「転職したら、なぜか給料が下がった」。額面の月給は上がったはずなのに、手取りやボーナスで損をした気がする——検索でこの悩みにたどり着く人は少なくありません。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。この記事では、その立場だから見える「給料が下がる転職」に共通するパターンを、実際に集計した求人データとあわせて明かします。使うのは、8職種・合計1,300件超の求人を実際に開いて集計した「求人相場ウォッチ」のデータです。
内幕①: 「下がった」の正体は、額面ではなく基本給比率の違い
まず知ってほしいのは、月給の額面のうち「基本給」が占める割合は、職種によってまったく違うという事実です。求人票の内訳(基本給・手当・固定残業代)を職種ごとに突き合わせた結果がこちらです。
- ドライバー: 基本給は提示額の中央値84%(実査職種で最低)。136件中75件(55%)が9割を切り、55件(40%)は7割も切る。最大の乖離は提示28.0万円に対し基本給4.0万円(14%)
- 看護師: 中央値86%。内訳が読めた104件のうち、提示額と基本給が同額の求人は0件
- 保育士: 中央値87%(最小61%)。同額は127件中10件(8%)のみ
- 整備士: 固定残業代のない69件では基本給は提示額の97%・29件が完全同額
- 電気工事士: 中央値98%。126件中58件(46%)が完全同額
- 溶接工: 中央値100%。132件中74件(56%)が1円単位で完全同額
この差が、給料が下がったと感じる大きな原因のひとつです。手当が厚く月給に積まれる職種(看護師・保育士・ドライバー)から、月給がほぼ基本給そのままの職種(電気工事士・溶接工)へ転職すると、額面の月給が同じか多少上がっていても、賞与や退職金の計算基盤である基本給は下がっていることがあります。賞与を「基本給の◯ヶ月分」で計算する会社は多く、額面が同じ25万円でも、基本給21万円と基本給18万円では、同じ「4ヶ月分」の賞与に12万円の差が出ます。
内幕②: 提示額はレンジの下限に寄りやすい
もうひとつの内幕は、求人票の給与レンジそのものにあります。以前の記事「「給与25万〜45万」の求人で、提示が下限寄りになりやすい理由」で書いたとおり、幅の広いレンジの上限は「その職種で最も高い在籍者」を想定した数字で、中途入社の入口としてはほぼ出ません。提示は下限〜中央あたりに集まりやすい構造です。
これは転職で給料が下がるパターンとも直結します。とくに業種・職種を変える転職では、前職での経験がそのまま評価されず「未経験に近い扱い」になりやすく、レンジの下限で決まる確率が上がります。「今より収入を上げたくて転職したのに、レンジの下限に落ち着いた」というケースの多くは、ここに理由があります。
内幕③: 「今の給与を言わない人」ほど下限で決まりやすい
ここは統計ではなく、求人を作り採用の現場を支援する立場での実感です。企業が中途入社者の提示額を決めるとき、判断材料にするのは「この人はいくらなら現職から動くか」という情報です。
現職の給与や希望額をはっきり伝える人には、企業側も「ここまで出さないと決まらない」という基準ができ、レンジの中央〜上寄りで提示が決まりやすくなります。逆に「特にこだわりません」「御社の規定に従います」とだけ伝える人は、企業側からすると基準がないので、社内の初任給テーブル(=レンジの下限)で決めるのが最も無難という判断になります。謙虚さのつもりの一言が、結果的に下限提示を後押ししてしまうことがある——これが「歩留まり」の内幕です。
下がらないために: 転職前に「自分の内訳」を洗い出す
ここまでを踏まえると、給料が下がる転職を避けるためにできることは3つに絞れます。
- 現職の月給を「基本給」と「手当」に分解しておく。給与明細や雇用契約書で確認できます。額面だけで比較すると、基本給比率の違う職種間では正確な比較になりません
- 内定先の内訳も同じ粒度で確認する。「月給25万円」としか書かれていない場合は、面接や条件面談で基本給の額を必ず聞く
- 希望額は具体的な数字で伝える。「今の基本給が◯万円で、手当を含めた総額が◯万円です」と伝えるだけで、企業側の提示基準が明確になり、下限に落ち着くリスクが下がります
面接・条件面談で聞くならこの2つ
失礼にならない聞き方は、以前の記事でも紹介したとおり「自分のケース」を聞くことです。
- 「提示額のうち、基本給はどのくらいの割合になりますか」——賞与・退職金の計算基盤を事前に把握できます
- 「私と同じ経験・年齢の方だと、どのあたりの提示になることが多いですか」——レンジではなく実例を聞くことで、下限提示になりやすいかどうかの手がかりになります
ここで内訳をはっきり答えられない会社は、給与制度そのものが曖昧なことが多い——これも求人を作る現場の実感です。金額の質問は選考が進んだ段階(2次面接以降や条件面談)でするのが無難です。
職場のリアルな給与事情は、実際に働く人に聞くのが一番確実です。リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、インタビューと募集要項をセットで掲載しています(掲載中のインタビュー記事)。
まとめ
- 「給料が下がった」の正体は額面ではなく基本給比率の違いのことが多い。基本給比率はドライバー84%から溶接工100%まで職種で大きく違う
- 提示額はレンジの下限〜中央に集まりやすい。とくに未経験扱いになる異業種・異職種への転職は下限に寄りやすい
- 現職の給与も希望額も伝えない人ほど、企業側は「無難な下限」で決めがちになる
- 転職前に自分の給与を基本給と手当に分解し、内定先にも同じ粒度で内訳を確認する
- 面接では「基本給の割合」と「自分と同じ経験の人の提示水準」を聞くのが確実