内定は出た。けれど提示された給与が、思っていた額より低い──。辞退したほうがいいのか、交渉していいのか、そもそもこの額が妥当なのかが分からない。転職活動でいちばん判断に困る場面のひとつだと思います。
私たちリクプル編集部は、ふだんは企業側の採用を支援し、求人票を作る側にいます。あわせて、実際に出ている求人票を職種ごとに100件以上ずつ集計する求人相場ウォッチも行っています。この記事では、その両方から見えている「提示額がどう決まっているか」の内幕を正直にお伝えします。
先に結論です。提示が低い理由は、あなたへの評価より先に「その職種の入口の値段」で決まっている部分が大きい。しかもその構造は職種によってはっきり違います。
内幕①: 提示額は「あなたの評価」より前に、求人票の下限で枠が決まっている
求人票に「月給24万円〜38万円」と書かれているとき、企業の中では先に「この募集の入口はいくらか」が決まっています。中途採用の提示額は、多くの場合その入口の額を起点に、経験に応じて上へ積む形で計算されます。ゼロから「この人はいくらか」を考えて決めているわけではありません。だから面接の手ごたえが良くても、提示は下限に近いところから始まりがちです(この点は「給与25万〜45万」の求人で、提示が下限寄りになりやすい理由で詳しく書きました)。
本記事で扱うのはその先です。「経験を積んでいれば、入口の額から上に積んでもらえる」という前提そのものが、職種によっては成り立っていないことが、実査のデータから見えています。
内幕②: 経験が「下限」を動かす職種と、「上限」にしか出ない職種がある
経験要件による月給の差を職種ごとに同じ手順で見比べると、結果が2つのタイプに割れました。
ひとつは、経験が入口の額そのものを動かしている職種です。施工管理(126件)では、経験を求める求人の月給下限が27.5万円、未経験可の求人が24.0万円で、信頼区間が重なりません。同じ求人の基本給で引き直しても25.0万円と21.5万円で、やはり重なりませんでした。電気工事士(126件)も同じ形で、資格要件を揃えて比べると、第二種以上必須の中でも資格不問の中でも、経験必須25.0万円に対し未経験可21.0〜22.0万円と同じ向きに開きます(信頼区間は重なるため差の大きさまでは確定していません)。
一方で、経験が入口の額をほとんど動かさない職種もあります。営業(182件)では、月給下限の中央値が経験必須25.0万円・未経験可23.0万円で信頼区間が重なります。差が出るのは上限額のほうで、経験必須35.0万円・未経験可31.0万円と開き、5地域ブロック中4ブロックで同じ向きでした。溶接工(132件)はもっとはっきりしていて、下限は22.0万円と21.0万円で差1.8万円・信頼区間も重なりますが、上限額は経験必須33.0万円・要件なし28.5万円と、5ブロックすべてで同じ向きに開きました。
つまり営業や溶接工では、経験は「入社時の月給」ではなく「その先の伸びしろ」として求人票に置かれているということです。経験を積んで応募しても入口の提示が未経験の人と大きく変わらない求人設計が、実在します。提示が低かったとき、まず確かめたいのは自分が受けた職種がどちらのタイプかです。
内幕③: 資格は、思われているほど月給の下限を動かしていない
「資格を取ったのに提示が上がらない」という声もよく聞きます。これも実査の数字と整合します。
電気工事士は、資格がなければ従事できない業務がある職種です。それでも実査した126件では、第二種以上必須の40件と資格不問・歓迎の83件で月給下限の中央値が22.0万円と完全に一致しました。地域を揃えて5ブロック別に引き直しても向きが揃いません。逆に経験のほうを揃えると資格の差は消えます。実査でいちばん低かった組み合わせは「資格は必須だが実務は未経験可」の21.0万円でした。
溶接工でも、溶接資格を必須にしている求人は132件中12件(9%)しかなく、中央値は22.0万円対21.0万円で信頼区間が重なり、関西・東海では逆に資格必須のほうが低いなど向きも揃いませんでした。
施工管理では基本給で「資格必須26.0万円・あれば尚可24.0万円・資格不問23.0万円」と順序が単調に見えます。ただし資格必須の43件のうち39件(91%)は経験も求めており、経験を求める求人だけに揃えると3層の差は確定しなくなりました。効いているのは資格そのものというより、経験と資格の両方を求める求人設計かどうかです。
資格は応募できる求人の幅を広げますが、入口の月給を押し上げる材料としては求人票の段階であまり効いていません。資格を評価してもらうなら、月給ではなく資格手当が月いくら付くかを個別に確認するほうが実際的です。
内幕④: 同じ「月給25万円」でも、職種名が変わると中身が変わる
もうひとつ見落とされやすい点があります。施工管理の実査126件のうち13件は、職種名が「アシスタント」「補助」の表記でした(件数が少ないため参考値です)。この13件の提示額は25.0万円で、本来の施工管理職26.0万円と1万円しか違いません。ところが同じ求人の基本給で比べると20.3万円と25.0万円で、4.7万円の開きがありました。13件中6件に固定残業代が乗っており、提示額を手当で持ち上げている設計です。
提示額が低いかどうかを考える前に、比べている2つの額が同じ中身なのかを確認する必要があります。額面のうち基本給が占める割合は職種によって8割から10割まで違います(転職で給料が下がるパターン、固定残業代の見方で詳しく書いています)。
辞退や交渉を決める前に、切り分けたい3つ
ここまでを踏まえた、実際の確認手順です。
- ①同じ職種・同じ地域の求人の「下限」と比べる。比べる相手は、いまの自分の給与でも求人票の上限でもなく、同職種の月給下限の分布です。提示額がその中央値の近くにあるなら、低い評価ではなく標準的な入口の額です。求人相場ウォッチで職種ごとの中央値と信頼区間を公開しています
- ②「この額は、経験を評価したうえでの額ですか」と聞く。条件面談で聞いて差し支えのない質問です。「未経験入口と同じ枠です」なら入口の値段、「◯年の経験分を加算しています」なら評価された額だと分かります
- ③金額でなく内訳を確認する。基本給がいくらか、固定残業代が何時間分含まれるか、手当のうち条件が変われば消えるものはどれか。額面が同じでも、この3点で手取りも将来の伸び方も変わります
交渉するなら、「金額」より通りやすいものがある
求人を作る現場の実感として、内定後に月給そのものを動かすのは簡単ではありません。提示額が社内の等級や既存社員とのバランスに紐づいており、担当者の一存で動かせる範囲が狭いためです。一方で次の2つは、比較的話が通りやすい傾向があります。
- 見直しの時期と条件を具体化してもらう。「入社何か月後に、何ができていれば見直しの対象になるか」。金額を動かすより、上がる仕組みを明文化してもらうほうが、企業側も答えを出しやすい質問です
- 手当や資格手当の適用可否を確認する。すでに持っている資格が手当の対象になるか、その支給条件を満たしているか。ここは基本給と違って個別に判断できることが多い部分です
そして、金額の質問にはっきり答えない、見直し条件を曖昧にしか言わない会社は、入社後の評価制度も曖昧である可能性があります。これも現場の実感です。提示額そのものより、その額の根拠を説明できるかどうかのほうが、その会社を判断する材料になります。なお、内訳や労働条件そのものに疑問が残る場合は、労働基準監督署や専門家にご相談ください。
そもそも提示額の妥当性が判断しづらいのは、多くの求人票が入口の額しか語らないからです。リクプルは「入社前から、リアルに分かる。」をコンセプトに、実際に働く人のインタビューと募集要項をセットで掲載しています。掲載中の求人一覧もあわせてご覧ください。
まとめ
- 提示額は「あなたの評価」より前に、その募集の入口の額で枠が決まっている
- 経験が入口の月給を動かす職種(施工管理・電気工事士)と、上限にしか出ない職種(営業・溶接工)に実測で分かれる。後者では経験があっても入口の提示は上がりにくい
- 資格は月給の下限をあまり動かしていない。評価してもらうなら資格手当の額を確認する
- 「アシスタント」「補助」の求人は、提示額が近くても基本給が大きく違うことがある
- 辞退・交渉の前に、①同職種の下限と比べる ②経験を評価した額かを聞く ③内訳を確認する
- 交渉は金額より「見直しの時期と条件」「手当の適用可否」のほうが通りやすい