「面接で給与のことを聞いたら、お金目当てだと思われて落とされるのではないか」。転職活動でこの不安を持つ人はとても多く、「面接 給与提示 不採用」といった検索が毎日されています。転職者が入社前に感じる不安の2位は「希望の収入が維持されるか」(37.35%)という調査もあり(出典: ベイジ「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」)、不安なのに聞けないというのが実情です。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。この記事では、その立場だから知っている「面接で給与の話が出たとき、採用側の中で実際に何が起きているか」を正直にお伝えします。結論から言うと、聞いたことで評価が下がる場面はほとんどありません。採用側が本当に困るのは、まったく別の一言です。
内幕①: あなたが聞かなくても、企業は必ず金額の話をしている
まず知っておいてほしいのは、面接が終わったあと、採用側の打ち合わせで最初に出る議題のひとつが「この人はいくらで決まるのか」だということです。
中途採用の提示額は、面接官の一存では決まりません。多くの会社では、社内の賃金テーブルに当てはめ、既存社員とのバランスを確認し、決裁者の承認を取る、という手順を踏みます。その手続きを始めるには「いくらなら決まりそうか」という手掛かりが要るのです。
つまり給与の話は、応募者が持ち出すかどうかに関係なく必ず企業側で議論されています。聞かないことで得することは構造上ほとんどありません。「聞かない=奥ゆかしい人」と評価される場面は、現場の実感としてはまず見たことがありません。
内幕②: 「聞くと落ちる」の因果はむしろ逆
もう少し踏み込みます。採用を支援していて壊れる案件でいちばん多いのは、「金額を聞いたから落ちた」ケースではなく、金額を詰めないまま最終まで進み、内定を出した段階で条件が合わずに白紙になるケースです。何回も面接の時間を使い社内の承認まで取ったうえで振り出しに戻るので、企業側にとっても最悪の結果です。だから採用の現場では「早い段階で金額の目線が合っているか確認したい」と考えている担当者のほうが多い、というのが実感です。
もちろん、初回面接の冒頭でいきなり金額の話だけをすれば、優先順位を誤解されることはあります。ただそれは「聞いたこと」ではなく「聞く順番」の問題です。仕事内容への関心を示したうえで確認する限り、給与の質問はごく普通の質問として扱われます。
内幕③: 聞くタイミングは「面接の回数」ではなく「誰が出てくるか」で決める
「何次面接で聞けばいいのか」という疑問はよく見かけますが、求人を作る側から見ると、回数より「その場に金額を決められる人がいるかどうか」のほうが重要です。
現場の社員だけが出てくる面接では、面接官自身が提示額を知らないことが珍しくありません。そこで金額を聞いても「人事に確認します」で終わり、あなたの印象に残るのは「はぐらかされた」という感触だけです。逆に、次のような場面は金額の話が想定されている回です。
- 人事担当者・役員・社長が同席する回(賃金テーブルと決裁を持っている側が出てくる)
- 「条件面談」「オファー面談」と案内された場(そもそも条件を詰めるために設定されている)
- 企業側から「希望年収は」と聞かれたとき(後述しますが、これは金額の話をしていい合図です)
面接の案内メールに同席者の役職が書かれていることは多いので、そこで判断するのが確実です。
採用側が本当に困る「3つの答え方」
ここからが本題です。求人を作り採用を支援する現場で、正直に言って困るのは次の3つです。いずれも謙虚さや遠慮から出てくる言葉なので、悪気がないぶん厄介です。
- 「御社の規定に従います」——最も多く、最も損をしやすい答え方です。企業側に判断材料がないので、社内で最も説明のいらない金額、つまり初任給テーブル(レンジの下限)で稟議を通すことになります。詳しくは「転職で給料が下がる人に共通する、レンジ下限と内訳の見落とし」で書いたとおりです
- 「だいたいどのくらいもらえますか」——求人票に書いてあるレンジをもう一度読み上げるしかなく、双方にとって情報が増えません。レンジの上限は「その職種で最も高い在籍者」を想定した数字で、中途入社の入口ではほぼ出ない、という構造は「「給与25万〜45万」の求人で、提示が下限寄りになりやすい理由」で解説しています
- 「今より上がりますか」——「今」がいくらなのかを言わずに聞かれるため、答えようがありません。企業側は現職の水準を知らないまま提示額を作ることになります
共通しているのは、どれも「あなたの基準」を伝えていないという点です。評価を下げているのではなく、企業側が金額を作る材料が手に入らないまま話が進んでしまいます。
「希望年収は?」と聞かれたときの考え方
希望額を聞かれると、高く言えば落とされ低く言えば損をする、という板挟みに感じるかもしれません。ただ採用側の実務としては、この質問は落とすためではなく、社内で承認を取る金額を作るために聞いています。次のように答えると企業側も動きやすくなります。
- 現職の金額を、基本給と手当に分けて事実として伝える。「基本給が◯万円、手当を含めた総額が◯万円です」。これがあるだけで企業側の起点が決まります
- 希望は幅ではなく1つの数字で伝え、理由を1行添える。「◯万円を希望しています。現職と同水準を維持したいためです」。理由があると社内で通しやすい金額になります
- 金額以外に優先することがあれば、そこも言葉にする。「金額は◯万円が希望ですが、通勤時間と残業の少なさを重視しています」。条件の調整余地が生まれます
ここで曖昧な答えしか返ってこない会社は、入社後の評価制度も曖昧なことが多い——これも現場の実感です。給与の質問への答え方は、その会社の誠実さのリトマス試験紙になります。
金額より先に聞くべき1行は「内訳」
最後に、聞き方より大事なことをひとつ。提示された金額そのものより、その金額の内訳のほうが後々の生活を左右します。
私たちは求人票を1件ずつ開いて提示額と基本給を突き合わせる「求人相場ウォッチ」を職種ごとに続けています。そこで分かったのは、同じ「月給◯万円」でも基本給が占める割合は職種でまったく違うという事実です。
- 介護職: 基本給は提示額の中央値80%。内訳が読めた125件のうち完全同額は8件(6%)のみで、18件は7割も切っていました。しかも固定残業代のある求人は140件中10件(7.1%)だけで、上乗せの正体は残業代ではなく処遇改善手当・資格手当・夜勤手当です
- ドライバー: 中央値84%。136件中55件(40%)は7割を切ります
- 溶接工: 中央値100%。132件中74件(56%)が1円単位で提示額=基本給でした
賞与を「基本給の◯ヶ月分」で計算する会社は多いので、同じ額面25万円でも基本給が18万円か25万円かで、賞与も退職金も変わってきます。だから条件面談で聞くべき一行はこれです。
- 「ご提示いただいた金額のうち、基本給はいくらになりますか」
- 「この金額に固定残業代は含まれていますか。含まれる場合、何時間分でしょうか」(含まれる場合の判断は「固定残業代の求人を一律に避けるのは損」を参照)
- 「賞与は何を基準に何ヶ月分ですか。直近の実績はどのくらいでしたか」
いずれも金額の交渉ではなく事実の確認なので、失礼になりません。むしろ入社後のミスマッチを避けたい企業ほど、はっきり答えてくれます。なお、固定残業代の適法性など法律の判断が絡む場合は、労働基準監督署や専門家に相談してください。
とはいえ、面接の場で全部を聞き切るのは簡単ではありません。リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、実際に働く人のインタビューと募集要項をセットで掲載しています。給与や働き方のリアルを確かめてから応募したい方は、掲載中のインタビュー記事をご覧ください。
まとめ
- 企業側は面接後に必ず「いくらで決まるか」を議論している。聞かないことで得することはほぼない
- 壊れる案件で多いのは「聞いて落ちた」ではなく「金額を詰めないまま内定まで進んで白紙になった」ケース
- 聞くのは面接の回数でなく金額を決められる人が出てくる回(人事・役員の同席/条件面談)
- 採用側が困るのは「規定に従います」「だいたいどのくらい」「今より上がりますか」——自分の基準を伝えていない
- 希望額は現職を基本給と手当に分けて伝え、1つの数字+理由1行で
- 金額より内訳。基本給比率は職種で80%〜100%まで違う。基本給・固定残業代・賞与基準の3点を確認する