆算」にまとめました)。
ここで重要なのは、このレンジに職種別の割増がないことです。施工管理だから25万円、という形にはなりません。逆に施工管理で単価が15万円に張り付いたり超えたりする場合は、職種の希少性ではなく構造的な問題を疑うべき、というのが現場の判断です。ではその構造とは何か。多くの人が最初に疑う「資格要件」は、実はその犯人ではありませんでした。
実査148件:資格を必須にしても、月給の下限は上がっていない
実査した148件を資格要件で分けて、月給の下限(求人票に出ている月給の最低額)の中央値を出すと、次のようになりました。
- 施工管理技士の資格が必須:28.0万円
- 資格不問:27.0万円
- 資格はあれば尚可:25.0万円
「資格を求めるほど高い」なら、必須>あれば尚可>不問の順に並ぶはずです。ところが実際には資格不問が真ん中に入り、順序が単調になっていません。しかも3つの層の95%信頼区間はすべて重なっており、この差そのものが確定していません。
なぜ「あれば尚可」が最も低いのか。この層の求人44件を読み直すと、半数の22件が未経験可でした。資格も経験も求めない、いちばん間口を広く取った設計の求人が「あれば尚可」というラベルに集まっているためです。つまりこの3分類は資格の希少性を測っているのではなく、会社がどこまで間口を広げたかという求人設計の違いを映しているだけだと読めます。
そして実査した148件のうち73件、49%が未経験可でした。施工管理は「有資格者を高く買い取る市場」だと思われがちですが、公開されている求人の半分は資格も実務経験も入口条件にしていません。資格要件を外すことは、この49%の側に自社が並ぶという意味であって、それ自体が採用単価を押し下げるレバーではないのです。
採用の難易度が高いことと、単価が資格で決まることは別の話
誤解のないように書くと、施工管理の採用難易度が高いこと自体は事実です。厚生労働省の一般職業紹介状況で建築・土木・測量技術者の有効求人倍率は約6倍(令和8年4月分の職業別)で、全職種計の1.18倍(令和8年6月分・季節調整値)と比べて突出しています(出典: 厚生労働省 一般職業紹介状況(令和8年6月分)、同 職業別統計。毎月変動するため、募集を出すタイミングの直近値で確認してください)。
ただし倍率が示しているのは母集団の薄さであって、1人採るのにいくらかかるかではありません。倍率は自社では動かせない外部環境で、そこから出てくる打ち手は「期間を長めに構える」「予算を厚めに置く」までです。どこを直せば単価が下がるかは、倍率からは出てきません。施工管理で採用が「できない」会社に共通する誤解については「施工管理の採用が「できない」会社に共通する、たった一つの誤解」で別途書いています。
単価が下がらないときに疑う3つ。いずれも要件ではなく設計側
資格要件が犯人でないなら、どこを見るのか。実査から見えた順序は次の3つです。
1. 比較相手が「同じ媒体に出ている求人」になっているか。今回の実査でいちばんはっきり出たのは、地域差ではなく媒体差でした。媒体別の月給下限の中央値は、民間の求人サイト①が28.0万円、同②が27.0万円、公的職業紹介が26.0万円です。一方の地域ブロックは、ある媒体では首都圏が最上位・北海道東北が最下位になるのに、別の媒体では甲信越・北陸・北関東が最上位、関西・東海が最下位と、媒体を変えると順位そのものが入れ替わりました。施工管理については、今回の実査で地域差を確定できていません。他県の求人や別サイトの数字を持ってきて「うちの提示額は相場より高い/低い」と判断すると、比べていないものを比べていることになります。
2. 月給レンジの上限が、応募の判断材料として機能しているか。施工管理は求人票の給与の幅が実査職種の中で最も広く、上下限とも書かれた88件で上限は下限の中央値1.61倍、幅は中央値16.5万円ありました。上限が50万円以上の求人が26件、最高は80万円です。これは有資格・大規模現場・所長クラスまで想定した幅で、入社時の提示ではありません。上限額を上げても、そこに誰がいつ到達したのかが書かれていなければ、応募の判断材料になりません。職種ごとのレンジ幅の相場は「求人票の給与の幅は職種で決まっている。狭い職種で広く書くと外す」に整理しました。
3. 月給欄の内訳が、自社と競合で揃っているか。実査では、月給の内訳(基本給がいくらか)を開示するかどうかが媒体で極端に違いました。内訳を取得できた割合は、公的職業紹介の求人票が50件中50件(100%)だったのに対し、民間の求人サイトは98件中9件(9%)です。内訳が読めた59件のうち51%は手当が乗っておらず提示額=基本給でしたが、36%は提示額と基本給の差が4万円以上あり、最も乖離した求人は提示35.4万円に対し基本給20.0万円でした。同じ「月給28万円」でも中身が違う求人が混在しているということです。自社が素の基本給で書いていて、競合が手当込みで書いているなら、同じ額でも見え方が負けます。
実務としてどう見積もるか
ここまでを予算の話に戻すと、施工管理の採用単価は次の順で置くのが実際的です。
- 広告費の上限は採用枠から引く。「採用枠×15万円」を上限に置き、資格要件による割増は入れません。実査データを見るかぎり、要件の厳しさで相場が単調に動いていないためです。
- 難易度は期間で吸収する。有効求人倍率が示すのは母集団の薄さなので、単価を上げるより募集期間を長めに構えるほうが、結果として1人あたりの費用は安定します。
- 単価が上限に張り付いたら、要件ではなく3点を確認する。比較相手の媒体、レンジ上限の書き方、月給欄の内訳。この3つはいずれも原稿の中で直せます。
- 資格要件を外すかどうかは、単価ではなく採用後の話で決める。市場の49%が未経験可という事実は「未経験可にすべき」という意味ではありません。未経験を受け入れるなら育成の体制が要るので、これは単価ではなく現場のキャパシティで決める判断です。
実査データは件数・信頼区間・除外条件まで求人相場ウォッチ(施工管理)で公開しています。自社の提示額が同じ媒体の中でどのあたりにいるかを確かめる材料に使ってください。
まとめ
- 施工管理の採用単価に職種別の割増はない。支援の現場では、原稿と運用が噛み合った求人は7〜15万円に収まる傾向があり、広告費の上限は採用枠×15万円で引く
- 実査148件で、資格要件別の月給下限は必須28.0万円・不問27.0万円・あれば尚可25.0万円と単調にならず、信頼区間もすべて重なった
- 「あれば尚可」が最も低いのは、この層44件の半数22件が未経験可だから。3分類は資格の希少性ではなく求人設計の違いを映している
- 実査148件のうち73件(49%)が未経験可。施工管理は有資格者だけを取り合う市場になっていない
- 有効求人倍率が高いことは事実だが、それは母集団の薄さの話。単価をどう下げるかは倍率からは出てこない
- 単価が下がらないときに疑うのは、比較相手の媒体・レンジ上限の書き方・月給欄の内訳の3つ。いずれも原稿の中で直せる